死神と死を見る青年 最終話 杉並孝太郎編
あぁ、またこの夢か。
私達死神は睡眠をとる必要がない。
だから、今まで夢を見たことがなかった。
だけど、孝太郎の所に来てから寝るようになって、たまにだが同じ女の子と男の子の夢を見るようになった。
女の子「お兄ちゃんの嘘つき!もう知らない!」
男の子「おい!待てよ!かなえ!」
そうか、この子達は兄弟だったのか。
そして、この女の子の名前はかなえちゃん。
かなえ「お兄ちゃんの嘘つき。明日は一緒に遊ぶ約束だったのに。」
かなえは泣きながら道を走っていた。
その時。
そうだ、ここで私は車にひかれるんだ。
そうか、この子はかなえは私だったんだ。
この子が死んで、私は死神として生まれ変わったんだ。
?「ネム。ネム。」
ネムは誰かが呼ぶ声で目を覚ました。
孝太郎「おっ。ようやく起きたな。おはよう。珍しいね。ネムが寝坊なんてってどうした?怖い夢でも見たのか?」
そういうと、孝太郎はネムの頭を撫でた。
ネム「大丈夫だ。すまない。迷惑をかけた。だから、その、手をどけてくれないか?」
孝太郎「あぁ。悪い。つい癖で、妹が泣いた時によくやってたから。」
ネム「孝太郎には妹がいるのか?」
孝太郎「あっ。まぁね。それより、早く行かないと遅刻するぞ。」
ネム「あっ。うん。わかった。」
俺達は支度を済ませて家を出た。
学校に着き、下駄箱を開けた時、中に手紙が入っていた。
ネム「どうかしたか?」
孝太郎「えっ。いや、何でもない。」
俺は咄嗟に手紙を後ろポケットに隠した。
どうして、隠したのか自分でもわからない。
なんとなくネムにバレたくなかったのかもしれない。
昼休み
真倉香織「ネムさん。」
ネム「ん?香織か。」
香織「ネムさん一人ですか?」
ネム「あぁ。孝太郎は友達と行ってしまってな。」
香織「そうですか。」
ネム「ちょうど良かった。香織に聞きたいことがあったんだ。」
香織「なんですか?」
ネム「今日の朝、孝太郎の下駄箱に手紙が入っていたんだ。それを孝太郎は私に隠したんだが、何故だと思う?」
香織「手紙ですか、それはもしかしてラブレターではないでしょうか。」
ネム「ラブレターとはなんだ?」
香織「えっと。ラブレターとは好きな異性に対して自分の気持ちを書いた手紙のことです。」
ネム「つまり、孝太郎のことが好きな誰かが手紙を下駄箱に入れたということか。だけど、どうして孝太郎は隠したんだ?」
香織「えっと。それはわかりませんが、ネムさんにバレたくなかったことは確かですね。」
ネム「そうか。」
香織「孝太郎さんが誰かに好かれるのも、わかりますね。孝太郎さんは優しいし、文化祭の時のバンドもカッコよかったですから。」
ネム「香織も孝太郎が好きなのか?」
香織「そんな。私なんて全然。孝太郎さんと釣り合いませんよ。」
ネム「そうか。」
私はどうしてこんなにもモヤモヤしているんだ。
放課後
ネム「孝太郎。帰るか。」
孝太郎「あっ。ごめん。ちょっと用事があるから先に帰っててくれないか?」
ネム「そうか。わかった。」
そういうと孝太郎はどこかに向かって行った。
私は悪いとは思ったが、孝太郎の跡を追った。
孝太郎は校舎裏で一人で立っていた。
しばらくして、一人の女の子がやってきた。見たことない子だった。
女の子「あの。いきなり手紙を送ってしまってすみませんでした。」
孝太郎「いや。手紙なんて初めてもらったから嬉しかったです。それで、手紙の返事だけど。」
女の子「はい。」
孝太郎「ごめんなさい。他に気になっている子がいるんです。」
女の子「そうですか。わかりました。」
孝太郎「本当にごめんなさい。」
そういうと孝太郎はその場から立ち去った。
