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ドミノ2 青空日向 → 古書店の店員 → 謎の魔術師


 築六十年の古書店『ブラッディーウルフ』。


 ぶっ飛んだ名前の老舗。そのカウンター内で店番の青年がガッツポーズしていた。



 店主である祖父に、売り上げの半分が報酬だと言われて押し付けられた店番。

 どうせ無報酬だろうと不貞腐れていたのだが、本が一瞬で大量に売れたのだ。

 その額、三万円。


 幸運の女神が微笑んだ。

 大袈裟な表現だが、彼は心からそう考えていた。

 新たな生活を始める友人に餞別せんべつを送るため、丁度、お金が入用だったのだ。


 青年は、先ほどで「おのれ、偏屈ジジイめ……」と毒づいていたことなど忘れて、祖父孝行はしてみるものだと一端いっぱしのことを考えていた。


 女神の使者ともいえる若い客に感謝をすべく、心の中で手を合わせた。

 

 最初はマニアの類かと思ったが、会計の際、度々店を利用してくれている会社宛ての領収書を要求していたので新入社員といったところか。

 若者は「ピンポイントじゃねえか!」と叫んだあと、嬉しそうに本を手に取っていたので、探していたものが見つかったのだろう。



 客は去り、己だけとなった店内を青年は見渡した。

 数冊分、空いてしまった棚を見て、詰め替えの作業をしなければと行動を開始する。


 無造作に積み上げられた本の山、その頂点から数冊を手の中に抱えた。

「この山からは好き勝手に補充していい」と言われた、いわゆる二束三文の品物たち。


 内容は由来のしっかりしないものや、大量に出回ったがゆえに売られまくることになった人気作等々。

 希少な本は分けられているので、作業をするにも緊張感はない。


 それでも、雑に扱えば、祖父から稲妻のような怒りが降り注ぐことになるのだが。



 慎重に本を落さないように棚の前に立つと、青年は次々と棚へと並べ始めた。


 「おっと」


 思わず作業を止めたのは、手にした一冊があまりにずっしりと重たかったからだ。


 他の本よりも一回り大きく分厚い洋書らしき一冊。

 重厚感のある表紙には、タイトルと思わしき異国の言葉のみが記されていた。

 裏や背を見ても、著者名や社名らしき項目すら記載されていない。


 内容が気になり本を開くと、そこには見たこともない文字と奇妙な図形がびっしりと書かれていた。


 本よりも音楽に身を捧げてしまったとはいえ、腐っても古書店店主のの孫である。

 たまにある豪華な落書きや、悪戯の塊のような本であるように青年は判断した。


 その類のものであれば、ものによってはとんでもない値段がついたりするのだが、本の虫――親玉級の祖父が見逃すはずがない。


 ならば、ただの安物であろうと、青年は気にせず棚に並べることにした。



*****


古書店の店員 → 謎の魔術師


*****




 有下ありした玖郎くろうは腕利きの魔術師である。


 奇術師ではない魔術師だ。


 現代に生きるものの中では世界屈指の腕前と称えられている彼だが、腕前とは別の理由で裏の世界で名を轟かせていた。

 力を持つがゆえに好き勝手に生きるものが多い魔術師たちの中でも、希少な常識人。


 話が通じる数少ない人物として、彼の元には多くの相談事が持ち込まれていた。


 不幸なことに、彼は困っている人を捨て置けない善良さと、人並外れた力の持ち主でもあった。

 結果としてトラブルバスターのような役割を担うこととなり、気がつけばそれが天職となってしまっていた。


 分かりやすく言うのならば、化け物専門の退治屋。


 そう呼ばれるようになって早十年。気がつけば年齢は三十手前となっていた。




 現在、玖郎は恐ろしい事件に携わっていた。


 きっかけは、九州のとある集落からの相談事。

 全員が何度も同じ夢をみるという奇妙な現象に、住人たちは悩まされていた。


 医療関係者の出した結論は、繋がりや仲間意識が強い地方の集落だからこと起こった、精神的な同調現象。

 時間が経てば時期に落ち着くと言われていた住人たちであったが、日が経つごとに夢は明確になり頻度もあがり続けたのだ。


 そうして玖郎の元に話が届いた頃には、事態は切羽詰まった状況になっていたのである。


 夢の正体を探ることは容易であった。地方の民話に、山ほど情報が残されていたのだから。



 原因は、その地に眠る化け物。

 古の戦士たちが周辺地域からも集まり、何十人と命を散らせて封印するのがやっとだったという、強力な存在である。


 己の手に余る。

 それが九郎の正直な感想であった。

 彼は戦闘狂でもなければ、功名心や富を求めているわけでもない。


 無理をして戦う必要は無い。相談者には申し訳ないが、住民の集団移住さえも視野にいれていた。

 企業や役人。これまで玖郎が結んだ縁を考えれば不可能な話ではない。

 彼らの無事を確保できれば、それで依頼は終了なのだから。


 しかし、玖郎は素直にその手段を選択することができなかった。

 結局のところ、その化け物が解き放たれてしまうことには変わりないからである。


 打開するための策はないか。

 知り合いの巫女――お近づきになりたい相手――に占いを依頼し、啓示されたのは一つの町の名前であった。



 出会いを信じて、街を散策していたのだが……


「う、嘘だろ……」


 玖郎はふらりと立ち寄った、古書店で衝撃のあまり腰を抜かしそうになっていた。


 店員の目がなければ実際に腰を抜かして「はわわ」と声を出していただろう。



 彼の目の前には、伝説などという言葉でも生温いほど魔力が内包された一冊の本。

 ただの古書店に置かれていいレベルではない。


 いや、例え魔術専門の施設だとしても、人目に触れる場所に置いていいものではない。


 玖郎は震える手を、そっと本へと伸ばした。

 むんずと掴み三百六十度、あらゆる角度で本の状態を確かめる。


 そして背表紙を見た彼は、思わず心ん中で叫んだ。



(さ、三百円!?)



 その日、玖郎は格安で化け物退治の切り札を手に入れることとなった。


お読みいただきありがとうございます (*ᴗˬᴗ)⁾⁾


魔術師がお近づきになりたい相手ですが、向こうも魔術師にお近づきになりたいと考えています。

このドミノもどこかに繋がります。


次の投稿は明後日の昼頃を予定しております。

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