死神と死を見る青年 第2話 坂下恒松編
死神界
日本支部局長室
局長「君の報告書は読ませてもらったよ。信じ難いが、その人間は死の首輪を見ることができ、さらには我々の姿を見ることができると、間違いないかな?N006。」
死神N006「はい。間違いありません。」
局長「ふむ。そして、その原因は少なからず、君に責任があると。」
死神N006「はい。彼は私と接触したことで、何らかの影響を受けたものだと推察します。」
局長「ふむ。ふむ。ならば、君にはなんらかの責任をおってもらう必要があるね。」
死神N006「はい。どんな罰でも受ける所存です。」
局長「ならば、君にはしばらくの間、杉並孝太郎の観察をしてもらおうか。今までに例がないからね。今後の対策のためにもね。その間、死神としてではなく。人間として彼の観察を行うこととする。」
死神N006「人間としてですか?死神のままでもいいのでは?」
局長「人間と言っても、人間になるのではなく、実体化するということだ。それに、彼の事を知るという意味でも、その方が都合がいいだろう。」
死神N006「はぁ。わかりました。」
局長「その間、君の担当地区には別の死神を手配することとする。実はもう呼んである。入りなさい。」
死神E018「はーい。失礼しまーす。あっせんぱーい。お久しぶりでーす。」
死神N006「うっどうして貴方が。」
局長「というわけで、本日より互いに任務に勤めるように。では解散!」
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あれから数日が経ち、俺は普通の生活を送っていた。
入学式の日に入院してスタートするのが出遅れてしまったこともあり、俺は未だにぼっちであっち。
先生「はーい。それじゃあ、朝礼を始めるわよ。おっと、その前に転校生がいるんだった。」
クラスメイト「転校生?入学してすぐに?」
先生「どうぞ。入ってきなさい。」
死神N006「…。」
クラスメイト「うわ~。可愛い。銀髪だ。ハーフかな?」
孝太郎「えっ。あれって。まさか。」
先生「あ~。静かに。それじゃあ、自己紹介をして。」
死神N006「はじめまして。ネムと言います。今日からよろしくお願いします。」
先生「え~っとネムの席は杉並君の後ろね。それじゃあ、皆仲良くするように。」
孝太郎(あれって、前に会った死神だよな?何で俺のクラスに来たんだ?誰か死ぬのか?)
孝太郎は周りのクラスメイトを見渡したが、誰の首にも印は出ていなかった。
朝礼が終わった後、予想通りネムの周りに人が集まってきていた。
いろいろ質問攻めにあっていたが、ネムはまるで機械のような受け答えをしていた。
それからも、普通に授業を受け、休み時間は本を読んでいてあまり人と関わらないようにしている感じがした。
昼休み
孝太郎(さてと、今日は学食に行くかな。)
俺が席を立つとネムも席を立った。
そのまま俺の少し後ろからついてきた。
孝太郎(まぁ学食に行くなら別に普通だよな。駄目だ。変に意識してしまう。)
孝太郎は日替わりA定食を頼んで席についた。
すると、孝太郎の席の前に孝太郎と同じA定食を持ってネムが来て座った。
孝太郎「…。」
ネム「…。」
孝太郎「えっと。」
ネム「嫌なら別の場所に行くが?」
孝太郎「いやいや、嫌とかではないけど、そのどうしてなのかな~と思って。」
ネム「当然の疑問だな。だが、その質問は今この場では答えられない。放課後に屋上に来てもらえるか?」
孝太郎「わかった。」
そういうとネムはご飯を食べ始めた。
そして、放課後。
約束通り俺は少し緊張しながら屋上に向かった。
ネム「わざわざすまない。どうしても、他の人間には知られるわけにはいかないのでな。」
孝太郎「えっと、やっぱり君はこの前会った死神なんだよね?」
ネム「そうだ。私は死神N006。今は任務のため、仮の名を語っているがな。」