それを見ていた私はほっとしていた。
孝太郎に会ってから私はいろいろなことを考えて、思うようになった。
前まではこんな感情はなかった。
それ故に、ネムは戸惑いを感じていた。
自分でも初めての感情。
どうすればいいのか。
孝太郎のことを想うと心が痛い。
ネムはこのことを誰かに相談したくてある場所に向かった。
里夏「いらっしゃいませ!ってネムちゃん。珍しいね。一人?」
ネム「あぁ。少し話がしたいんだが。」
里夏「いいよ。いいよ。席について待ってて。」
しばらくして里夏がやってきた。
里夏「ネムちゃんから話なんて珍しいね。何かあったの?」
ネム「実は自分でもこんなことは初めてで、どうすればいいのか、悩んでいるんだ。」
里夏「それで、何を悩んでるの?」
ネム「今日、孝太郎宛にラブレターを送った子がいて。その子は振られてしまったんだが、それを見て私はほっとしていたんだ。」
里夏「なるほどね。それじゃあ、ネムちゃんに質問。」
ネム「なんだ?」
里夏「もしも、孝太郎君がその女の子と付き合ったらどう思う?」
ネム「…。祝福する。」
里夏「心から祝福できる?」
ネム「孝太郎が決めたことなら私は何も言わない。」
里夏「それで納得できる?」
ネム「納得するように努力する。けど、なんだろう。やっぱり、少しいやだな。」
里夏「うん。それでいいと思うよ。ネムちゃんは恋をしてるんだね。」
ネム「恋。私が、孝太郎に?」
里夏「うん。」
ネム「そんな、私が。」
私が恋をしている。
孝太郎に。
里夏に言われて納得している自分もいる。
それと同時に悲しい気持ちになった。
だってこの恋は実らない。
私は死神で、孝太郎は人間。
相容れることはない。
だから、この気持ちは私の心の中に留めておこう。
それからしばらくして。
孝太郎「ネム。今週末何か予定ある?」
ネム「何もないが。どうした?」
孝太郎「いや、実は里夏さんに遊園地のチケットをもらって。」
ネム「遊園地のチケット。」
孝太郎「友達と行く予定だったらしいんだけど、その日別の予定が入ったらしくて。それで、里夏さんがネムと行って来いって。」
ネム(里夏のやつ。余計なことを。)
孝太郎「それで、どうする?」
ネム(まぁ。今まで通りにやれば大丈夫だろ。)
ネム「あぁ。大丈夫だ。」
孝太郎「それじゃあ、よろしくな。」
そして当日。
孝太郎「そろそろ行く?」
ネム「悪いが、先に行っててくれないか?30分後に駅前で待ち合わせしよう。」
孝太郎「えっ、なんで?一緒に出ればいいじゃないか?」
ネム「いいから、先に行っていてくれ。」
孝太郎「わかったよ。」
孝太郎はしぶしぶ部屋から出ていった。
ネム「ふぅ。これで本当にいいんだろうか。」
昨日、里夏からネムにデートで上手くいくやり方という内容のメールが届いた。
これをすれば間違いないらしい。
ネム「せっかく里夏が考えてくれたんだし、実行してみるか。」
30分後
駅前で孝太郎がネムを待っていた。
ネム「お待たせ。」
孝太郎「それじゃあ、行こうか。」
ネム「待ったか?」
孝太郎「ネムが30分後に待ち合わせとか言うから本屋で立ち読みしてたよ。」
ネム「そこは、今来たとこじゃないのか?」
孝太郎「えっ。」
ネム「いや、何でもない。」
二人は電車の切符を購入して電車に乗った。
孝太郎「よくよく考えてみると二人で遊びに行くのは初めてだね。」
ネム「そうだな。」
そうこうしてる間に遊園地に着いた。
孝太郎「何か乗りたい乗り物ある?」
ネム「初めてだから、孝太郎に任せる。」
孝太郎「そっか。じゃあ適当になんか乗ろうか。」
ネム(えっと。次はどうすれば、いいんだったかな。)
里夏メモ
お化け屋敷で怖がって女の子らしさをだそう!
