1-3 タカハシ少年
タカハシ少年は淡々と己が少年院に入れられるに至った経緯を語り始めた。
貴也少年は箸を置き、それに耳を傾けた。
「ワイはヤクザの見習いみたいなもんでな。
大阪の組に世話してもらってたんや。で中学卒業したら本格的にヤクザやってこうと思った。
それを組長さんに言うたらな、隣町の組の頭殺してきたらええぞ言うねん。
まぁヤクザになるんやったらそれくらいした方が迫もつくし、実際やってくにもそれくらい根性がいるやろしな。で、1ヶ月前くらいかな、ワイは隣町の組まで行って 組長が出てくんのを待ってた。
もちろん隠れながらやで。
家から持ってきた果物ナイフをポケットで握りながらな。
でしばらくして気付いたんやけど、震えてた。
これから人様の人生終わらせるんやー、思うたら震えがますます強くなって、歯までカチカチ音立てよってな。
でももう後には引けんくてな、刺した。
二カ所。
腹と胸。
本物のヤクザから走って逃げた。
隣町言うても地元やしな。裏道使いまくってなんとか逃げられたんや。で組長に報告した。刺して来ましたいうてな。
まぁ死んだ自信はなかったから刺したいうたんやけどな。
そしたら組長は警察が来たら、絶対に組のことを言うなって口止めしたんや。理由はお前の私怨や言うことにしてな。
で、そんですぐにワイんとこに警察が来た。ワイは言うとおり私怨やいうことにした。
ヤクザには少年院出は一般で言う東大出みたいなもんやし、ラッキーくらいに思った。
つまりな、ワイも人殺し言うわけや」
タカハシ少年は長い話に区切りをつけて一息ついた。
貴也少年は口を開いた。
「なんでそんな話を俺に??」
「簡単や」
少年は続けた。
「スカウトや。
お前は親を殺した。それは少年院を出ても変わらん。
そんなお前を雇う企業があるとは思えんし、親殺すくらい狂っとればヤクザとしては申し分ない。
だけどヤクザは義理人情の世界やから、親殺しは受け入れられない。だからお前を組長の組には入れられん。
だけどワイがもし将来、組持つことになったらお前みたいな奴が欲しいねん。
ワイが組持てたらの仮定でスカウトしとんのやけどな。
どや??」
どや 言われてもな。
少年は顔全面にその感情を露呈した。
「ここを出てからの話は出てから考えます。
俺の考えを押し付けるつもりはないけど、組を持ったときのことは組を持ってから考えた方がいいですよ」「さよか。ほなそうするわ」
タカハシ少年はすぐに返事をし、膝をポンと叩いた。
「あと、も一個」
「なにか??」
「少年院の闇は深いで。
組の兄さんに聞いたんやけどな、オカマ掘られたりせんように気をつけや。
あとこの扉は基本的にすぐ開くし、廊下には監視おらんから、ワイの部屋だけなら行き来できるはずやで。
ほな、なんかあったら言うてな」
タカハシ少年はそれを言い残し、部屋から出て行った。
台風のような奴だ。
それが貴也少年の抱いたタカハシ少年の第一印象だった。