124 COLORSのカラフルカラーズ
「それでは、改めまして! 安芸FM放送をキーステーションに、全国38局でオンエア! 【COLORSのカラフルカラーズ】特別編成でお送りします。お相手はCOLORSの蒼司!」
「朱音!」
「翠」
「真冬」
「「「「「四人でTRUE COLOR――COLORSです」」」」
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「久々に四人バージョンでの、ジングルを聞いてもらいました。いや、この編集すごくない? スタッフさんが、かつての音源と今のジングルをミックスしてくれたんですよ。AD・K崎君、本当にありがとう!」
「……蒼司、これはいったいどういうことなの?」
「朱音、それは番組前にちゃんと説明したじゃんか」
「あれは説明になっていないと思いますよ? 『緊急特別番組を生放送でやるから』って。リスナーの皆さんも私や朱音と同レベルで、取り残された感が半端ないですから。ちゃんと説明してくださいね」
「……リスナーからSNS経由でメッセージが届いてるよ?」
@n****:え? 真冬って脱退したんじゃないの?
@*f****:真冬さん、活動休止中ですよね? でも、この動画に映っているのって――。
@**g**:動画とのハイブリット企画なのか? しまった! 見逃したよ!
@****7:ていうか、この動画やばくない?
@**y**:セクハラ受けていた子……普通なんだけど……可愛い! その素朴さが良い! 俺もセクハラしたい! う、ウソです! すんません!
@s****:真冬さんの彼女? てか、真冬さんが格好良すぎる。これリアル? 映画? 真冬さん出演の新作?!
@*u***:これ今までのCOLORSじゃ絶対にやらなかった演出だよね? いったい何があったの?
「リスナーの皆さんから、たくさんのメッセジーをいただいています。まずは――」
「真冬は脱退してないよ。ホームページにも書いていますが、現在、真冬は活動休業中なだけですからね!」
「朱音はそこなんだよね」
「そこしかないでしょ? 蒼司は違うの?」
「違わないよ、同意見だからね」
「はいはい、そこはCOLORS全員の総意なんです。よろしくお願いしますね。それじゃ、リスナーの皆さんと、私たちの質問に答えてもらいましょうか?」
「……翠、目が怖いよ」
「ラジオなので、この空気感をお伝えできないのが本当にザンネン」
「朱音?!」
「……えっと、まずはこの動画ですが、この番組【カラフルCOLORS】の番組内企画【学校に行こうぜ!】の一環です。不登校だった女の子が、周囲のサポートを得て、ようやく学校に行けたんだよね。でも、彼女の登校を快く思っていないヤツらがいた、と」
「なにそれ! 許せないんだけど!」
「それが、この動画ってことですね」
「そういうこと。ライブ配信は終了しましたが、アーカイブ配信に切り替えて、配信は継続しています。気持ちの良い動画じゃありませんが、主人公君がピンチに駆けつけるところまでは耐えてください」
「これって、【ふー】なんじゃ――」
「朱音、彼が誰なのかは観た人に任せようね。ここからは、彼女の物語をラジオドラマでお伝えしたいと思います。タイトルはね『君がいるから呼吸ができる』この物語をハッピーエンドにするのは、リスナーの皆さんだと思っています。この物語のなかでね、サポーターとして支えるシーンが随所であるんです。その時はSNSで『アップダウンサポーターズ!』と一緒に掛け声を発信して欲しいんですよね。よろしくお願いします!」
「え、それって、どういう……?」
「大丈夫、そんな難しい話じゃないから。ちょっと練習してみようか。せーの――」
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「「「アップダウンサポーターズっ!」」」
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うつら、うつら。
こくり、こくり。
寝ているのか、現実なのか。
自分でも、その境目がよく分からない。
心地よい温度を感じて、また微睡みそうになる。
プリントを届けるところから始まった。
COLORSを脱退して、人と関わることが上手くいかなくて。
頑張ってみようと思えば思うほど、空回りした。
――お、俺、上川冬希です! そ、その、よろしく!
――誰?
――さぁ? 知らない。
会話はそれで終了した。
地域の中学校から、進学する子が多い。コミュニティーは、とっくの昔に完成されていた。高校デビューなんか、夢の中の夢。寝言は寝て言えって、話だった。
もしも真冬であることをカミングアウトしたら何かが変わったのだろうか?
でも、それだけはイヤだった。
結局、上川皐月と、上川小春の子ども。そんなステータスしか俺にはなかった。
猫が隣にいる以外は、無為に時間を垂れ流して。
だから。
雪姫と友達になれた。それが、何より嬉しかったんだ。
――俺が一番、下河さんと友達になりたいって思っていたんだ。
紛れもない本心。でも、どんどん欲張りになっていって、友達じゃ満足できない俺がいて。
――このままじゃ、冬君がいなくなっちゃう。そう思っちゃった……。
あの時、吐露してくれた雪姫の不安が、鼓膜の奥底で響く。その言葉をなぞりながら、むしろ逆だって思ってしまう。
雪姫が一人で、外に出ることができたら俺は不要になる。
でも、リハビリを頑張っている雪姫に、俺のヨコシマな感情を晒すわけにはいかない。
――私ね、冬君がいるから呼吸ができたんだよ?
