138 彼にこの気持ちを伝えるなら、好きって言葉なんかじゃとても足りない
※後半、読みようによってはレイティング的な表現があります。ご注意ください。
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――こちら、芦原議員の自宅です。電気は一切、ついていませんね。電話インタビューを申し込みましたが、出ていただけない状況です。
――学校の説明では、動画サイトでライブ配信されたものが、全て真実であるとのことでした。明日、安芸市と安芸市教育委員会が緊急会見を開く予定です。
――秘書の方からコメントのをいただきました。芦原議員は息子の実態を把握しておらす、精神的にダメージを受けた。現在、緊急入院したとのことです。
――該当の生徒へのインタビュー各マスメディアを申し込みましたが、株式会社UP-RIVERや夏目コンピューター、音無グループ、アップダウンサポーターズ? なんですかね、コレ……をはじめとした各種団体から抗議が寄せられています。当社としましては……。
プツン。
私はテレビのリモコンを取り、電源を消してしまう。
「雪姫?」
「ご飯を食べながら、テレビを見るのはお行儀が悪いと思います」
「あ、それは。ごめ……。でも、雪姫に関わることだか――」
そう言う冬君を半ば無視して、ハンバーグを箸で小さく割って、差し出した。お皿の上で、肉汁が漏れる。
いわゆる「あ~ん」ってヤツだ。
最初は恥ずかしがっていた冬君だったけれど、条件反射のように口を開く。少し照れくさそうではあるけれど。
恥ずかしいか照れないかって言われたら。私だって恥ずかしい。でも、それ以上に愛おしい。誰にもこの役目は渡さない。気付けば、冬君をもっと独り占めしたいって思ってしまう。
冬君は分かってないと思う。
私は、今日ケジメをつけた。
自分の中で、かなり勇気を振り絞って。
みんなに、自分の気持ちを伝えること――以上に、私にとっては、冬君に気持ちを伝える。それ以上の理由はなかったんだ。
冬君の隣で、しっかり立てるように。
心配をかけないように。
それこそ足枷にならないように。
結果――それは無理だったけれど。
冬君の距離が遠いと、息が浅い。うまく呼吸ができない。最終的には、チアノーゼになって。でも、冬君が傍にいるだけで、呼吸が容易い。
知っていた。
私、冬君に依存している。
知らなかった。
私、冬君に対しての「好き」って気持ち、こんなに底がないって。
芦原さんや、生徒会長さんなんか、それこそどうでも良いって思ってしまう。
朱音さんや、瑛真先輩が冬君を好きだって気持が胸に突き刺さる。
彩ちゃんの純粋にCOLORSの真冬を好きという気持ちも――その全部、牽制したいって思う、私はワルい子で。
私は言いたかったんだ。
みんなに、ありがとうって。
それ以上に、私が一番、冬君を大好きだよって。この気持ち、誰にも負けないよって、ただ、そう言いたかっただけ。
「普段、冬君はテレビを観ないもんね」
私中心で冬君が考えてくれていることを知っている。
でもね、やっぱりイヤって思うんだ。
「私じゃなくて、テレビの方ばかり見てるのは寂しいかな」
「ん、それはごめ――」
「別に怒ってないよ?」
冬君の唇の端に、私の唇を添える。
うん、トマトケベースのハンバーグソースの味。美味しくできたって思う。
「雪姫――」
もう一度、キスをする。
トマトの味は薄れて。
でも、それ以上に甘い。一度、キスをするともっと冬君が欲しくなる。それだけじゃ、全然足りない。
私ばかり、求めている気がして――。
と、暖かい温度が触れた。頬に、唇の端、そしてなぞるように。まるで雨が降るように。何度も何度も、優しくキスされる。
「冬君、ご飯中……」
「その最中に煽ったの、雪姫だからね」
かたん。
箸が落ちたんだと思う。遠くで、そんな音を聞きながら。
冬君に深くキスをされて。
ふわふわした感情に溺れながら。
――冬君、好きだよ。
ますます、そう思った。
覚悟、決まった気がする。
■■■
「冬君、入るね」
私の声でシャワーが止まる。優しいなぁって思う。
「ん、うん……」
少し暖まったら髪と背中、そして無理にならない程度に、右腕を。一緒にお世話を始めてから、お決まりのルーティン。スクール水着はあまりに煽情的だからと、今はワンピースタイプの湯衣を着用している。お母さんが――空に買わせたらしい。翼ちゃん用にも購入済みなのは、置いておくとして。
「いつも、ごめ――」
冬君が振り向いて固まった。慌てて、前をむく。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆき?!」
「なに?」
にっこり笑ってみせる。冬君の耳朶まで赤いの、お湯のせいだけじゃない。
「……湯衣はどうしたの?!」
悲鳴にも近い声をあげ、狭い浴室に反響する。可愛いなぁ、って思う。こうしている間も、私の心臓は飛び出そうだ。なんとか、その緊張を飲み干す。体育館のステージに立ったことを思えば、なんてことはない。
冬君は私を拒絶しない。
だから、踏ん切れた。
もっと踏み込みたい。そう思った。
ただ、《《ありのままの姿》》で、同じ空間にいるだけだから。
だって、ずっと決めていたから。
本当の意味で、冬君を独り占めしたい。
あなたは、私が学校に行けるようになったらお役御免になるって言ったよね?
同じコトを思う。
もしもCOLORSのみんなと仲直りしたら――。
分かっている。
冬君は私をしっかり見ている。
余所見もしない。
欲しい時に、欲しい言葉を。
頼りたい時に、絶妙のタイミングで手を差し伸べる。
だったら――。
この我が儘も受け止めて?
