1章 アパレル女性 絞殺事件-12
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
雅樹が引き続き話す。
「では次に山上さん、まず先ほど鑑識の方と話した結果、現場の靴箱の上にあったイヤリングはあなたのものだと判明しました。間違いありませんね?」
山上は苦々しそうに口を開く。
「…事件の前の週に彼女の家に泊まって、風呂に入るときに外したんだ。そのあと帰るときに片方置き忘れてしまった。それを取りに行くのもあって俺は会いに行った。だが俺は殺してない!痴話喧嘩になって、頭にきて、頭を冷やそうと彼女の家を出て…喧嘩のことで頭がいっぱいでイヤリングも忘れてしまった。」
雅樹は山上が話し終わるのを待ってから、口を開く。
「正直、オレもあなたのことを最後まで疑いました。ただあなたは"アリバイがない"から犯人ではないと思いました。だってそうでしょう?不倫していたことも事件直前に被害者に会っていたことも、足跡などからすぐにバレていました。もしあなたが犯人なら、まず真っ先に疑われるだろう自分を守るためになんらかのアリバイを作るか、現場への偽装工作をするはず。イヤリングだって置きっぱなしという点も逆におかしいと思いました、あなたが犯人なら間違いなく持ち去るはず。もっともヘンに嘘ついてボロが出るよりはと考えた可能性もありましたから、あなたへの疑いは捨てきれずにいました。」
「でも…犯人はあなたじゃない、滝美野あずささんです。」
滝美野はすかさず反論する。
「ちょっと待ちなさいよ!まさか消去法で私が犯人だとでもいうつもり?アリバイがないのも、犯行可能なのもここにいる他の3人だって一緒じゃない!」
その通りです。そう雅樹はうなずいて続けた。
「でもオレはあることに気づいて、滝美野さんが犯人だと気づきました。あなたは"悲鳴を聞いて、2階の被害者の部屋に駆けつけた"と証言したそうですね?」
だが滝美野は強気だ。
「何がおかしいのよ?同じ会社だから声は姫田先輩のだって当然分かるし、私は下の階に住んでるのよ?聞こえて当然じゃないの!」
それに対して雅樹は首を振る。
「残念ですが…あなたが被害者の悲鳴を聞くのは2つの理由であり得ない。」
滝美野は今にも噛みつきそうな勢いだ。
「どういう意味よ?納得いく説明をしなさいよ。」
雅樹は人差し指を立てながら言う。
「一つ、事件発生当時は強風・大雨・落雷の3段構えだった。現に203号室の梶原さん宅の小型犬が驚いて暴れるくらいにね。」
滝美野はすかさず反撃する。
「常に雷がなってたわけじゃないし、私は下の階よ!たしかに聞こえたのよ。」
雅樹は中指を立て、ピースサインを作りながら言う。
「もう一つの理由、それは被害者の死因が"絞殺"だからなんですよ。」
滝美野を始め一同ハッとした表情になる、雅樹は続ける。
「そう、喉を絞められたんです。声を出すための、喉を。そんな状態で大雨・落雷警報が出ている悪天候の中でも聞こえる声量で、人間は悲鳴が出せるんでしょうか?」
滝美野あずさは地面を見つめ、両手で拳を握りながらジッとしている。誰が見ても今の彼女は動揺を隠しきれていなかった。
駆けつけた警察に簡単な事情聴取をされたあの時、彼女の部屋に行った自然な理由が必要だった。理由なく部屋を訪れたら偶然死体がありました?そんなこと言えるわけない、怪しすぎる。
そこで咄嗟に"悲鳴を聞いて駆けつけたら、倒れていたから通報した"と言ったのだ。それならごく自然な流れだ、そう思ったのに。
「…そこまで言うなら証拠を出しなさいよ。私の指紋や姫田先輩の皮膚が付いた凶器でも出てきたのかしら?」
滝美野は地面を見つめたまま努めて冷静を装った言い方をしたが、誰の耳にも分かるほど猛烈な怒りがこもっていた。
22/12/02 全体的に体裁を修正。(会話文の後を改行)
いつも閲覧ありがとうございます。感想・評価・指摘などありましたらよろしくお願いいたします。