死神と死を見る青年 第1話 柳さおり編
俺の名前は杉並孝太郎。
この春から東京の高校に通うために田舎から一人で引っ越してきた。
今までの俺は自己主張がなく、やりたいことも特になく、なんとなく生きてるって感じだった。
このままじゃ駄目だと思い、東京の学校に進学することにした。
親には反対されると思っていたが、親は俺が初めて自分で考えて自分の意見を言ったことに驚いていて、それと同時に喜んでいた。
東京で何をやるとかは何も考えていなかった。
けれども、東京に来れば何かが変わる。
そんな期待を胸に秘めてここまで来てしまった。
そして、今日は高校の入学式。
孝太郎「よしっ。行くか。」
俺は気合いを入れてから部屋を出た。
学校まではバスで20分ほど。
バスには俺と同じ学校の制服を着た学生やサラリーマン、年寄りの方等いろんな人が乗っている。
俺は窓の外の景色を見ていた。
そして、その時は突然訪れた。
交差点で信号が青になりバスが発進すると横からトラックが突っ込んできたのが見えた。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
俺は目を開けるとそこは空の上だった。
孝太郎「なんだ。夢か。良かった~。いや~それにしても嫌な夢だったな~。」
孝太郎「ん?なんだか下が騒がしいな。」
俺は下を見るとそこには見覚えのあるバスが横転していた。
孝太郎「事故か?これは酷いな。…まさか、あのバスって俺がさっきまで乗ってたバスじゃ。」
俺は恐る恐る近づきバスの中を見ると、そこには俺がいた。
孝太郎「あそこに俺がいるってことはもしかして、俺死んだのか。」
?「あなたはまだ死んでいないわ。」
俺は後ろを振り向くとそこには女の子がいた。
その子は、銀色の長い髪で瞳の色は紅く。黒色のフード付きのロングコートを羽織っていて、右手には長い鎌を持っていた。
孝太郎「鎌!ていうか浮いてる!」
?「貴方も浮いてるじゃない。」
孝太郎「そうだった。じゃあ君も俺と同じで、そのいわゆる幽霊ですか?」
?「私は幽霊ではないわ。私は死神。死者の魂を天界に送るために存在する者。」
孝太郎「死神。本当に存在したんだ。それじゃあ、やっぱり、俺は死んだのか。」
孝太郎「あ~あ。これから頑張ろうと思っていたのに。」
死神「さっきも言ったけど、貴方はまだ死んでいないわ。」
孝太郎「えっ。でも、俺があそこにいるってことは俺は幽霊になったってことだよね?」
死神「確かに、今の状態だと死んでいるわね。でも、貴方の名前は私が持っている死者リストにはのっていないわ。それに、貴方には死の首輪が出ていない。」
孝太郎「死神リスト?死の首輪?」
死神「死者リストとは今日死ぬ人間の名前が書いてある紙のこと。死の首輪は死ぬ人間の首に赤い首輪みたいな模様が現れ、その人間は2日後に必ず死ぬ。」
死神「死んだ人間の身体と魂をこの鎌で引き離し天界に送るのが我々死神の仕事なの。そして、さっきも言った通り貴方には死の首輪が出ていない。つまり、貴方は今日死ぬ運命ではないということ。」
孝太郎「じゃあ、俺は今どういう状態なの?」
死神「人間は希に身体と魂が離れる現象が起こる、それを貴方達の言葉で言うと、幽体離脱。だから、今なら身体に戻れば助かるはずよ。」
孝太郎「そっか~。良かった~。あれっ。じゃあ、なんで君はここにいるんだ?」
死神「それは貴方以外の死者の魂を天界に送るためよ。」
そういうと彼女はバスの中にいたおじいちゃんとサラリーマンに近づき二人の身体を鎌で切った。
すると、切れ目から魂が出て来て天に昇っていった。
死神「任務完了。貴方もさっさと身体に戻りなさい。」