「お風呂だもん。冬君だって、裸でしょ?」
シャワーでお湯を流しながら。それから、ピトリと彼に背中越し抱きついた。
「あ、あの、雪姫――」
「うん?」
「その、背中が、あの……」
「当ててるよ。私を感じて欲しいって思うから」
そっと手をのばして、冬君に触れる。
華奢に見えて、しっかり筋肉がある。
ちゃんと男の子だなぁ、って思う。
うん、本当にしっかり男の子だ。
「ゆ、雪姫。これ以上はまズいって――」
「こういう私は嫌い?」
「そ、そうじゃなくて……」
「何?」
「抑えられないというか……」
「うん、抑えて欲しくない。遠慮もして欲しくない。他の子に余所見もさせたくない。私ね、今日のことで思ったの」
鏡越し、冬君が私を見る。冬君も、私を見る。心なし、視線をそらすのは、きっと私の躰を見まいとして。でも、今回はその行動は不正解。ちゃんと私を見て欲しい。目を逸らしたら、イヤだって思ってしまう。
「……今日の、こと?」
「私ね、冬君がいないとダメだって思ったの。本当は、ちゃんと自分の足で立って、ちゃんと冬君の相棒だねってみんなに言ってもらいたかった。でも、ダメだった。それでも、今日はずっと冬君、こんな私の傍にいてくれたでしょ?」
「当たり前だし〝こんな〟なんて思ったことない。雪姫は頑張ったよ」
コクンと頷く。どうしよう、そうストレートに言われたら、頬が緩んじゃう。
「でも、素敵な女の子はたくさんいるでしょ? 冬君がCOLORSに戻ってしまったら、私みたいに重荷になる子よりも――」
違う、そうじゃない。本当に言いたいのは、あなたを好きだって。誰よりも好きなんだって。好きって言葉じゃたりないくらい、好きなんだって、そう言いたいのに。高校生が愛している、って言うのおかしい?
でもね、冬君に一番捧げたい言葉って――愛している、なの。
あなた無しじゃ、生きられない。
まだ16歳の――この冬で17歳になる私が言っても、軽薄だって思うけど。
私の本心は――。
「愛してる」
くるっと、冬君が振り返って。ちょっと乱暴に、左手で抱きしめて――私は目を丸くする。
「青臭いって思うかもしれないけれど、俺の本心だから。伝わらないなら、何度でも伝えるよ。分かるように、言葉にするし。それでも伝わらないのなら、刻みつけるから」
「ふ、ゆ君?」
流れ続けるシャワーの音。それじゃ、かき消せないくらい、はっきりと言葉が響く。
――愛してる。
耳朶を噛まれた。
髪をその手で撫でられて。
指先で、唇で、頬で、言葉で。その躰を、強く抱きしめられる。
呼吸が浅い。
息ができない。
息継ぎをするのが、勿体ないくらい――貪っている。
諦められる?
――無理。
誰かに譲れる?
――絶対、無理。
その視線が、他の子に向くの許せる?
――無理無理。
私の冬君なんだ。
誰にも触れさせない。
愛おしさが、こみ上げて止まらない。
この気持ちに、蓋できる?
――ずっと、そんなの無理だった。
進むのは怖い。
でも、冬君をもっと欲しいと思う本能から逃げられない。
欲しいの。
全部、欲しい。
ヤダ。
他の子を見ないで。
私の冬君だって、刻みつけたい。
私に色を塗って。
私も貴方に、私だけの色を塗るから。
――愛してる。
青臭い言葉が、浴室に響いた。
■■■
まるで、溺れているみたい。
水中の中、藻掻きながら。
言い得ない、感覚が駆け巡る。
(例えるなら、電流?)
この感覚が怖い。
微弱で。触れられながら、突然、訪れる大きな刺激に、躰そのものが跳ね上がる。
私じゃないみたい。
優しく触れられながら。
眠っていた感覚を――隠していた本音に触れられる。
それ、まだ足りないと言わんばかりに。
(意地悪――)
冬君は、もっと深く。
私の本音を引き出そうと、掻き回す。
――い、息が……。
無理。
無理じゃない。
もっと、冬君の本音を聞きたい
私も冬君に刻みつける。
離さない。
離してあげない。
何度だって、刻みつける。口吻をしながら。お返しと言わんばかりに、今度は冬君に楔を打ち込まれて。冬君が私に刻みつける。何度も、何度も――。
冬君の気持ち。
――離さない。
本音。
――俺の雪姫だから。
それから、心音。
――愛してる。
私に全部を穿つように。
――本当に息ができない。
あなたがいないと、息ができない。
想像するだけで、痛い。怖い。痛い。
それが、過ぎると、痛いが「もっと欲しい」に変わる。まるで魔法みたいだって思う。
(――もっと冬君と居たい)
望んだら、際限ない。
もっともっと、冬君が欲しい。
もっと本音を奥底まで、穿って。
隠さないで。
遠慮しないで。
右手、痛くない?
それ、今さらじゃない?
冬君の囁く声は全部、甘い。
でも、やっぱり気になって――。
ちゃぷん。
お湯が跳ねる。
私の髪を冬君が梳く。
――大丈夫だよ。
冬君はそう囁く。
そうされるの、一番好き。
だから、他の子にはしないで。
私だけにして。
私の冬君だもん。
絶対に、離してあげない。
――むしろ、俺が離してあげないから。もう抑えられないから、ごめんね。
そう冬君に囁かれて。
■■■
視野が白濁した私は――ただただ、冬君を全力で抱き締めことしかできなかった。




