12章 あけましておめでとう-3
※この話はすべてフィクションであり、実在の人物・地名・事件・建物その他とは一切関係ありません。
2023/1/4 10:00
「概要を聞く限り、普通に考えたら怪しいのは車内販売員の女性よね。被害者とも恋人関係だったようだし、販売員なら手元に注射器を隠して置いて渡す前にチューっと混入させることができるわけだし?」
「それなら事件は単純でしょうね、忠司さんが問題に出すくらいだからきっと他に…。例えば、隣の席の女性とか。『毒は飲む直前に混入された』とは言っていなかったから、被害者がトイレにでも立った隙に隣に座った人もできる。同様のチャンスが前の二人にもあったわけだ。」
「そうよね。一旦車内販売でお茶を買っておいて、いざ被害者が他の飲み物を買ったときに自分はやっぱりお茶の気分じゃないとか言って交換してもらうという手もあるわね。それなら正真正銘、全員容疑者よね。」
のり子と雅樹がさっそく意見交換を始める。それがいったん落ち着くのを待って、忠司はそれぞれの容疑者の動機を語り出した。
まず、車内販売員の田所よしみさん。被害者とは恋人同士で付き合って3年で、結婚も考えていると周囲の同僚などに話していたという。最近大きな喧嘩をするということもなく、関係はいたって良好だったようだ。しかし被害者はいわゆる"モテ男"であり、それを心配していたという声もあった。
次に被害者の隣の席に座っていた高橋明美さん。高校時代からの友人で、当時から男女の良き友達として一緒に行動することも多かったという。ゴルフは半年前に何か趣味を、と専用のSNSアカウント共にスタートした。すると偶然被害者と連絡がつき、年末年始の里帰りも一緒に行くことになったという。この日も学生時代の頃の話で盛り上がっていたそうだ、この人にも目立ったトラブルは見られなかったが、表沙汰になっていなかっただけかもしれない。
そして被害者の前の席にいた小田切健太さん。もともとゴルフは趣味で、仕事で知り合った被害者にゴルフを進めたのも彼だった。実はこの人は会社の金400万円を使い込んでいたことがあり、それを被害者に建て替えてもらったことがあった。しかし最近は被害者から『彼女との結婚を考えていてその資金にしたいからそろそろ返してくれ』と迫られていたそうだ。
最後に被害者の斜め前に座っていた山本町子さん、被害者と直接顔を合わせたのはこの日が初めてだったと言っていた。彼女は限定とつく商品に弱く、車内販売限定商品に目がなく予約もそれに合わせたと言っていた。車内販売がない列車もあるからな。意外だったのは田所さんとは友人関係だったようで、多少私語を交わしていたという。
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