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「有紗に離婚届を書いてくれって言われたんだけど、断った。このまま有紗の夫として有紗を見届けてやりたいんだけど、いいかな?」


「どうして私に聞くの?」


柴原さんは逡巡してから、まっすぐな目で私を見つめる。その瞳は意思が強くて視線を外すことができない。


「美咲がこの家を出ていってしまいそうだから。」


「そりゃいつかは、とは思っているけど。」


「そうじゃなくて、俺はずっと美咲にいてほしい。」


「いやいや、私便利屋じゃないし。」


「俺は美咲と家族になりたい。」


「…はい?」


思わずすっとんきょうな声が出て、その声に反応してかすずが身じろいだ。私は慌てて声のトーンを落とす。


「家族って言ったって柴原さん結婚してるじゃん。」


「うん、だから聞いてる。」


「意味がわかりません。」


「正直、初めから有紗には恋愛感情はない。あるのは情のみだ。すずがいるから繋がっている。俺が好きなのは美咲だけだよ。」


「な、な、な、なにそれ。」


まるで最初から私たち付き合っていましたみたいな発言だ。


でも正直嬉しいと思ってしまった。

受け入れたいと思ってしまった。

ずっとこの言葉を待っていたかのように、私の心は跳ね上がる。


「柴原さんって不器用だよね。」


「そうかな?」


「出ていかないよ。これからも一緒にいる。お姉ちゃんの代わりにすずを立派に育てる。」


「しまったな、先にすずを布団に寝かせておくんだった。美咲を抱きしめられない。」


「なにそれ。私は求めてないですけど。」


私はそっと柴原さんにもたれ掛かるように肩に頭を置いた。いつかのお昼寝の時のように。ぴったりとくっつく。


「今はこれだけでいい。」


「そうか。」


ちょっと残念そうな声が頭の上から聞こえた。

でも私は十分幸せな気分だった。

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