ネム(お化け屋敷か。)
ネム「孝太郎!お化け屋敷に行こう。」
孝太郎「えっ。わかった。」
二人はお化け屋敷に入った。
孝太郎「お化け屋敷なんて何年ぶりかな。」
ネム「…。」
お化け「わぁ~。」
孝太郎「うわっ。びっくりした~。」
ネム「…。こっ怖い。」
孝太郎「えっ。あまり怖がってなさそうなんだけど。」
ネム「そんなことはない。怖い、すごく怖い。」
孝太郎「わっ、わかった。」
それからもお化けが出る度にネムは怖いと言っていたが、全然そんな風には見えなかった。
孝太郎「ふぅ。なんか疲れたな。」
ネム「そうだな。」
ネム(これで、孝太郎に女の子らしさをアピールできたかな。)
それから何個か乗り物に乗りお昼になった。
孝太郎「昼飯どうしようか。遊園地内のレストランに行く?」
里夏メモ
お昼は手作り弁当で料理が出来るのをアピール!
ネム「お弁当を作ってきたんだ。」
孝太郎「えっ。本当に!ありがとう。」
ネム「そこのテーブルで食べよう。」
ネムは孝太郎に弁当を渡した。
孝太郎「さて、中身はなんだろう。」
孝太郎は弁当の蓋を開けた。
孝太郎「これって。」
ネム「オムライスだ。」
ネム「初めて作ったからあまり自信はないが。」
孝太郎はオムライスを食べた。
孝太郎「うん。美味しい。」
ネム「そうか。良かった。」
孝太郎「まさかネムがオムライスを作ってくるなんて、驚いたよ。オムライスは子供の頃、俺が初めて作った料理なんだ。」
ネム「そうか。」
ネム(あの夢の中の男の子、つまり、私の兄もそうだったな。)
孝太郎「ご馳走さま。美味しかったよ。」
ネム「それなら良かった。」
ネム「次はどうしようか。」
孝太郎「ん?あの子どうしたんだろ。」
孝太郎が見ている先に小学校の低学年ぐらいの女の子が泣いていた。
孝太郎「ちょっと行ってみよう。」
ネム「あっ。孝太郎。」
孝太郎「どうしたの?なんで泣いてるのか教えてくれないか?」
女の子「お兄ちゃんとはぐれちゃたの。」
孝太郎「そっか。お兄ちゃんと二人で遊園地に来たの?」
女の子「うん。でも、さっき人がたくさんいる所ではぐれちゃて。」
孝太郎「そっか。じゃあ、俺がお兄ちゃんを探してきてあげるよ。」
女の子「本当!」
孝太郎「うん。それまでここでこのお姉ちゃんと待っててくれるかな?」
女の子「うん。」
孝太郎「君の名前は?」
愛「あい!」
孝太郎「愛ちゃんか。いい名前だね。お兄ちゃんは?」
愛「たける。」
孝太郎「たける君ね。お兄ちゃんはどんな服を来てるのかな?」
愛「うんとね。黄色い服で青色の帽子をかぶってたよ。」
孝太郎「黄色い服で青色の帽子か。わかった。それじゃあ、行ってくるね。ネム。悪いけど、愛ちゃんを頼むな。」
ネム「わかった。」
そういうと孝太郎はたける君を探しに行ってしまった。
愛「お兄ちゃん見つかるかな。」
ネム「大丈夫だ。孝太郎なら絶対見つけてくれる。」
愛「ネムお姉ちゃんはあのお兄ちゃんのことが好きなの?」
ネム「なっ。どうしてそう思うんだ?」
愛「うーん。なんとなく。」
ネム「あはは。なんとなくか。」
愛「愛はね。お兄ちゃんのこと好きだよ。将来はお兄ちゃんのお嫁さんになるの。」
ネム「そっか。」
それからしばらくして孝太郎はたける君を連れてきた。
たける「愛!ごめんな。」
愛「ネムお姉ちゃんと一緒だったから大丈夫だよ。お兄さん。たけるお兄ちゃんを探してきてくれて、ありがとう!」
孝太郎「もう離れたら駄目だよ。」
愛「うん。ネムお姉ちゃんもありがとう。」
ネム「あぁ。見つかって良かったな。」
愛「ネムお姉ちゃんも頑張ってね!」
そういうと二人は去っていった。
孝太郎「愛ちゃんとどんな話をしていたの?」
ネム「女の子同士の秘密だ。」
それから時間はあっという間に過ぎ、夕方。
里夏メモ
最後は観覧車に乗って告白!これで絶対上手くいく!頑張れ!
