13章 男と女の違い-10
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
「そうねぇ、事件概要と詳細を一通り見た感じはやっぱりご両親の不在中に起きた不慮の事故って感じかしら?最上階の角部屋で隣人も不在、屋上は鍵がかけられていて何者かがフェンスなどを越えた形跡もないみたいだし。」
「風船などからも父親と娘の痕跡しかないみたいですし…いくら手袋や靴下で痕跡を残さないようにしていたとしても、昼間の15時ですからね。玄関をこじ開けたりベランダから出入りしたりすれば不審すぎてさすがに誰かが目撃しているでしょうね。」
「俺の調べた限りではこのマンションの向かいは2階建ての戸建てが並ぶ住宅街だったようだ。警察が一応軽く聞いて回ったが、やはり屋上や女児のいたベランダに不審な人影はなかったそうだよ。」
「そうねぇ、子供の保険金が入ってすぐ新築を建てる夫が信用できない妻の気持ちも分かるけど。いつまでも事故のあった部屋にいたくないって気持ちが夫にあったのかもしれないわね。」
「そこは人によって分かれますよね。一緒に住んでいた家だから離れたくないって人と、もう終わったことだから心機一転あたらしい環境で頑張ろうという人と。」
妻が美容室で働き始めてしばらく経った頃、ふと気が付いた。半年ほど前に夫のことを軽く耳打ちで忠告してくれた居酒屋の女将が、最近来店しないのである。以前は2か月に1回ほどのペースで接客していたのに最近めっきり見なくなったため、それとなく同僚に聞いてみた。
「あの女将さんね、ちょうど半年くらい前にケガしちゃったみたいで…。それからは見てないわね。でもこういう客商売ではよくあることよ、常連さんの知人がお店開いたりしたらそっちに通いだすとか。」
たしかに女将さんの住んでいるお店から妻が働いている美容室へは車で20分ほどかかる。近くにもっと良いお店を見つけたのかもしれない。妻は少し残念に思った。
夫の方の仕事も順調だった。夫の話では3か月ほど前に雇った二人の従業員用のためにとプレハブ小屋を会社の敷地に作り、休憩所兼作業場として活用しているという。妻としてはそろそろ子どもが欲しかったが、夫の仕事が軌道に乗り始めた今言い出しても負担になるだけだと思い黙っていた。もう少し落ち着いてからにしよう、と。
-何かが始まるということは、同時に何かが終わるということ。人生とはきっとその連続。小学校を卒業すれば中学生としての生活がスタートするし、結婚すれば独身生活が終わる。女将さんだってうちの店に来なくなったけど、その分違う店に通うようになったんだ。そしてあの子もきっと、今頃どこかに生まれ変わっているのかな?
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