1章 アパレル女性 絞殺事件-13
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
いいでしょう、と雅樹がうなずき話を続ける。
「現場の靴箱の下に女物のピンクのボタンが落ちていたそうですね?これをさっき、あの鑑識の方に確認しました。そのボタンについていた指紋は…滝美野あずささん。あなたの指紋でした。」
あずさは唇を震わせながら、必死に反論する。
「そ、それが何だって言うのよ。そういえば…そういえば前に姫田先輩の家に遊びに行ったことがあったかな、多分そのとき落としちゃったのよ。そうよ、きっとそう!」
雅樹は滝美野と反対に、静かに首を振りながら反論する。
「それはあり得ません。あなたは職場で姫田さんにキツく当たられ、悩んで上司に相談したり配置換えを希望したりしていたそうじゃないですか。そんな相手の家に遊びに行きますか?それにあなた自身が警察の聴取にこう証言したと資料に残っていますよ、"姫田さんとはプライベートで遊ぶような仲じゃない"と。」
「それに…警部から"事件発生後駆けつけたとき、ブラウスの第3ボタンまで開けていた"と聞いたとき引っかかったんです。いくら暑いからって、第2ボタンはまだしも第3ボタンまでは開けないでしょう。あなたはあのとき第3ボタンを開けていたんじゃなく、締められなかったんだ。ボタンが取れてしまっていたからね。被害者が襲われて抵抗したときに体が擦れたか指で引っ搔いたかで、取れてしまったんだ。きっと気づいたのは警官が到着したあと、当然そのあと現場に許可なく入ることはできない。結果的に『遊びに行ったことないはずの部屋に、あなたのブラウスのボタンが落ちている』という不自然な状況ができてしまったんだ。」
滝美野あずさは、黙っている。どう反論したらいいかと言った具合だろうか?そんなあずさを見つつ、雅樹は続ける。
「滝美野さんの部屋を家宅捜索すれば、第3ボタンのないブラウスが見つかるかもしれません。人間っていう生き物は"もしこれが見つかったらどうしよう"と思うものは、なかなか手放せないものですから」
「もういいわ。」
滝美野あずさが諦めたように、フッと寂し気に笑った。
「そうよ、私が姫田先輩を殺したの。ブラウスのボタンがなくなっていることに気づいたのは、洗濯したときよ。おかしいと思ったの、聴取の途中で男性警官が女性警官に変わったからね。洗濯した第3ボタンのないブラウスを見て、警官が交代した意味を理解してサーッと血の気が引いたわ。だから普段からセクシーな女なんだとみんなに印象付けようと思って、今日もわざと露出の多いドレスを着たのよ。」
うなだれながら署まで連行されていく滝美野あずさの後姿を見ながら、忠司が言った。
「おい雅樹、いつまでピースサインしてるんだ?」
22/12/02 全体的に体裁を修正。(会話文の後を改行)
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