ネム「最後に観覧車に乗ろう。」
孝太郎「わかった。」
二人は観覧車に乗った。
孝太郎「いや~。今日は楽しかった~。久しぶりにおもいっきり遊んだ。」
ネム「それなら良かった。」
孝太郎「里夏さんにお礼を言わないとな。」
ネム「そうだな。」
ネム(告白。でも、私は死神で孝太郎は人間で、私が告白しても孝太郎に迷惑をかけるだけなのではないか。)
その時、さっきの愛ちゃんの言葉をふと思い出した。
愛「愛はお兄ちゃんが好き。」
ネム(そうだ。いろいろ考えるのは告白した後でいいだろう。)
ネムは告白する決心をした。
孝太郎「ネムとは出会ってからいろいろなことがあったな。」
ネム「えっ。そうだな。」
孝太郎「ネムといると俺の妹のことを思い出すよ。」
ネム「妹。そういえば、孝太郎には妹がいるんだったな。」
孝太郎「いや、いたんだ。子供の頃に死んでしまったんだ。」
ネム「そうだったのか。」
孝太郎「俺は駄目な兄貴だったよ。妹とはかなえとは喧嘩をしてそのまま死んでしまった。」
ネム「えっ。かなえ?妹の名前はかなえというのか?」
孝太郎「あぁ。」
ネム(まさか、こんな偶然があるなんて。まさか、私の兄が孝太郎だったなんて。そんな。)
孝太郎「ネムを見てるとなんだか、かなえを見ているような気持ちになってたんだよな。」
孝太郎「かなえとあんな形で死に別れてしまったせいもあって、死の首輪が見えるようになってから少しでも力になれればいいなと思うようになったんだ。」
孝太郎が何か喋っていたがネムにはその話が頭に入ってこなかった。
それからはあまり覚えていない
次の日
通学中
ふーこ「先輩!おはようございます!」
ネム「ふーこ。朝から何のようだ?」
ふーこ「久しぶりに会いに来たんじゃないですか!たまにはふーことも遊んで下さいよ。」
ネム「私は今から学校なんだ。孝太郎も黙ってないでなんとか言ったらどうなんだ?」
孝太郎「えっ。ふーこ?何処にいるんだ?」
ネム「何を寝ぼけたことを言ってるんだ?私の隣にいるじゃないか。」
孝太郎「隣。いや、見えない。」
ネム「なっ。」
ふーこ「どうやら、杉並孝太郎から死神の力が徐々に消え始めているようですね。」
ネム「死神の力が?」
ふーこ「私が見えないのがその証拠です。まぁ本来人間が持っていてはならない力ですからね。これでようやく先輩の観察役としての仕事も終わりですね。お疲れ様でした。」
ネム「ふーこ。このことは私が直接上に連絡する。だから、お前は黙っていてくれ。」
ふーこ「わかりました。それでは、ふーこは失礼しますね。」
孝太郎「ネム。俺に何が起きているんだ?」
ネム「孝太郎から死神の力が消え始めているみたいです。」
孝太郎「そうか。だから、ふーこの姿も声も聞こえなかったんだな。まぁ元々なかった力だからな。いつかはこうなるんじゃないかと思っていたよ。」
ネム「もうしばらくはこのまま様子を見ることにします。一時的なものかもしれませんし。」
孝太郎「わかった。」
それから数日が経ち、異変は起きた。
橘花「あっ。孝太郎君。久しぶり。最近公民館に来ないじゃない。たまには来なさいよ。」
孝太郎「えっと。ごめん。なんの話?」
橘「は?何ってだから公民館に将棋をやりに来なさいって。」
孝太郎「将棋?ごめん。わからないや。」
橘「わからないって。ふざけてるの?」
ネム「すまない。孝太郎は少し疲れてるみたいだ。また今度行くから。」
橘「えっ。うん。」
ネム「孝太郎。どうしたんだ?」
孝太郎「どうしたって言われても俺にはなんのことかさっぱりわからないんだが。」
ネム「わからない?何がわからないんだ?」
孝太郎「何がって何もかも。さっきの子と俺は面識があったっけ?将棋なんて今までやったことないはずなんだが。」
ネム「孝太郎。まさか、橘花のことを忘れてしまったのか?坂下さんの孫の橘花。一緒に将棋をやったじゃないか。」
孝太郎「すまない。思い出せない。」
ネム(そんな。どうして。まさか、死神の力が消え始めているのと何か関係があるのか。)