孝太郎「その任務に俺が関係してるってこと?」
ネム「そうだ。私の任務は杉並孝太郎、貴方の観察だ。」
孝太郎「俺の観察?」
ネム「貴方には死の首輪が見えさらには我々死神の姿が見える。これは今までに例がないことだ。故に、我々としては貴方を観察し、今後このようなことが起きないようにする必要があるのだ。」
孝太郎「そのために、俺を観察すると。」
ネム「そういうことだ。それに、今回の件は私にも責任があるからな。」
孝太郎「そっか。それで今は姿が皆にも見えるんだね。でも、死神の仕事の方は大丈夫なの?」
ネム「心配ない。私の代わりの者が配属されたからな。」
死神E018「せんぱーい。」
ネム「…。」
死神E018「せんぱーい。もぉ放課後一緒に遊びましょうって言ったじゃないですか!」
孝太郎「この娘が後任の死神?」
ネム「そうだ。私の後任のE018だ。」
死神E018「もぉ。せんぱーい。私の名前はふーこだって言ってるじゃないですか!」
ネム「…。」
孝太郎「えっと、なんでふーこなんですか?」
ふーこ「あっ君が杉並君なんだねー。わっわっやっぱり私の姿が見えてるんですねー。はじめましてー。ふーこです。ふーこはふーこだからふーこなんだよー。」
孝太郎「そうなんですね。あははっ。」
ネム「とりあえず、そういうことだから、よろしく。」
孝太郎「あっ。うん。わかりました。」
ふーこ「そんなことより遊びに行きましょう!」
ネム「貴方は実体化してないんだから一緒にいても不自然でしょ。」
ふーこ「それなら実体化しますよー。」
そういうと、ふーこさんは実体化した。
ふーこ「ふっふっふ。これで大丈夫ですねー。」
ネム「はぁ。もう。わかりました。でも、私は杉並君の観察があるので遊ぶことはできません。」
ふーこ「えー。じゃあじゃあ、こーちゃんも遊ぼう!」
孝太郎「えっ。こーちゃんって俺ですか?」
ふーこ「こーちゃん以外にこーちゃんはいないでしょー。」
ネム「杉並君。彼女に合わせなくてもいいですよ。」
ふーこ「遊ぼ遊ぼ。」
孝太郎「えーっと。じゃあちょと買い物とかして帰ろうかなー。」
ふーこ「やったー!」
ネム「はぁ。わかりました。」
そういうと3人で街に出かけることになった。
3人で適当にウインドウショッピングをして時間を潰した。
ふーこ「あ~。そろそろ行かないといけないですー。」
孝太郎「そっか。大変だけど、頑張って下さい。」
ふーこ「それじゃあ、またねー。」
そういうとふーこさんは消えて行った。
ネム「はぁ。すみません。あの子に付き合わせてしまって。」
孝太郎「いや。全然大丈夫ですよ。俺も楽しかったし。それじゃあ、俺は晩飯の材料だけ買ってから帰りますけど、ネムさんはどうします?」
ネム「あっ。えっと、実はですね。住む場所が無くてですね。できれば、一緒に住まわせて頂きたいのですが?」
孝太郎「えー。俺の部屋にですか?死神の時はどうしてたんですか?」
ネム「死神は基本的に寝ることはありません。ですから、どこか一ヵ所に留まるということはしません。」
孝太郎「そうなんだ。まぁ、俺はいいんだけど、本当に俺の部屋なんかでいいの?」
ネム「すみませんがよろしくお願いします。」
というわけで、二人で部屋に帰ってきた。
孝太郎「えっと、それじゃあ、晩御飯にしようか。とは言ってもスーパーで買った物だけだけどね。ごめんね。まともに料理とかできなくて。簡単なものならできるんだけど。」
ネム「いえ、私も料理はできませんから気にせずに。」
それから二人で晩御飯を食べて、順番にお風呂に入った。
孝太郎
ネム「杉並君は。」
孝太郎「孝太郎でいいよ。」
ネム「そうですか。それなら、孝太郎は一人暮らしなんですね。」
孝太郎「そうだね。実家から一人で引っ越してきたね。」
ネム「そうですか。兄弟とかは?」
孝太郎「妹が一人いたね。」
ネム「いたというのは?」
孝太郎「小さい頃に死んじゃったんだ。」
