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第一話 ドミノの始まり

コメディー風味な現代恋愛ものとなります。よろしくお願いします。


 ちょっとした出会いが、人生を変えてしまうことがある。


 素敵な雑貨屋。

 面白い深夜ラジオ。

 やけに口に合うコンビニのスイーツ。


 日々を少しだけ色づけてくれる小さな魔法。。

 御手洗みたらいはなにとって、それはある人物との出会いだった。



     *



 花には幼い頃から、変わった趣味がある。


 五歳のクリスマス。家族で遊んだカードゲームがあまりに楽しくて虜になってしまったことが、すべての始まりだった。

 数日もすれば飽きるだろうと笑顔で付き合っていた両親も、ひと月、ふた月と時を重ねるうちに「うちの子、ガチ過ぎないか?」と冷や汗をかくこととなった。


 両親の予感は的中し、何年経っても彼女は猛然と突き進み続けた。

 カードゲームだけではない。ボードゲームにテーブルゲーム、種類と分野を増やしながら。


 高校を卒業するその時まで、ついに彼女の趣味嗜好が変化することはなかった。

 いや、むしろその情熱は増し続けるばかり。

 最早、彼女にとってアナログなゲームたちは人生の一部となっていた。


 幸運なことに、同類ではないが理解者とも呼べる友人がおり人間関係に苦労することはなかったが、喜びを共有できる相手が身近にいないという寂しさを彼女は常に抱えていた。

 そんな花が、進学先を東京に決めたのは必然だった。

 日常的にそれらが遊べるカフェや、愛好家が集まるイベントが豊富に存在することを知ったからには、他の選択肢など考えられるはずもない。


 あわよくば沢山の仲間と出会えるのではないか?

 胸いっぱいに期待を抱いて、彼女は上京を決断した。




 入学先の大学で、花は当然のようにアナログゲームの同行会に入会した。

 通ううちに気がついたのは、それぞれの会員に温度差があるということだった。


 ゲームの愛好家から、たまらまチラシを目にしてふらりと訪れたものまで。

 様々な目的をもった人たちがそこには在籍していた。


 想像していたような楽園ではないけれど、それでも好きなゲームを人数不足になることなく毎日遊べる環境に花は満足していた。

 

 同学年ではあるが学部が違う青年――青空あおぞら日向ひなたと花が出会ったのは、その頃のことである。

 

 ファーストコンタクトのことを花は覚えていない。

 何度か同じゲームに参加するうちに、いつの間にか彼という存在を認識していた。


 決して身長が低いわけでもないのに、見た目が何だか子犬っぽい青年。

 ゲームは上手くも下手でもないが、とにかく楽しそうに遊ぶ人だなぁという印象を花に抱かせた。



 花に転機が訪れたのは一学年の夏のことだった。


 話の流れで、いつからアナログゲームが好きなのかを語り合う展開になったのである。

 花は淡い期待を抱いた。

 溢れ出る愛情を、全く理解されなかった中学や高校とは違う展開になるかもしれない、と


「御手洗ちゃん、それは人生損してるぜ。さすがに、もうちょっと色々なことに目を向けたほうがいいって」


 彼女の想いは、一人の先輩の発言であっさりと打ち砕かれた。


 またかと思った。

 人生で何度も繰り返された光景。

 落胆や失望はしないが、納得などできようはずもない。


 君の大好きな物よりも、世界はもっと素敵なもので溢れている。

 花の宝物を軽んじるような発言。


 何が「さすがに」だ。

 ボードゲーム用の偽物の札束で、両頬をビンタするしかないかと、花は心の中であらぶった。


「タナカ、そういうの個人の自由だよ」

「いや、ゲームばっかりってもったいなくねぇ。御手洗ちゃん可愛いしさ、いくらでも青春を謳歌できそうじゃん」


 無遠慮な発言をいさめる同期の言葉も意に介さずに、先輩は言葉を続けた。


 花は盛大にほぞをかんだ。

 ぐぬぬという音が周囲に聞こえそうなくらいに、ぐぬぬとしていた。


 アナログゲームに時間を費やすことの何がもったいないというのだ。

 そもそも見た目と趣味に何の関係があるというのだ。

 ゲーム用の多面ダイスをむんずと掴んで、節分の豆のごとく顔面に投げつけてやろうか?


 心の中のリトル花が、準備運動を始めた瞬間――


「先輩はダメダメっすね。『アナタ、お醤油きれたから買ってきて』と言われて千円を渡されたのに『へへっ、倍にして返せば怒られねえだろ』っていいながら、パチンコ屋に入って行く旦那くらいに駄目っすよ」


 子犬を思わせる雰囲気の青年が、やれやれと先輩をたしなめた。


「いや、それ、駄目っていうかクズじゃん」 

「今の先輩は、ほぼそのレベルです」

「ま、マジかよ……」


 空気を読めず発言しているというわけではないことは、すぐに分かった。

 花は短い付き合いの中で、彼が人間関係に不器用なタイプであるという印象を抱いてはいなかった。


「先輩にもあるでしょう、人には中々理解されないけど大切な物。

 ほら、美味しそうなバナナとか。命の次くらいに大事でしょう?」

「あれ? 俺のことゴリラか何かだと思ってる?」


 日向は、まさかと首を横に振った。


「いえ、逆に世の中全てのゴリラのことを先輩だと思ってました」

「それどういう状況だよ!? 俺という存在は一体、世界に何体いるんだよ!

 というか、青空はゴリラの後輩ってことになるからな……」


「ゴリ先輩」「ゴリセンか」「ゴリセン君」「私の場合はゴリこう?」


 一緒に卓を囲んでいた面々が、ガサツだが親しみやすい青年の新しいあだ名を口々に呼び始める。


「いや、ちょっ……」


 哀れな被害者を生み出しはしたが、そんな事態は目には映っていなかった。

 花の意識は、こちらに視線をむけて微笑む青年にくぎ付けになっていた。


「俺もさ、御手洗さんと一緒なんだ」

「私と一緒?」

「そう。俺は庭いじり。昔から何時間でも作業していられる。

 お爺ちゃんみたいってよく言われるし、中々理解してもらえないけど、他のことなんて考えられねぇんだよなぁ」


 祖父譲りというなまりが混じった口調で、しみじみとした様子で日向は言った。


「もったいないとか、もっと楽しいことがあるとかさ、誰にも迷惑かけてねぇのに言われるのはキツいよなぁ」

「……うん」


 それは幼い頃から、ずっと花が抱き続けてきた感情だった。


「ボードゲームで遊んでる時の御手洗さん、キラッキラしてんだからよ、それが一番素敵だって見てりゃわかるだろうにな」


 そう言って笑う彼の笑顔をこそ素敵だと、花は思った。



 好奇心の目で見て来る人はいた。

 理解できないと攻撃してくる人もいた。

 気持ちは分かると同調してくれる人だって、少数だけれど存在していた。

 

 だが、生まれて初めて、君はそのままで素敵だと笑ってくれる人と出会った。



 その日から、御手洗花の世界は、昨日までよりも少しだけカラフルになった。


お読みいただきありがとうございます (*ᴗˬᴗ)⁾⁾


二人の、ほのぼのまったりな日常をお楽しみください。


次話は明日の昼頃を予定しております。

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