ネム「悪い、孝太郎。私は今からちょっと出かけてくる。」
孝太郎「おい。ネム。」
そういうとネムはその場から姿を消した。
死神界
日本支部局長室
ネム「失礼します。」
局長「おぉ。N006久しぶりだな。どうだ、人間の学生になった気分は?」
ネム「そんなことよりも、急ぎで確認して頂きたいことがあります。」
局長「何かな?」
ネム「杉並孝太郎の件です。現在、彼から死神の力が消え始めています。」
局長「そうか。」
ネム「それの影響なのか彼の記憶の一部が損失するという現象が起こっています。」
局長「ふむ。なるほど。」
ネム「局長はこの現象に心当たりがあるのですか!」
局長「前にも言ったが、今回の事例は今までにないことである。であるが故にここからは私の推測で話すが、本来死神を見る力は人間には過ぎた力だ。」
局長「故に人間への負担も大きいと考えられる。今回死神の力が無くなったのはおそらく彼にその力を維持することが出来なくなったためだと思われる。それにより、彼の脳に多大な負荷がかかり記憶障害を起こしていると思われる。」
ネム「つまり、死神の力を得たことで脳に負荷がかかりその影響が今現れていると。」
局長「詳しいことは医療機関で検査してもらう必要があるだろうけどね。」
ネム「わかりました。失礼します。」
局長「ふむ。彼にもN006にも辛い決断になるかもしれないね。」
放課後、私は孝太郎を病院に連れていき検査を受けてもらった。
医者「え~。杉並孝太郎さん。検査の結果を報告します。」
孝太郎「はい。」
医者「現在、杉並さんの脳は多大な負荷がかかっており記憶が少しずつ無くなっています。我々の力ではどうして、これほどの負荷がかかっているのか、原因がわかりません。」
孝太郎「記憶はどこまで無くなるんですか?」
医者「おそらく、自分の名前や家族のこと等全て無くなると思われます。」
孝太郎「全てですか。どれくらいで。」
医者「様子をみないとわかりませんが、おそらく、1週間ほどで。」
孝太郎「治る方法はないんですか?」
医者「こちらでも全力で治療にかからせてもらいます。」
孝太郎「そうですか。わかりました。よろしくお願いします。」
それから孝太郎は入院することになった。
私も孝太郎の身の回りの世話をするために学校を休んだ。
コンコン。
橘花「失礼します。」
ネム「来てくれたのか。」
橘花「うん。孝太郎君。元気?」
孝太郎「えっと。元気ですよ。」
橘「早く病気治してまた将棋やろうね。」
孝太郎「…。はい。」
橘「それじゃあ、お大事に。」
孝太郎「わざわざありがとうございました。」
ネム「ありがとうな。」
橘は病室から出ていった。
孝太郎「さっきの方は俺の友達?」
ネム「あぁ。そうだ。将棋仲間だな。」
孝太郎「そっか。」
コンコン。
真倉香織「失礼します。」
ネム「香織。」
香織「ネムさん。孝太郎君。孝太郎君が入院してるって聞いてすごく驚きました。」
ネム「心配かけて悪いな。」
香織「いえいえ。1日も早く元気になるのを祈ってます。入院している間、良かったらこれどうぞ。」
香織はいろいろなライトノベルを持ってきてくれた。
孝太郎「こんなにたくさん。ありがとうございます。」
香織「それじゃあ、私はもうそろそろ行くね。何かできることがあったら言ってね?」
ネム「ありがとう。」
孝太郎「ありがとうございます。」
香織は病室から出ていった。
ネム「香織のことはどうだ?覚えてるか?」
孝太郎「いや、思い出せない。」
ネム「そうか。香織は私達のクラスメイトで小説家なんだぞ。」
孝太郎「そうなんだ。俺はクラスメイトの顔も忘れてしまってるんだな。」
ネム(日に日に確実に記憶が薄れていっている。まさか、香織のことも忘れるなんて。)
コンコン
里夏「孝太郎君!大丈夫!」
尼音「入るぞ。」
飯島希「失礼します。」
ネム「三人とも来てくれてありがとう。」
里夏「入院してるって聞いたから驚いたよ。見た感じ大丈夫そうだけど。」