ネム「そうですか。すみません。」
孝太郎「いいよ、いいよ。もう昔のことだしね。そろそろ寝ようか。あっ死神は寝ないんだっけ。」
ネム「眠る必要がないだけで、寝れないわけではありません。」
孝太郎「そうなんだ。それじゃあ、この部屋に布団を敷くからこの部屋で寝てもらえばいいから。俺は自分の部屋で寝るから。」
ネム「わかりました。」
孝太郎「おやすみなさい。」
ネム「おやすみなさい。」
ネム(私はどうしてあんなことを聞いたんだろうか?孝太郎と一緒にいると私も知らない感情がでてくる。でも、それが嫌なわけではない。)
私はそんなことを思いながら布団の中で目を閉じ眠りについた。
私は夢を見ていたおそらく初めてみるだろう。なんせ寝るのも初めてなんだからな。
夢の中で私はダイニングで椅子に座っていた。
目の前には男の子が何か料理をしていた。
男の子はレシピを見ながら慣れない手つきで一生懸命料理をしていた。
しばらくして料理が出てきた。
オムライスだ。
私はそれを食べてその男の子に何かを言った。
すると、男の子も嬉しそうに笑っていた。
ピピッピピッ
私は目覚ましの音で起きた。
しばらくして孝太郎も起きてきた。
孝太郎「おはようございます。」
ネム「おはようございます。」
孝太郎「昨日はよく眠れた?」
ネム「えぇ。眠れたわ。」
孝太郎「そっか。良かった。」
あの男の子の笑顔が私の頭から離れなかった。
しばらくして部屋に回覧板が回ってきた。
ネム「孝太郎。回覧板が届いてるぞ。」
孝太郎「ありがとう。何々。あー。今週の土曜日に朝近所の清掃をするみたいだね。」
ネム「そうか。孝太郎はどうするんだ?」
孝太郎「うーん。面倒だけど、特に予定も無いし、参加しようかな。」
ネム「そうか。なら、私も参加する。」
孝太郎「なんか悪いね。」
ネム「気にするな、これも仕事だ。」
そして、当日。
マンションの管理人「えー。本日はお忙しい中、お集まり頂き、ありがとうございます。これより、1時間ほど、周辺のゴミ拾いを行いたいと思います。」
孝太郎「それじゃあ、始めようか。」
ネム「そうだな。」
?「あー。孝太郎君。来てたんだね。」
孝太郎「あっ。里夏さん。」
里夏「感心感心。そっちの子ははじめましてだね。」
ネム「どうも。」
孝太郎「えっと、紹介するよ。鈴木里夏さん。上の階に住んでる方で俺の通う高校の1つ上の先輩なんだ。俺が引っ越してきてからいろいろお世話になってるんだ。」
孝太郎「それで、こっちがネム。クラスメイトです。今日のことを彼女に言ったら参加したいって言ってくれたんで、一緒に参加してる感じです。」
里夏「ふーん。クラスメイトねぇ。」
孝太郎「なっなんですか?」
里夏「孝太郎君も見かけによらず、結構やり手なのかな?」
孝太郎「里夏さん。何言ってるんですか!ネムさんとはそんな関係じゃないですから。」
里夏「はいはい。それじゃあ、行こうか。」
孝太郎「はぁ。」
ネム「孝太郎。そういう関係ってどういう意味だ?」
孝太郎「えっと、ごめん。俺もうまく説明できないや。」
ネム「そうか。」
それから1時間ほどゴミ拾いをして元の場所まで戻ってきた。
里夏「二人ともお疲れ様。」
孝太郎「里夏さんもお疲れ様です。」
里夏「この後、公民館でちょっとした集まりがあるんだけど、君たちも来ない?お菓子とかもらえるよ。」
孝太郎「うーん。せっかくだし行こうか?」
ネム「孝太郎に任せる。」
里夏「ニマニマ。」
孝太郎「里夏さん。」
里夏「はいはい。それじゃあ、行こうか。」
里夏さんに連れられて公民館に来た。
ゴミ拾いに参加した人達が集まって談笑している感じだった。
その中で一人だけ将棋を指している人がいた。
里夏「あー。あの人は坂下恒松さん。いつも一人で将棋指してるんだよね。」
俺はなんだか気になって坂下さんのところに向かった。
孝太郎「こんにちは。」
坂下「…。」
