13章 事件と事故-16
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
「ちなみに、殺された死体と自死を選んだ死体ってわかるものなんですか?」
「うーん状況によるな、あとは死因か。例えば首を絞められた場合。この場合は死体に"索条痕"という痕が残る。自分で首を吊ろうと首にビニール紐などを試しにかけてみろ、首の前側にだけ紐が当たるだろう?だが他人が首を絞めようとすると、首の後方の方まで痕が残る。そういう見分けるポイントみたいなものはあるな。当然ながら死んでから時間がかなり経過して腐乱が進むほど特定は難しくなるし、海や池に沈められて痛んだり野犬やカラスなんかに食い荒らされてしまうことだってある。どうしても司法解剖にも限界はあるな。」
「刑事ドラマとか見てると、そういう警察用語のお勉強にもなるから結構おもしろいわよね。アタシは好きよ。死斑って言うのよね、死んだ後に浮き上がるアザみたいなやつ。」
「おっ、よく知ってるな。」
夫はすぐに仕事を再開した、幸い今の時代はネットワーク上にデータを逃がしておくことができる。新しいパソコンを導入した夫はデータを復旧し、従業員のBとCもよく頑張ってくれていると評価していた。
皮肉にも隣町のショッピングセンターができたと同時に仕事が半減したが、その分夫婦の時間が取れるようになった。妻としては夫の仕事が減って残念な反面、子供を授かるなら今がチャンスだとも思った。夫のことだ、またなんとかして仕事が軌道に乗るときが来て忙しくなるだろう。ならば夫婦の時間が取れている今こそ子供を授かる絶好の機会ではないか?
美容室の同僚や店長にもそのことは隠さずに話すと、応援すると言ってくれた。なんといってもみんな女性だ、子供がほしい妻の気持ちは分かってくれた。そんな美容室が大好きな妻だったが、少し自分の店を持つという夢を考えると胸が痛くもなった。それは大好きなこの美容室とのお別れを意味するからである。
慰安旅行と称して従業員BやCと夫が旅行に出ることもままあった。妻はこの点は少し疑問だった、プレハブ火事や隣町のショッピングセンターの完成など夫の仕事に逆風なことが続いている。それなのに旅行なんかにお金・時間を使っていいものか?しかし夫は、時間が取れる今だからこそ英気を養わないと!忙しくなったらまた仕事漬けになってしまうからねと弁明した。
-やっぱり男の人って仕事第一なのかしら?私は早く子供が欲しいと思っているのに…焦っても仕方のないことだけど。こんな悩みも、子供ができるまでの贅沢な悩みなのかしら?
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