13章 事件と事故-45
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
「そういえば、黙秘権ってなんなのよ?アタシの大好きな刑事ドラマでもよく出てくるわ。」
「簡単に言えば、言いたくないことを言わなくていい権利だな。難しい言い回しだと"自身を不利にしてしまうような証言を拒否できる権利"となる。これは被疑者など"事情聴取を受ける側の権利"であり誰でも使っていい。黙秘権には取り調べる警察が自白を強要したりするのを防ぐ効果がある、例えば自分は無関係なのに『お前がやったんだろ?』という質問をされたとする。当然YESと答えたら犯人にされてしまうんだから、この質問は答えない=黙秘すると言った感じだ。」
「字の通りだと、黙り込むことでしょうか?」
「いや、不利だと思うことに使えばいいから他のことには普通に答えても問題はない。ただしデメリットがあって、警察側も情報を引き出そうと事情聴取をしているわけだ。しかし求める答えが黙秘権によってなかなか手に入らないと事情聴取が長引いたり、警察側がイライラして事情聴取の雰囲気が悪くなってしまったりする。」
「感情的になるのはいけないことだけど、警察も人の子ですものね。だからって、確証もないのにお前が犯人だろ?って決めつけるような質問もダメだけど。」
夫は真実を闇に葬りさってしまったのだ。
事情聴取から数日後、国が選んだ国選弁護士のDという男が夫の弁護人に就いた。弁護人は警察から事情聴取でのおおまかな状況を聞いており、夫が自分には真実を話してくれるものだと信じていた。だから彼は、夫の話してくれたことを聞き逃さないようボイスレコーダーも準備していった。
面会室で自分があなたの弁護を務めることになりました、よろしくお願いしますとDがあいさつした。しかし夫はどうも、とうつむき気味に答えるだけでずっとうなだれているようだった。
ここからはDの証言を元にする。
Dがすべてを話してほしいと頼むと、夫は今はまだ話せないとだけ答えたという。Dにはその言葉の意味が分からなかった。共犯の2人は捕まりほぼすべてを自白している、どう考えてもこの男が無罪放免で逃げ切ることはできないのだ。それともじきに協力者が現れるとでもいうのか?
夫は結局、妻の殺害を依頼したことは否定した。それならなぜ、BとCの証言はきれいに一致するのか?あなたは発見から通報までの約3時間なにをしていたのか?Dが警察と同じ質問をした途端、夫はまた黙ってしまった。その後の質問も要領を得ない態度だったため、Dはまた明日出直しますと告げ明日こそすべてを教えてほしいと頼み面会室を去った。
その日の夜、夫は自殺した。
いつも閲覧・評価ありがとうございます。感想・誤字の指摘などありましたらよろしくお願いいたします。
※2/27 更新分です。