返事はなかったが、しばらく将棋盤を見ていたら向こうから話かけてきた。
坂下「将棋に興味でもあるんか?」
孝太郎「できないんですけど、少し興味あります。」
坂下「なら、少し私の相手をしてみるかい?」
孝太郎「えっ。でも、何もルールがわからないんですけど。」
坂下「ルールなんてのはやりながら覚えるもんだよ。ほら、とにかく座りなさい。」
孝太郎「はい。わかりました。よろしくお願いします。」
それからしばらく坂下さんに指導してもらいながら将棋を指した。
坂下「今日はこのへんにしとくかな。」
孝太郎「はい。ありがとうございました。」
坂下「名前は?」
孝太郎「杉並孝太郎です。」
坂下「そうか。私は坂下恒松という。老人の暇潰しに付き合わせて悪かったな。」
孝太郎「いえ、楽しかったです。」
坂下「そうか。もし、もっと将棋が上手くなりたいんなら、また来なさい。週末は基本的にこの時間にいるから。」
孝太郎「わかりました。また来ます。」
孝太郎「ネムもごめんね。退屈だったでしょ?」
ネム「そんなことはない。将棋を見ているのも面白かった。」
里夏「いやー。驚いたな。私もちゃんと話をしたこともないのに。やっぱり、男同士の方がいいのかもね。」
孝太郎「そうなんですかね。」
それから週末に公民館に行き坂下さんと将棋をすることになった。
将棋をしているうちに坂下さんともいろいろな話をするようになった。
そんなある日。
俺は坂下さんの首に死の首輪を見つけてしまった。
しばらく見ていなかったから、すっかり忘れていたが、確かに死の首輪だ。
孝太郎「そんな。」
坂下「ん?どうした?」
孝太郎「いえ、なんでもないです。」
その日も将棋を指したが全然頭が回らなかった。
坂下「孝太郎君。今日はどうしたんだ?調子が悪いなら無理に来なくてもいいぞ。」
孝太郎「すみません。少し休憩してもいいですか?」
坂下「あぁ。かまわないよ。」
孝太郎は外に出て少しリフレッシュしようと思った。
孝太郎「はぁ。どうして、坂下さんが。」
ネム「孝太郎。」
孝太郎「ネム。俺はどうしたら。」
ネム「すまない。その能力が孝太郎を苦しめてしまっているんだな。我々死神は死についてそこまで深く考えたりはしない。生き物は生まれればいずれ死ぬ。これは当たり前のことだ。」
ネム「だが、その当事者である君たち人間は人と人とが深く知り合えば知り合うほど、その人が死んだ時に悲しむ生き物なのだな。」
孝太郎「そうだね。そして、俺にはその人が死ぬ印が見える。だから、俺にできることをする。最初にそう決めたんだよな。よし。やれることをしよう。」
孝太郎「すみません。お待たせしました。」
坂下「大丈夫なのか?別に無理しなくてもいいぞ。」
孝太郎「もう大丈夫です。心配をかけてすみません。坂下さん。一勝負しませんか?」
坂下「はじめてだな。君からそんなことを言うなんて。まぁかまわんよ。」
孝太郎「もしも、俺が勝ったら一つ質問に答えてもらえませんか?」
坂下「かまわんよ。君が負けたら肩もみでもしてもらおうか。」
孝太郎「わかりました。それでは、よろしくお願いします。」
これまで坂下に教わったことを思いだしながら俺は将棋を指した。
孝太郎「くっ。参りました。」
坂下「今日はずいぶんと粘ったな。それじゃあ約束通り肩もみをしてもらおうか。」
孝太郎「はい。」
俺は坂下さんの肩もみを始めた。
坂下「久しぶりに他の人に肩もみをされると気持ちいいもんだな。」
孝太郎「それは良かったです。」
坂下「私は昔一度離婚をしていてね。娘が一人いてね。もう結婚してしばらく経つな。確か女の子が一人いるんだったかな。年齢的には君達と同じぐらいかもしれないな。孫に肩もみをされるとこんな感じなのかね。さて、そろそろいいぞ。ありがとうな。」
孝太郎「あっはい。」
坂下「それじゃあ、また来週な。」
孝太郎「…。あの!」
坂下「ん?どうした?」
孝太郎「明日。予定はありますか?
