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「これ。」


見せられた封筒の中身。

薄いペラペラの紙に緑の枠。

それは姉の名前が書かれた離婚届だった。


「え、何で?」


今度は私の顔が険しくなる。

離婚届って、どうして?


───離婚して好きな人と結婚します!


あの日の言葉がよみがえるも、そうではないことは姉の態度からして見てとれた。

今柴原さんと離婚して姉に何のメリットがあるだろう。離婚したらますます一人になって、自分を追い込んでいくだけじゃないだろうか。


「有紗と話がしたいから、病院教えてもらえるかな。」


柴原さんは離婚届をそのまま綺麗に折り畳んで封筒にしまった。その手の動きをじっと見てしまう。柴原さんは離婚に応じるのだろうか。


「美咲?」


「あ、うん。でも結構弱ってて、すずにも会わせてあげたほうがいいのかどうかわからない。半年以上も会ってない母親の顔、覚えてる?今ようやくこの生活に慣れたのに、会ったら情緒不安定になったりしない?」


私は姉に対して怒りしか湧かなかった。

だけど同時に、その存在の大きさにも気付かされた。ずっと分かり合えない存在だと思っていたのに、そうではないことに気付いてしまった。でもそれはきっと私が大人になったから故の理解力や妥協点であって、子供の頃は微塵も感じ取ることができなかったものだ。


だから余計に二歳のすずをどうすべきか、私には分からなかった。


黙りこくった私の手に、柴原さんの大きな手が添えられた。驚いて顔を上げると、柴原さんがふわりと微笑む。


「美咲、すずのこと真剣に考えてくれてありがとう。とりあえず明日有紗と話をしてくるから、それから一緒に考えよう。」


「…うん。」


「今は何も心配しなくていい。よく頑張ったね。疲れただろう。さあもうお休み。」


まるで子供のような扱いで頭を撫でられたけれど、まったく嫌な気持ちにはならなかった。

むしろ柴原さんの穏やかな口調と包み込むような優しさに、私の心はかなり落ち着いていた。


一旦考えるのを止めよう。

とりあえず柴原さんに任せよう。


私一人ではきっと心細かった。

どうしていいか分からず沼にはまるところだった。今ここに、柴原さんがいてくれてよかった。頼れる人がいてよかった。


いつの間にか私は柴原さんに対して大きな信頼を持てるようになっていた。

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