13章 男と女の違い-19
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
「それはズバリ、"質問の内容"かしらね。」
「と、言いますと?」
「込み入った質問をしてくるかどうか、ね。例えば"好きな食べ物はなんですか?"みたいな漠然とした質問って誰にでも使えるじゃない?でも気になる人には"作ってもらって嬉しい食べ物は?"っていう聞き方をするかな、アタシは。」
「まぁたしかに、興味のない相手にはしなさそうな質問ですね。」
「あとは"休みの日は何してますか?"とかね。どうでもいい相手だったら、休みの日に何してようが関係ないからまずしない質問ね。もちろん鵜呑みにしないで、参考程度にお願いね。ただの話題として持ち出す人もいるから。そういう質問が飛び出す回数や頻度で図った方がいいかもね。」
妻が蛇口で手を洗っていると、久しぶりに見知った顔が個室から出てきた。もうしばらく美容室に来ていない、居酒屋の女将さんだ。お互いにあっ!という反応をした後、お久しぶりですと挨拶しながら並んで話し始めた。ここは男性用ファッション店の近くにあるトイレなので、女性客はあまり来ないために来店数の割に空いているのだ。
元気してる?と聞かれ、妻は新居に引っ越したことや美容室で自分の店を持つのが夢であることを話した。女将さんは気を使ってくれたのか暗い過去には触れず、夢があるって良いわねと明るく応援してくれた。
女将さんの方はお店を別の場所に移したらしい。酔っ払いの客に絡まれた一件で、どうしても悪い評判やよくない噂が流れてしまったようである。幸い知人がすぐ開いている店舗を見つけてくれて、もともと寿司屋だったというその店の内装を多少改装しただけで今は以前のように営業できているようだ。
今日は夫と久しぶりに二人でデートなんですよ、と告げると女将さんの表情が少し曇った気がした。
あれ、どうしたんだろう女将さん?一瞬だけど表情がすごくこわばったような?
しかし妻の勘違いだったのだろうか、いつもの笑顔で夫婦仲が良いようでなによりねと優しく言ってくれた。
女将さんはこれから夜のオープンに向けて料理の仕込みなどをするらしく、じゃあまたねと足早に去っていった。元気そうでよかったと思った妻だが、世間話に夢中になって女将さんの新しい店舗の場所を尋ね損ねてしまった。
妻はお手洗いを出ると、夫の元に向かった。
-女将さん、元気そうでよかった。そういえばショッピングセンターのある街だったっけ、女将さんが住んでいたのは。あとで美容室のお客さんにでも聞いてみよう。それにしてもあのショッピングセンター、広かったな。まともに全部見てたら1日じゃとても…足が棒になりそうな広さだったな。
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