無ければ明日も夕方に会えませんか?」
坂下「かまわんが。何かあるのか?」
孝太郎「まだわかりませんが、明日、夕方に公民館に来て下さい。お願いします。」
坂下「わかったよ。」
ネム「孝太郎。まさか、坂下さんのお孫さんを探すつもり?」
孝太郎「うん。それぐらいかなって思って。」
ネム「まぁ、私は何も言わないけどね。」
次の日、俺は各クラスに行って坂下さんのお孫さんを探した。
坂下という苗字の人はいるが恒松さんのことを知ってる人は居なかった。
孝太郎「この学校には居ないのかな。」
里夏「おーい。孝太郎君。」
孝太郎「あっ。里夏さん。」
里夏「ネムちゃんから聞いたよ坂下さんのお孫さんを探してるんだって?」
孝太郎「ネムが?いつの間に」
ネム「いや、私はその」
里夏「あー。ごめん。言わない方が良かったんだね。」
里夏「えっと、それで、坂下さんのお孫さんの話だけど、私が聞いた話だと昔、娘さんがお孫さんを連れて一度だけ坂下さんに会いに来たことがあるらしくて、その時に近所の人が話を少ししたらしくて、確か苗字が橘だったかな。って言ってたよ。」
孝太郎「そっか。普通に考えて苗字は変わってますよね。あー。どうしよう。もう放課後だし。って考えててもしょうがない。里夏さん。ありがとうございます!それじゃあ。」
里夏「あっ。行っちゃった。ネムちゃん。孝太郎君のことよろしくね。私も出来る限り探してみるから。」
ネム「はい。ありがとうございました。」
それから部活を一つずつまわって行った。
孝太郎「最後に将棋部だな。失礼します。」
将棋部1年「はい?」
孝太郎「突然すみません。あの。一つ伺いたいんですけど、将棋部に橘さんっていますか?」
将棋部1年「いますよ。今対局中なんで少し待っててもらってもいいですか?」
孝太郎「わかりました。」
孝太郎「ふぅ。第一関門は突破だな。」
しばらくして。
橘「お待たせしました。将棋部1年の橘花です。私に何かようですか?」
孝太郎「はじめまして。1年の杉並孝太郎と。」
ネム「同じく1年のネムです。」
孝太郎「早速で悪いんですけど。橘さんのおじいさんの名前って坂下恒松さんかな?」
橘「はい。確かそんな名前だったと思います。私が小さい頃に一度だけ会ったことがあるみたいなんですけど、覚えてなくて。」
孝太郎「そうなんですね。あのー。もし良かったら、この後、坂下さんと会ってもらえないかな?実は俺、坂下さんに将棋を教えてもらっていてそれで君のことを坂下さんが話をしていたから一度会わせてあげたいなって勝手ながら思って。」
橘「わかりました。でも、お母さんにおじいちゃんには会いに行ったら駄目だって言われてるので。」
孝太郎「そうなんだ。」
橘「まぁでもどうしてもというのなら、将棋で勝負して私に勝てれば行きますよ。」
孝太郎「本当ですか!よっしゃ。じゃあやりますか!」
俺は橘さんと将棋で勝負することになった。
孝太郎「今回こそは負けられないな。」
勝負が始まった。
孝太郎も坂下さんに教えてもらっているだけあっていい勝負をしている。
そして、勝敗が決した。
孝太郎「参りました。」
橘「ありがとうございました。悪いけど、約束だから。」
孝太郎「うん。」
ネム「次は私が相手でいいか?」
孝太郎「えっ?」
橘「貴方もですか。」
ネム「私たちは同じ目的なんだからかまわないよね?」
橘「わかりました。」
孝太郎「ネム。」
ネム「大丈夫。私はずっと隣で見てきたから。」
そして、改めて勝負が始まった。
橘「参りました。」
ネム「ありがとうございました。」
孝太郎「やったー!なんだか、自分が勝つより嬉しいや。」
ネム「孝太郎、喜びすぎ。」
橘「はぁ。じゃあ、しょうがないですね。会いましょう。」
孝太郎「ありがとう。」
橘「まぁ私もこのままじゃ駄目だなって思ってたから。」
そして俺達は橘さんと一緒に坂下さんの元へ向かった。
孝太郎「坂下。すみません。お待たせして。」
坂下「かまわんが。そちらの子は?」
橘「えっと。」
孝太郎「あー。えっと、この子は俺の学校の将棋部の子で坂下さんの話をしたら勝負してみたいって話になりまして。それで、もし良かったら今から勝負してもらえませんか?」
坂下「まぁわしはかまわんが。」
孝太郎「よし。決まりですね。それじゃあ、早速初めましょう。」
橘「ちょっと、どういうつもりですか?」