孝太郎「また会えるかな?」
死神「普通は私の姿は見ることは出来ないのよ。それに私にはもう会わない方が貴方のためだと思うけど?」
孝太郎「そっか。そうだな。それじゃあ、サヨナラだな。」
死神「サヨナラ。」
俺は自分の身体に戻り目が覚めたら病室にいた。
幸いにもそこまで酷いケガもなく一週間ほどで退院できるそうだ。
孝太郎「はぁ~。生きてて良かった~。」
?「孝太郎さん。今大丈夫ですか?」
孝太郎「あぁ。大丈夫だよ。さおりちゃん。」
さおり「おはようございます!孝太郎さん。」
この子は柳さおりちゃん。俺の隣人で1つ年下の女の子。
さおりちゃんは幼い頃から身体が弱くほとんど病院内で過ごしてきたらしい。
だけど、性格は明るく俺にも気さくに話しかけてくれる。
さおり「今日は何をして遊びますか?」
孝太郎「そーだなー。折り紙なんてどうかな?」
さおり「いいですよ!じゃあ私、鶴折りますね。」
孝太郎「さおりちゃん、鶴折れるの?俺にも教えてよ。」
さおり「いいですよ!」
俺はさおりちゃんと毎日一緒に遊んでいた。
俺が入院して3日目
看護士「さおりちゃん。もうすぐね。大丈夫!絶対成功するからね!一緒に頑張ろう。」
さおり「はい。ありがとうございます!頑張ります。」
隣で看護士さんとさおりちゃんが何か話していた。
いつもはさおりちゃんの方から話しかけてくるのだが、今日は話しかけてこなかったので、俺から話しかけることにした。
孝太郎「さおりちゃん。今大丈夫?」
さおり「あっ、はい。大丈夫です。」
孝太郎「さっき看護士さんと何を話していたの?」
さおり「私、明日手術をするんです。」
孝太郎「そうだったんだ。」
こういう時になんて言葉を送ればいいのか、わからない。
さっきの看護士みたいに応援するぐらいしかできない。
さおり「ごめんなさい。なんだか、暗くなっちゃったね。今日は何をして遊びますか?」
さおりちゃんは必死に明るく振る舞おうとしていた。
駄目だな俺は。俺がさおりちゃんを元気にしてあげなきゃいけないのに。
孝太郎「えっと、あれっその首輪どうしたの?」
さおり「えっ?首輪?私首輪なんてしてないですけど?」
孝太郎「ウソっ。あれ?おかしいな。俺だけが見えてるのかな?」
さおり「おかしな。孝太郎さん。」
確かにさおりちゃんの首には首輪らしき模様がはっきり見えている。昨日まではなかったのにどうして?
まてよ、あの首輪どこかで見たような。
その時だった。天井から一人の少女が舞い降りてきた。
その少女はまさしく、先日事故現場で会った死神だった。
孝太郎「あ~。死神。」
俺は思わず声をあげてしまった。
さおり「死神?急にどうしたの?孝太郎さん。」
孝太郎「えっ?さおりちゃんには見えてない?」
さおり「ん?だから、何が?まさか、幽霊?」
孝太郎「いやっ。ごめん。俺の勘違いだった。ごめん。忘れて。」
さおり「変な孝太郎さん。」
孝太郎「ちょっと、トイレに行ってくるよ。」
俺はそう言うと、立ち上がり、死神に近づき小さな声で「ちょっと来てくれないか?」と言った。
死神は何も言わず、俺についてきてくれた。
俺は死神と一緒に屋上に向かった。
孝太郎「ふぅ。えっと、君はこの前の死神でいいんだよな?」
死神「驚いたわ。私と会った記憶があり、さらに、私の姿が見えるなんて。」
孝太郎「やっぱり、普通は見えないんだ。」
死神「えぇ。普通なら見えないわ。それに、貴方は死の首輪も見えているのね?」
孝太郎「死の首輪?もしかして、さおりちゃんのこと?」
死神「そう。前にも説明したけれど、死の首輪はその人間が死ぬ2日前に現れるもの。首輪が現れた人間は必ず2日後に死ぬ。因みに、この首輪も普通は見えないものなのよ。」