それは、むしろ俺だ。この子がいないと息ができないくらいに。依存している自分がいる。
雪姫は立ち向かって、その因縁を断ち切った。
(……それじゃあ俺は?)
いずれ、一人でも雪姫は呼吸ができる。かたや今回のことで、俺は停学は免れないだろう。最悪は退学かな。そう思えば思うほど、思考が迷宮の奥底に沈み込んでいく。
と――。
さらっと、髪を撫でられるのを感じる。温かい温度が、頬を支点に包み込むようで。俺は目をパチクリさせた。
(これ……膝枕?)
思わず顔を上げれば、雪姫が口元を綻ばせていた。
「変な不安、感じていたんでしょう?」
「え――」
感情が筒抜けだった。雪姫はそんな俺を見ながら、笑みを溢す。それからかがんで俺の唇を唇で塞ぐ。
「ゆ、雪姫――」
もう一回、唇で塞がれた。
「……また遠慮していたでしょ? 私が学校に行けたから。あの人達と向き合えた。でも、そのせいで冬君はムチャをし過ぎたって思っている。そんなとこかな? それが理由で、私に迷惑をかけるとか、離れなくちゃいけないって思っているのなら、冬君は私を過大評価していると思う」
「過大――?」
評価?
「何回も言います。私は、冬君がいないと呼吸ができません。同じように学校にも来られません。仮に、冬君が退学になるのだったら、私も退学すると思う」
「いや、雪姫? 落ち着いて! 今、君は何を言っているのか分かってる?!」
「冬君よりはしっかり分かってると思うよ? だって、冬君がいたから、私は学校に来られたんだもの。もちろん、みんなのおかげもあるけれど。一番は冬君だよ。冬君がいなかったら、私は学校には来れなかった。普通に生活をしてて、息だってできない。ただ、それだけの話だよ?」
俺はどう言って良いか分からず、口をパクパクさせる。雪姫はその表情すら愛おしいと言わんばかりに、俺の髪を撫でる。
「冬君を退学になんかさせない。どうして良いのか、正直、考えつかないけれど。そこはみんなと相談をしたら良いと思うの。でも、あんな人達に負けない。絶対に負けない。それだけだよ」
にっこりと雪姫が笑う、その瞬間――だった。
唐突に第三者の声が割り込む。
「そういうことだね。どこから割り込んだものやら、悩みどころだったんだけどね。CMの後、ヒーローインタビューとしゃれこみましょうか!」
「……その声、蒼司?」
忘れるはずがない。
耳に慣れ親しんだ声が、校内のスピーカーから響いてきた。
どうして気付かなかったのだろう。
ベッドの脇に立つマイクスタンドとカメラが、あまりにも不自然すぎた。
「ラジオの特別番組の企画なんだって」
「校内担当DJの芥川媛夏ですっ! 先輩たち、保健室で膝枕とは見せつけますね!」
「久しぶりだね、冬」
「やっぱり、ふーじゃない! その子はいったい誰なのよ?!」
「ふー君っ! 私もじっくり聞きたいです。でもその前に、肩の怪我は大丈夫なんですか?」
雪姫、芥川さん。それから蒼司。そして、朱音と翠の声が入り交じる事態に、俺の脳は情報処理が追いつかない。
無意識に、起き上がろうとして、雪姫に抑えつけられた。体勢がずれて、頬に雪姫の生足が触れる。
「……いきなり起きたら、目眩がするよ?」
「あ、あの雪姫?! これ、見られているの? 撮られてるの? え? え?」
「――んっ。冬君、そんなトコに息を吹きかけたら、くすぐったい、よっ……」
いや、そこでちょっと艶やかな吐息を漏らさないで。
「ふー?!」
「ふー君?!」
スピーカーから、やかましいくらいに、朱音と翠の声が響く。あの、なんでそこで非難の声が上がるの? ちょっと、蒼司、何とか言って!
「冬……」
ボソリと蒼司が呟く。助かったと胸を撫で下ろす。この幼なじみ4人の関係がギクシャクした時、いつも、そんな感情をリセットしてくれるのは、ムードメーカーの蒼司だった。
「ぷぷっ……番組の途中、修羅場展開ですが、ここでCMです!」
蒼司ぃぃぃっ?!
(なに笑ってるの?!)
俺の心の声は、幼なじみに微塵も届いていなかった。
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@**j**:これって修羅場なんじゃ……
@***m*:COLORSってそんな関係だったの?
@p****:めっちゃ仲良しじゃん!
@**b**:真冬さんとの不仲説は無いね、これ。
@*y***:真冬、復帰の前振り?
@****u:これ絶対、神回だよ!
@*s***:動画サイトとハイブリッド企画だから今すぐ、公式サイト見て!
@**d**:真冬さんとあの子の物語ってことだよね? マジ泣いたんだけど。
@f****:あのハゲ、教師かよ。誰か情報晒せよ
@**k**:6ch見て。もう晒されてるから!
@***i*:twetterのトレンド「アップダウンサポーターズ」が3万超えツイート? ちょっと、すごくない?
@a****:拡散して! この回は絶対聞くべきだから!
@***e*:応援しようぜ、みんなで! あの子が学校に行けるように!
――アップダウンサポーターズ!