孝太郎「まぁまぁ。いきなり、お孫さんですって言ってもお互い何を話せばいいかわからないでしょ?」
橘「まぁ確かに。」
孝太郎「だから、ここはお互い共通の趣味があるんだからそれを通して触れあえばいいんじゃないかな。」
橘「なんだか、君に言いくるめられてるような気がするけど、まぁいいや。」
坂下「それじゃあ、始めようか。」
橘「はい。よろしくお願いします。」
二人は将棋を指し始めた。
二人とも真剣にそして、楽しそうに指していた。
そんな二人を見て俺とネムはこっそりその場から離れた。
二人とも集中している様子だったので気づかれずに外に出ることができた。
ネム「良かったのか?」
孝太郎「俺に出来るのはここまでだからね。それにこれ以上は無粋だろ?」
ネム「人間の考えることはよくわからないな。」
そして、二人がいなくなってからしばらくして勝敗が決した。
橘「参りました。」
坂下「ありがとうございました。」
橘「ふぅ。あれっ二人がいない。」
坂下「はっはっは。気づかんかったわ。すまんの。変なことに巻き込んでしまって。今度ワシの方から言っておくから二人のことは許してやってくれ。あれでもワシにとっては数少ない将棋仲間だからの。」
橘「いえ。こちらも楽しかったので、良かったです。」
坂下「そろそろ帰るかの。」
橘「あっあの。」
坂下「ん?」
橘「実は私。」
坂下「大きくなったの。」
橘「えっ。」
坂下「これでも君のおじいちゃんだからの孫の顔ぐらい見ればわかる。」
橘「おじいちゃん。ごめんなさい。今まで会いに来れなくて。」
坂下「いいんじゃよ。孫と言ってももう別れてしまってるからの。それに今日会いに来てくれて、将棋まで一緒にやってくれて、もうやり残したことは無いわ。」
橘「そんな寂しいこと言わないでよ。これからもここに来るからまた将棋を一緒にやろうね。約束だよ。」
坂下「あぁ。約束じゃ。」
次の日坂下さんはもう二度と目覚めることはなかった。
橘さんと坂下さんの約束が果たされることはなくなってしまった。
正直、これで良かったのか。会わせない方が良かったのではないかと思ってしまう。
あれからしばらくして。
里夏「孝太郎君。おはよう!」
孝太郎「あっ。里夏さん。おはようございます。」
里夏「坂下さんは残念だったね。まさか、あの後直ぐにお亡くなりになってしまうなんて。」
孝太郎「そうですね。」
里夏「まぁ。でも、最後にお孫さんに会えたんだから、きっと喜んでたんだと思うよ。だから、孝太郎君も元気だしてね。」
孝太郎「はい。ありがとうございます。」
孝太郎「里夏さんはああ言ってくれてるけど、本当に俺がやったことは正しかったんだろうか。」
ネム「孝太郎がやったことが正しいか正しくないかは誰にもわからない。けど、重要なのは孝太郎自身が後悔しないことなんじゃないか?」
孝太郎「俺自身が後悔しないこと?」
ネム「孝太郎は今回何もしない。死の首輪を見なかったことにするという選択もできたはずだ。それでも、孝太郎は行動した。孝太郎は行動した結果がどうであれ、行動しない方が良かったと思うのか?」
孝太郎「俺は、行動して良かったかはわからないけど、行動していなかったら、後悔していたかもしれない。」
ネム「それなら、いいんじゃないか?行動しなくて後悔するより、行動して後悔する方が私はいいと思う。」
孝太郎「そうだな。ありがとう。ネム。」
ネム「ふん。いつまでもウジウジしてると私が嫌だから言っただけだ。」
それからしばらくして公民館に行ってみるとそこにはお年寄りや子供たちと俺の高校の将棋部のメンバーが将棋を教えていた。
孝太郎「これは。」
橘「あっ。杉並君。遅いですよ。」
孝太郎「橘さん。あの。坂下さんの件は。」
橘「おじいちゃんのことは確かに悲しかったけど、あのまま会ってないままだったら私は多分一生後悔してたと思う。だから、おじいちゃんに会わせてくれて、ありがとう。」
橘「私はおじいちゃんが大好きだった将棋をいろんな人にも好きになって欲しいなって思ってここで、将棋を教えることにしたんだ。」
少年a「お姉ちゃん。早く教えてよ。俺あいつより早く上手くなりたい。」
少年b「ずるいぞ。お姉ちゃん、俺にだけ必殺技教えて。」
橘「はいはい。一人ずつね。孝太郎君も早く上手くならないと私と差が広がっちゃうよ。」
俺はその時の橘さんの笑顔を見て行動して良かったと思えた。