尼音「なんだか、大人しくなったな。」
希「入院しているんだから、大人しくて当然だと思うけど。」
里夏「それにしても、なんか雰囲気が変わったね。」
孝太郎「そうですか?」
里夏「ネムちゃん。孝太郎君はどこが悪いの?」
ネム「悪いが、それは言えないんだ。」
里夏「そうなんだ。まぁでも思ってたより元気そうで何よりだよ。」
尼音「里夏。そろそろ行くぞ。」
里夏「もうですか?」
希「あまり長居するものではないわ。」
里夏「わかりました。それじゃあ、またね。孝太郎君。」
尼音「またな。早く元気になってまた店に来い。」
希「1日も早く退院できることを祈ってるわ。」
ネム「皆ありがとうな。」
孝太郎「ありがとうございます。」
孝太郎「誰もわからなかった。せっかく、皆俺に会いに来てくれたのに。」
ネム「孝太郎のせいじゃない。孝太郎は何も悪くない。」
ネム「少し外に行ってくるな。」
ネムは外に出た。
ネム(私は孝太郎に何もしてあげることができない。このまま日に日に記憶が薄れていく孝太郎を見ていることしかできないのか。)
そして入院してから6日目
ネムはいつも通り朝に孝太郎の病室にやってきた。
ネム「おはよう。」
孝太郎「おはようございます。えっと。どちら様でしょうか。」
ネム「なっ。そうか。そうだな。私は孝太郎の。」
ネム(私は孝太郎のなんなんだ。)
ネム「すまない。」
そういうと私は病室から出ていった。
わかっていたはずだ。
こうなることは。
だが、やはりわかっていてもどうしようもないことはある。
今の状態で私は孝太郎の前に立てる自信がない。
もうこれ以上弱っていく孝太郎を好きになった人を兄だった人を側で見続けることができない。
私は宛もなく歩いていた。
ある公園にたどり着いた。
私はベンチに座った。
女の子「あっ。ネムお姉ちゃん!」
私は顔をあげるとそこにはこの前、遊園地で会った愛ちゃんがいた。
愛「ネムお姉ちゃん一人?孝太郎お兄ちゃんは?」
ネム「私一人だ。」
愛「そっか。お姉ちゃんなんだか元気ないね。それじゃあ、愛と一緒に遊ぼ。」
ネム「えっ。」
愛「ブランコ乗ろう!ブランコ!」
そういうと愛ちゃんは私の手を引いてブランコの所まで連れてきた。
愛ちゃんがブランコに乗り私が背中を押してあげた。
愛「えへへ。楽しいね。」
ネム「そうだな。」
しばらくして愛の兄のたけるが愛を迎えにきた。
たける「愛!帰るぞ!」
愛「うん。ちょっと待って。お姉ちゃん。お兄ちゃんと早く仲直りしてね。きっとお兄ちゃんも仲直りしたいと思ってるよ。」
ネム「あぁ。そうだな。」
愛「それじゃあ、またね。バイバイ。」
ネム「またな。」
そうだな。私が孝太郎を見放してどうするんだ。
例えもう私のことを覚えてなくても、私は孝太郎のことを忘れない。私が孝太郎を支えてあげないと。
ネムは病室に戻った。
だが、そこに孝太郎の姿は無かった。
ネム(孝太郎。どこに。)
ネムは孝太郎を探した。
ネム(私のせいだ。私が側にいてあげなかったから。)
ネムは孝太郎が行きそうな所を探した。
だが、どこにも孝太郎はいない。
最後に二人で来た遊園地に向かった。
するとそこに孝太郎がいた。
ネム「孝太郎!」
孝太郎「あっ。すみません。勝手に病院から出てしまって。」
ネム「いや、私の方こそすまなかった。孝太郎を一人にして。」
孝太郎「そんなに息を切らして僕のことを探してくれたんですね。ありがとうございます。」
ネム「それより、どうしてここに?」
孝太郎「貴方が出ていってから貴方に何か悪いことをしてしまったのかと思い。探しに出たんです。そして、気がついたらここにいました。僕はここに来たのは初めてなはずなのに、どうしてこんなにも心が痛いんだろう。」
ネム(そうか。記憶が無くなっても孝太郎は孝太郎なんだな。)
ネム「そろそろ帰ろう。皆心配しているぞ。」
孝太郎「はい。」
そして、次の日ついに孝太郎は自分の名前すら忘れてしまった。