死神「希に産まれながらにして、見える者や、貴方のように、死を一度経験した者は見えるようになるという事例も確認されているわ。しかし、私達死神の姿を目視できる人間は今までに例がないわ。」
孝太郎「そんなことより、首輪が出たら死ぬっていうのは必ずなのか?どうにかならないのか?」
死神「どうにもならないわ。人間は産まれた時からすでに死ぬ時が決められているの。これは世界の理であり、何人たりとも変えることはできない。」
孝太郎「…。それでも、俺はわかっているのにそれを見ないふりはしたくない。」
死神「別に好きにすればいい。私は仕事を全うするだけ。」
俺はその場から離れて病室に戻った。
孝太郎「さおりちゃん。」
さおり「あっ。孝太郎さん。遅かったですね。」
孝太郎「さおりちゃん。その~。今何か欲しいものとかやりたいこととかない?」
さおり「急にどうしたんですか?今日の孝太郎さんなんか変ですよ?もしかして、私がもうすぐ手術だから気をつかってくれてるんですか?」
孝太郎「えっと、ごめん。俺さおりちゃんの力になりたくて。」
さおり「ふふっ。そんなことだと思いました。大丈夫ですよ。孝太郎さんにはたくさん元気をもらいましたから。私が手術を決心できたのは孝太郎さんのおかげでもあるんです。」
孝太郎「えっ?」
さおり「孝太郎さんが病室に来てから毎日私に外の話しをしてくれたり、遊んでくれたおかげで、私も早く退院して普通の生活を送りたいなと思えたんです。」
孝太郎「そっか。」
さおり「だから、孝太郎さんはいつも通りでいて下さい。」
孝太郎「わかった。」
そう言うと孝太郎はいつも通りさおりちゃんと遊んだ。
その日の夜
消灯時間が過ぎてしばらくたった頃。
孝太郎「さおりちゃん。さおりちゃん。」
さおり「孝太郎さん?何ですか?こんな夜中に。」
孝太郎「俺と散歩に行かない?」
さおり「えっ?」
俺はさおりちゃんを連れて病院の外へ出た。
さおり「大丈夫かな。」
孝太郎「少しだけだから、大丈夫だって。もしばれても俺が怒られればいいだけだから。」
さおり「私、夜に外を出歩くなんて初めてです。」
俺はさおりちゃんを連れてある場所に向かった。
さおり「ここって学校?」
孝太郎「そう。俺が通うはずだった高校。よし、それじゃあ、行こうか。」
さおり「えっ?行くって高校の中にですか?」
孝太郎「そう。さおりちゃん、学校に行ってみたいって言ってたじゃん。だから、行こう、大丈夫大丈夫。」
とは言ったもの当然どこも閉まっていて中に入れない。
孝太郎「どこか一ヶ所ぐらい空いてると思ったんだけどな~。」
さおり「もう十分ですよ。学校に来れただけで十分楽しめました。」
その時、さおりちゃんの後ろに死神の姿が見えた。
孝太郎「さおりちゃん。ちょっと待っててくれない?すぐに戻るから」
さおり「えっ?孝太郎さん?」
孝太郎は死神の元に行き
孝太郎「ちょっと、頼みたいことがあるんだけど。」
死神「私達は基本的に人間に干渉してはならないということになっている。」
孝太郎「そこをなんとか。」
死神「ふ~。今からやることはお前に言われたからではないからな。」
そう言うと、死神は校舎の中に入っていき、窓の鍵を外した。
孝太郎「ごめん。ごめん。あれっ。あそこの窓の鍵外れてない?」
さおり「えっ?あっ本当だ。」
孝太郎「よしっ。これで入れるね。」
俺はさおりちゃんを連れて校舎の中に入った。
さおり「うわ~。机と椅子がいっぱいありますね。ここで皆勉強してるんですね。」
孝太郎「さおりちゃん。ちょっと、そこの席に座ってみたら?」
さおり「えっ?でも。」
孝太郎「いいからいいから。」
さおりちゃんを座らせて俺は黒板の前に立った。
