1-1 所長室
「見たまえ」
北海道 釧路少年刑務所 所長の長沢は、一人の少年に新聞を投げつけた。
二人の屈強な男に脇を固められながら、少年はそれを拾う。
「世間は大騒ぎだ」
少年は長沢の言葉など意に介さず、己の記事を食い入るように見つめた。
彼は茶色の長髪を左手でなでつけた。
「法に感謝しろ、本馬貴也。
少年法のおかげで、貴様の刑期は二年足らずだ」
長沢は忌々しげに吐き捨てる。
それを聞いた貴也少年は笑った。
笑いを押し殺して押し殺して、なお溢れ出たように控えめに笑った。
「なにがおかしい??」
「いえ、なにも」
いえ と言ったそばから貴也少年は笑った。
「黙らせろ」
長沢は少年の両隣にいる男に命令する。
その命令に沿い、男は腹に一発パンチを決めた。
少年はあっけなく倒れ込んだが、まだ笑い声は止まらなかった。
男は一つ舌打ちをし、少年の腹を蹴った。
うめき声が上がり、ようやく少年の笑い声は収まった。
「頭を刈ってやれ」
長沢が言うと、男は慣れた手つきでバリカンを使い、少年の頭を刈っていく。
茶色だった髪は黒地に戻り、うまいもので虎刈りになったところなどなかった。
少年は所長室を男と共に出、外にいたもう一組の男達と入れ違う。
しばらく立って待機した。
少年は廊下を見渡した。
直線で伸び、薄暗く、終点が見えない。
その終点の先はなにがあるんだろうか??
深い闇を少年は見続けた。
しばらくして所長室の扉が開き、さっきまで金髪で短髪だった男は少年と同様に坊主になっていた。
少年と貴也少年は二人並ぶ。
男が前に出て口を開いた。
「今日は特別に一人部屋、独居房で寝かせてやる。
各自教官について行け。わからないことは手をあげて質問すること。
いいな??」
そう言うと男は背を向ける。
「高橋は中村教官に、本馬は私について来い。」
そう言うと男は歩きだした。
高橋少年と貴也少年は逆方向に歩き始めた。