それでも私は孝太郎の側に居続けた。
毎日孝太郎に名前を教えて孝太郎がどんな人だったのかを話す所から始まる。
それからどれくらい経っただろうか。
私達の元にある人物がやってきた。
それは。
ふーこ「お久しぶりです。先輩。」
ネム「…。孝太郎。少し外に行ってくる。」
孝太郎「わかりました。」
ふーこを外に連れてきた。
ネム「なんの用だ?」
ふーこ「今日は先輩じゃなくて杉並孝太郎に会いに来ました。」
ネム「孝太郎に。まさか。」
ふーこ「はい。杉並孝太郎は今日死にます。」
ネム「そんな。どうして。どうして孝太郎が、孝太郎ばかりがこんな目にあうんだ。」
ふーこ「…。先輩。私達死神は死人の魂をあの世に運ぶ存在。私達死神は人間とは干渉してはならない存在。先輩は人間に干渉し過ぎました。」
ネム「人間のことを知ることに何の問題がある?」
ふーこ「私達が知る必要の無いことです。このことに関してここで議論しても何の解決にもなりません。先輩ならわかりますよね?」
ネム「そうだな。意味の無いことなのかもしれない。それでも、それが意味がないかどうかはやってみなければわからないだろ。私は人間と孝太郎と出会ってそう感じた。」
ネム「人間は人間同士が関係を持ち成り立っている。人間同士で争いを起こす者もいる。他者と触れあわなければ傷つくこともないし、傷つけることもない。」
ネム「だが、それでも、人は人と触れあって生きている。だから、人は美しいのだと思う。」
ふーこ「それは、私達死神は知る必要の無いことです。とにかく、今日杉並孝太郎が死ぬ事実は誰にも覆すことが出来ない。」
ネム「あぁ。そうだな。わざわざ知らせてくれて、感謝する。」
ふーこ「いえ、それではふーこは一旦失礼します。」
ネム(孝太郎が死ぬ。人が死ぬことを今までなんとも思わなかった。何故ならそれは自然なことだから。生まれてきたものはいずれ死ぬ。それは人であれ動物であれ植物であれ同じだ。)
ネム(だが、孝太郎と出会い。人と触れあうことで死ぬことはとても悲しいことだと思えるようになった。それが、親しければ親しいほど。)
ネム(孝太郎が死ぬ。孝太郎が死んだら私はどうすればいいんだ。)
ネムは病室に戻った。
孝太郎「お帰りなさい。どうしました?なんだか元気がないように見えますが。僕に出来ることがあればなんでも言って下さい。」
ネム(私は何をやってるんだ。私が孝太郎に心配されてどうする。何があっても孝太郎の側にいると誓ったはずだ。そうだ。もう迷わない。)
ネム「すまない。もう大丈夫だ。ありがとう。それより、今から外に出かけないか?」
孝太郎「えっ。外にですか。」
ネム「大丈夫だ。私がついてる。」
孝太郎「わかりました。」
私と孝太郎は出かけることにした。
場所は
孝太郎「ここは、遊園地ですか?」
ネム「そうだ。今日はここで遊ぼう!」
私達は遊んだ。
あの日のように遊んだ。
そして、最後に観覧車に乗ることになった
だが、私の足が止まった。
孝太郎「ネムさん?どうかしましたか?」
この観覧車に乗ったら全て終わってしまう。
そう思ったら足が動かなくなった。
ネム「すまない。やっぱり、観覧車はやめとこうか。」
孝太郎「すみません。僕、ネムさんと観覧車に乗りたいです。」
ネム「孝太郎?」
孝太郎「乗らないといけないような気がするんです。これを逃すともう二度と乗れない気がするんです。すみません。わがままを言って。」
ネム「わかった。乗ろう。」
私達は観覧車に乗った。
しばらく二人とも何も喋らなかった。
ネム「孝太郎。私の話を聞いてくれないか?」
孝太郎「はい。」
ネム「孝太郎は覚えてないかも知れないが私は孝太郎と出会っていろいろな人間と出会い自分自身も知らない感情を知ることが出来た。」
ネム「孝太郎と出会って嬉しいこと楽しいこと悲しいこといろいろあったが、私は孝太郎と出会えて良かった。」
ネム「孝太郎。私はお前が好きだ。」
ネム「今の状態でそんなこと言われても困るよな。それでも、自分の気持ちにこれ以上嘘はつきたくなかったんだ。」
