五十二話 道化蜘蛛は人形で遊びます!
バラバラになってしまったガイコツの体は、その全てが俺に襲いかかって来た。
五つに分かれたガイコツを全て処理するのは至難の業。俺はいよいよ攻撃どころではなくなってしまった。
「くそ! これじゃ!」
ガイコツに削られてしまっているのを感じる。このままでは、考えたくはないが、やられてしまうこともあり得るだろう。それほどに大剣は手数で不利になってしまうのだ。
二人はどうしているだろうか? もう様子を見る余裕さえない。ミヤビはまだいいが、俺と同じく小回りの利かないトルクが心配だ。
しかし、謎だ。モンスター名はないし、動き方もかなり特殊だ。こんなバラバラになって襲ってくる敵なんて……。
もしかしたら、トラップか何かなのかもしれない。ここに安易に足を踏み入れてしまった俺たちのようなプレイヤーを排除するための罠。
視界の縁の方に、さっきまで案内してくれていた光の球が浮かんでいる。あれももしかしたら罠なのかもしれないと勘ぐってしまう。
光の球は上下に浮いたり沈んだりしながらあちこち動き回っていた。ガイコツの後ろをちらちらと飛び回るものだから、煩わしい。
チカチカと眩しい光がまたガイコツの後ろを通り過ぎた時だった。一瞬変わったものが見えた。
「ん?」
細い筋が何もないはずの空中に一本。光に照らされて浮かび上がったのだ。
細い細い筋は、上下に伸びており、下の方は、なんとガイコツにつながっていた。
「あれはなんだ?」
ガイコツの攻撃を防ぎながらも、注意深くその線を観察していると、大体法則性はつかめてきた。
線は一本ではなく、何本もあって、そのすべてがガイコツの身体につながっていた。ガイコツの動きが止まったときは、線はみんな緩んでしまい、また動き出すときに強く張った。
まるで、糸がガイコツを動かしているかのようだ。
「いや、まさか本当に?」
まるでじゃない。本当にガイコツは糸で動かされているのではないか? それだと納得がいくことがいくつかある。
モンスター名の表示がないことも説明がつく。このガイコツは糸で操られているだけで、それ自体が意志を持ったモンスターではない。ただのものなのだ。
バラバラになるのだって、糸で操られているからこそできる芸当だ。それぞれのパーツが別々の糸で操作されていたのだろう。
それが分かってしまえば、対抗策もおのずと見えてくる。
「ミヤビ! 余裕はあるか?」
「あるかないかでいえば、ないです!」
「ファイアロッドを取り出すくらいの余裕はないか?」
「どうしてそんなこと言いだすのかは分かりませんけど、それならどうにかやれそうです。」
ミヤビは、普段「ファラオロッド」を使っているが、背中には前まで使っていた火の杖、「ファイアロッド」もさしてある。
この「ファイアロッド」がカギとなる。
「じゃあ、それでガイコツの後ろを焼き払ってみてくれ。」
「へえ、なんかよく分かりませんけど、やってみますね。」
ミヤビの様子は見る余裕がなかったが、火が明るく燃え上がったのはすぐだった。
薄暗い洞窟がパッと明るくなった。ミヤビは言う通りにしてくれたらしい。
「ロータスさん! 不思議です、ガイコツが動かなくなっちゃいました! 地面に寝そべってます。」
やっぱりだ! 俺の予想通り、操っていた糸が焼き切れてしまい、ガイコツは地面に倒れてしまったのだろう。
一気に窮地を脱することができる!
「じゃあ、俺とトルクのガイコツにも頼む!」
「分かりました!」
自由になっていたミヤビは簡単に後二体のガイコツの後ろも焼き払ってしまった。
三体とも動かなくなってしまったガイコツを目の前に、俺たちは息も絶え絶えだった。
「しかし、最後まで謎でしたよね。結局このガイコツたちは何だったんでしょう?」
「何者かに糸を使って操られていた、ただの屍だよ。」
「え、何者かがって……」
「ズドォォォォン!!」
轟音が響いたので、最初は天井が崩落したのかと思い頭をかばったが、そうではなかった。顔を上げると、目の前には巨大な影があったのだ。
とっさのことで、一瞬理解が追いつかなかったが、俺の目の前にある顔は、まさしく蜘蛛のそれである。
「こいつがガイコツを操っていた、その”何者”ですよ!」
蜘蛛は、今いる空間の四分の一は埋めようかというほどの大きさだった。黄色と紫の棘がちな体は毒々しい。
こいつはモンスターらしく、右上にちゃんとモンスター名が表示されていた。名前は、「スリット・ザ・クラウン」。言われてみれば確かに、道化のような見た目をしている。
クラウンは俺たちの方ににじり寄ってきた。
「攻撃してくるぞ!」
俺たちは、素早く防御態勢を整えたが、攻撃してくる気配はなかった。
俺たちの目の前までやってきたのだが、目的は俺たちではなかったらしい。
「ピッピッピッピッピッピッピ。」
甲高い鳴き声で泣くと同時に、クラウンはその足から糸を出した。
糸は一直線に俺たちが動かなくしたばかりのガイコツのもとに飛んでいき、くっついた。するとどうだろう。
「カタカタカタカタ。」
ガイコツが再び立ち上がってしまったのだ!