孝太郎「え~。こほん。それじゃあ、この問題を柳さん!」
さおり「はい!○○○です。」
孝太郎「正解!」
俺とさおりちゃんは校舎内を散策して屋上に出た。
さおり「わぁ~。綺麗だね。」
孝太郎「そうだね。」
さおり「孝太郎さん。今日はありがとう。」
孝太郎「楽しんでもらえたなら良かった。」
さおり「うん。すっごく楽しかった。多分、人生で一番。」
孝太郎「おいおい。人生で一番なんて言うなよ。まだまだこれから楽しいことなんていっぱいあるよ。」
さおり「そうだね。ありがとう。私、正直まだ、明日の手術が怖いの。でも、明日も明後日も迎えるために私頑張るよ。」
孝太郎「うん。大丈夫。さおりちゃんならきっと大丈夫だよ。退院したらまた一緒に散歩に行こう。」
さおり「うん。約束だね。」
孝太郎「約束。」
その後、俺とさおりちゃんは病院に戻り看護士さんにこっぴどく怒られた。
次の日
看護士「それじゃあ、行こうか。」
さおり「はい。お願いします。」
孝太郎「さおりちゃん。頑張って!」
さおり「うん。行ってきます。」
俺は病室でただただ祈り続けた。
しばらくして病室に看護士さんが入ってきた。
孝太郎「看護士さん。さおりちゃんは?」
看護士「残念だけど、さおりちゃんはお亡くなりになりました。」
看護士さんはそう言うと、病室から出て行った。
孝太郎「そんな。さおりちゃんが。」
孝太郎「くそっ。どうして。どうしてさおりちゃんが死ななきゃいけないんだ。」
死神「わかったでしょう。死からは逃れられない。貴方もこれからは普通に暮らすことね。」
孝太郎「俺はっ。俺は無力だ。こんな力があっても何も変えられない。」
死神「死ぬ運命は変えられない、けれど、人の気持ちは変えられる。それを今回は見せてもらったわ。」
死神「それじゃあ、今度こそサヨナラ。」
そう言うと死神はその場から消えた。
しばらくして俺は退院した。
学校に通うようになったが完全にタイミングを逃してしまい、今はボッチである。
今日も一人で中庭で購買で買ったパンを食べている。
?「君。1年の杉並孝太郎君だよね?」
孝太郎「えっ。そうですけど。」
?「やっと見つけた。私はさおりの柳さおりの姉の柳みよ。」
孝太郎「さおりちゃんの。」
みよ「さおりが入院してる間お世話になってたって聞いたから。とりあえず、ありがとう。」
孝太郎「いえ、俺は別に何も。さおりちゃんには俺の方がたくさんお世話になりました。」
みよ「それで、君に渡したい物があるんだ。これなんだけど。」
孝太郎「手紙ですか?」
みよ「そう。さおりが書いてたみたいで。渡せて良かった。」
みよの友達「みよ~。」
みよ「あっ。ごめん。友達が呼んでるから。それじゃあ、またね。」
孝太郎「あっ。うん。ありがとう。」
孝太郎はベンチに座り手紙を読んだ。
孝太郎さんへ
手紙なんて書くのは初めてで書きかたがよくわからないけど、私の気持ちを素直に伝えたいと思います。
今回の手術はかなり難しい手術で成功する確率はかなり低いと聞かされていました。
だから、今まで手術から逃げてきました。
でも、孝太郎さんと出合い、外の話を聞いたり、一緒に遊んで私も外に出たいと思いました。
手術の前日のことは一生忘れません。
本当に本当にありがとうございます。
貴方に出会えて良かった。
ps退院したら一緒にカラオケに行きたいです!
さおり
俺は気がついたら涙を流していた。
死ぬ運命は確かに変えられないのかもしれない。
それでも、俺は死ぬとわかっている人を見ぬふりはできない。
だから俺は俺にできることをやろう。
俺は今日そう決めた。
この気持ちは何人たりとも変えられないし、変えてはならないと思う。