一話 盗賊になったけど大剣しか装備出来ませんでした!
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最近流行りのVRゲームを買ってきた。今まではどうせ幻のような虚しいものだと敬遠していたが、友人に強く勧められて今回デビューしてみることにしたのだ。
ゴーグルをつけるだけでいいというから、むしろ普通のゲームよりも簡単に思える。
参加するゲームは『プライムフロンティア』というオンラインのRPG。このジャンル自体は昔からずっと好きなので楽しみだ。
今ちょうどゴーグルを買ってきたところ。敬遠していたくせに、今は早く始めたくて仕方がない。
さっそく俺はゲームをセッティングしてゴーグルを装着した。
暗い画面がどんどん明るく、鮮明になっていく。やがてゲームのロード画面が現れた。
目の前には案内らしきキャラクターが立っていた。小さなドラゴンだ。彼は俺に話しかけてきた。
「ようこそ! プライムフロンティアの世界へ。さっそくだけど、君のことを教えて欲しいな」
どうやら最初の設定のようである。
「名前はなんていうの? 」
どうしようか……俺は上木蓮だから名前の蓮からとって
「Lotusだ。」
「Lotusっていうんだね! じゃあ次は職業を選んでね!」
ドラゴンがそう言うと、俺の目の前に職業一覧が出てきた。戦士や魔法使い、僧侶などが並んでいたが、俺はこういった定番は好きじゃない。ちょっと変わり種、そう、ちょうど……
「盗賊にしよう!」
このゲームでは職業をコロコロ変えることはできない。だからこそみんなあまり冒険はせずに定番を選ぶことが多いそう。
だからこそあえての盗賊である。人と違うことこそ価値なのだ。
そのあと、俺のゲーム内でのビジュアルを決定した。あまり現実と変えても、逆に自分感がなくなって楽しめなくなってしまいそうなので、髪の色だけを銀に変えた。
「じゃあ最後にスタート地点を決めてね。イーストエリア、ウエストエリア、サウスエリア、ノースエリアの中から選べるよ!」
これは正直どうでもいい。俺が住んでるところにちなんでウエストエリアにしておいた。
「じゃあ君のスタート地点はウエストエリアの六番地に決定だよ! これからの冒険、力いっぱい楽しんでね!」
そう言い残すとドラゴンは画面の外に消えていった。
画面が移り変わると、俺は広場にいた。中央には噴水が置かれてあり、人がとにかくたくさんいる。下を見てみると、自分の体があった。初期装備の格好をしている。
凄いものだ。正直舐めていたが、こんなにもリアルだとは。体を動かす感覚も、現実とほとんど変わらない。
腰のポーチに地図が入っていた。俺が送り込まれたこの地点周辺の地図だ。ギルドの場所、武器屋、防具屋、道具屋など。RPGに必要なものがおおよそ揃っているようだ。
まずは装備を揃えないといけない。装備がなければ戦えたもんじゃないし、何も始まらないのだ。
武器屋は、ゲーム画面の中の建物がそのまま目の前に飛び出してきたような風情。木造の建物の扉を開ければ、中には気のよさそうなおじさんがいた。
「おう、いらっしゃい」
「こんにちは、あの……」
このおじさんはおそらくゲーム側のコンピュータだろうが、だからこそどんなふうに話しかければいいかが分からない。
ドギマギしていると、彼の方から話しかけて来てくれた。
「まあ見ていきなよ」
そういうとおじさんは武器一覧を示してくれた。
盗賊といえばやはり短剣だろう。短剣、短剣……あった!果物ナイフ、短剣で一番最初の武器だ。始めに持たされている1,000ゴールドのうち、250ゴールドを支払って購入しようとした。
が、そこでおじさんが予想外の一言を放った。
「おや、この武器は兄ちゃんには装備できないみたいだが、それでも構わないのかい?」
は? 盗賊が短剣装備できないわけがないだろう。ここに来る間も何人か盗賊らしきプレイヤーを見てきたが、全員短剣を装備していたぞ。何かの間違いだろう。
しかし何度試してみても同じだった。
「おや、この武器は兄ちゃんには装備できないみたいだが、それでも構わないのかい?」
そればかりをおじさんは繰り返す。
もういい。ひとまず短剣は諦めよう。他の武器をとりあえず買っておかなければ。片手剣だ。一番オーソドックスで使い勝手がいい。初心者向けの武器だ。
「おや、この武器は兄ちゃんには装備できないみたいだが、それでも構わないのかい?」
なんでだよ! 片手剣って確か魔法系の職業以外は全職装備可能じゃなかったか? 明らかにバグだろ。
他にもいろいろ試した。弓だの槍だの棍だの。しかし全てダメだった。
「おや、この武器は兄ちゃんには装備できないみたいだが、それでも構わないのかい?」
もううんざりするほどこのセリフを聞いた。
あと残っているのは……杖と大剣だ。杖はそもそも魔法がほとんど使えない盗賊には絶対いらない。するとあとは大剣しか残っていない、が、これもきっとダメだろう。大剣で唯一置いてあった石の大剣を選んでみた。
「おう! それじゃあ250ゴールド頼むぜ」
ああ、やっぱり……って、え? 買えるの? 盗賊なのに?
よく分からないまま250ゴールドを払った俺は、石の大剣を背負って武器屋を後にした。