14章 生配信中の殺人事件-1
2023/3/3 10:00
この日はのり子が朝から知人宅のベビーシッターに駆り出されていた。地域の婦人会があり、3歳と1歳の子供の面倒を昼過ぎまで見てくれと以前から頼まれていたからである。知人価格1割引きでのり子が引き受けたが、忠司と雅樹が反対することもなく予定通りのり子は自宅から直で依頼人宅へ向かった。
ピンポーン。
受付嬢のり子がいないときに限ってインターホンが鳴るのだ。しかし2人はそれを予想済で、ゆっくり立ち上がり入口へ迎えに行った。
佐野警部だ。
彼は今日、年末に発生していた事件の"相談"に来たのだ。本当は前に一度この事務所へ相談に来る予定だったのだが、早期解決できそうだったためキャンセルしていた。
つまり当初の予定を裏切り、捜査が難航しているというわけだ。警部は事件の調査と言って外出許可を得てここに来ていた。あながち嘘ではないが。
警部は緑茶派のため雅樹がお茶を用意したが、沸かしたてのお湯を使ったために飲みづらい上に風味が飛んでいた。
「のり子くんが淹れるお茶はおいしいのにな。」
「慣れてないんですもん、ちょうどのり子さん今出ていますから。」
のり子はお茶の淹れ方をきちんと熟知していた、お湯はある程度冷ましてからお茶の風味が飛ばないようにじっくりと準備するのだ。お茶は淹れ方で全然味が違うのよねと言っていたのを、二人のやり取りを見ながら忠司は思い出した。
「それで今日は何のご相談でしょうか?」
来客用ソファに座った警部の反対側に座った忠司が、隣に雅樹が座るのを確認してから問う。
「君たちは、MY・TUBEというサイトを知っているか?」
そのサイトは、俗にいう動画配信サイトだった。無料で登録でき、誰でも動画を投稿したり閲覧したりできる。近年のスマートフォンやパソコンの急速な普及で、今や若い世代はテレビよりもMY・
TUBEの視聴時間の方が多いという統計も出ているほどだ。
当然、忠司はパソコンで利用しているし雅樹も自身のスマホで閲覧している。そのサイトは企業からの広告料金で成り立っており、MY・TUBEの動画配信者は自身の動画に広告を載せることでその広告費の一部をもらえるのだ。今やMY・TUBEの広告費1本で生活する、MYTUBERと呼ばれる人たちも珍しくない。
警部が持ってきた相談、それはMYTUBERが生配信中に殺されたというものだった。
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
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※3/8 更新分です。