孝太郎「ありがとう。ネム。俺もお前のことが好きだよ。」
ネム「孝太郎?」
孝太郎「ネムは死神で死神と人間が付き合うなんて出来ないと思っていた。だから、自分の気持ちに嘘をついていた。でも、俺もネムと出会ってネムを好きになって良かったと心から思えるよ。」
ネム「孝太郎。記憶が。戻ったのか?」
孝太郎「あぁ。なんでだろうな。自分でもわからないけど、でも、ちゃんと気持ちを伝えることが出来て良かった。」
ネム「こんなことってあるんだな。」
この時間がずっと続けばいいのに、私はそう思った。
孝太郎「あ~。そろそろ時間みたいだな。」
ネム「時間?」
孝太郎「あぁ。悪い。ちょっとだけ寝かせてくれないか。眠くなってしまった。」
ネム「寝るってここでか?もうすぐ観覧車終わるぞ?」
孝太郎「あぁ。悪い。ちょっとだけな。」
ネム「しょうがないな。少しだくだからな。」
孝太郎「ありがとう。ネム。本当にありがとう。大好きだ。」
そういうと孝太郎はゆっくりと目を閉じた。
ネム「おやすみ。よい夢を。私も孝太郎が大好きだ。」
観覧車が下に着いたが孝太郎は目を覚ますことはなかった。
死神界
日本支部局長室
ネム「失礼します。」
局長「おっ。N006。久しぶりだな。三年ぶりぐらいかな。」
ネム「そうですね。」
局長「この地区をまたしばらく担当して欲しい。君には辛いかもしれんが。」
ネム「いえ。問題ありません。それでは行ってきます。」
局長「あっ。そうそう。これ私からのプレゼント。」
ネム「ブレスレットですか。」
局長「着けてみて着けてみて。」
ネム「はぁ。」
局長「おっ。よく似合ってるよ。」
ネム「はぁ。ありがとうございます。それでは、行ってきます。」
局長「行ってらっしゃい。さて、あとは任せたよ。」
この地区も久しぶりだ。
三年も経てばいろいろ変わるものだな。
こうやって忘れていくんだろう。
その時
?「にゃー。」
ネム(ん?猫の声。)
猫「にゃー。にゃー。」
何故だか呼ばれているような気がして、猫の声がする方に行ってみた。
すると、公園の隅に一匹の猫がいた。
猫「にゃー。にゃー。」
その猫は私の方を見て鳴いていた。
ネム「お前、私が見えているのか?」
通常なら動物でも私達死神の姿を見ることは出来ない。
だが、この猫は確かに私に向かって鳴いている。
その猫を抱いてみると首輪をしていた。
ネム「何々。名前は。KOUTAROU。そうか、お前孝太郎って言うのか。凄い偶然だな。」
その時ブレスレットが少し光った。
猫「偶然じゃないんだな。」
ネム「えっ。誰だ?」
猫「俺だよ。俺。孝太郎だよ。忘れちまったのか?」
ネム「孝太郎!どこにいるんだ?」
猫「だから、お前の目の前にいるだろ。」
ネム「目の前ってまさか、この猫が孝太郎!」
猫「そう。」
ネム「本当に。あの孝太郎なのか。」
猫「あの孝太郎だよ。久しぶりだな。」
ネム「何がどうなってるんだ?」
猫(孝太郎)「俺もよくわからないけど、死んで目が覚めたら猫だった。そして、おそらく、死神にこの首輪をつけられたんだ。その死神はもうしばらくしたら、ここに死神が来るからその死神のパートナーになってやってくれって言われたんだよ。」
ネム「それで、私が来たと。」
猫(孝太郎)「そう。」
ネム「なるほど、だいたいは理解した。」
猫(孝太郎)「それでこれからどうすればいいんだ?」
ネム「それじゃあ、私のパートナーになってもらおうか。孝太郎。これからもよろしくね。」
猫(孝太郎)「了解。ネム。よろしく。」
死神と死を見る青年 終わり
ここまで読んでくれた読者の方ありがとうございました。
今回、人の死について自分なりに考えて書いたつもりです。
死って誰もがいつか訪れることであって一番身近であって一番遠い。
自分で何言ってるのかよくわからなくなりました。
まぁ終わりがあるから人は頑張れる気がします。
だから、1日1日を大切に生きていこうと思います。