9. 物語は終わらない
やがて目映い光が収まり、徐々に視界が開けてくると、目の前には先ほどの場所とは違って、多くの建物が建ち並んでいるのが見える。
「……まさか、また失敗したのか?」
「いえ、していませんよ」
「でも、さっきと全然違う場所だぞ」
俺が疑問を口にすると、それを聞いたクルミは建物をバックに、両腕を左右に広げながら微笑む。
「ここは神様の町。通称〈神町〉です」
「ほぉ、これが噂に聞く神町か」
それを聞いたペンタンは感嘆の息を漏らす。
「ペンタン、知ってるのか?」
俺がそう聞くと、ペンタンは腰に手を当て、その小柄な体型の胸を張る。
「私を誰だと思っているのだ?」
幼い見た目の可愛らしい天使、ではなく魔王だ。
「私のい」
「お前には誰も聞いてねぇよ」
「最後まで言わせて下さいよ」
クルミが隣で不服そうな顔をしながら、頬をプクーっと膨らませる。
「それで、どうしてここに来たんだ?」
俺はそのことをスルーして聞くと、クルミは少し不機嫌そうな様子で答える。
「それはもちろん、ここで暮らすからですよ」
「………そっか」
すっかり忘れていたが、俺は元の世界に戻れないのだった。本当になんてことをしてくれたのだろう、このポンコツ神は。
「どうした神道? そんな世界が滅んだのを目の当たりにした様な顔をしとって」
「はは、少なくとも俺の普通の日常は粉々に砕けて消失したんだよ……」
「何を言っておるのかは良く分からんが、」
ペンタンはトコトコとクルミの隣に並ぶと、誇らしげな顔をしながら、高らかに言い放った。
「美少女二人とのラブラブ生活の方が待っておるのじゃ! そんな顔をするのは筋違いじゃろっ!」
「………」
俺がそんな様子のペンタンに冷たい視線を送っていると、クルミはハッとした顔でペンタンの方を見る。
「さすが魔王様、いえ天使様! そんな説得の仕方があったなんて!」
クルミの言葉に、ペンタンは得意気な顔をしながら、鼻をフンッと鳴らす。
「ふふんっ、もっと褒め称えいっ!」
「いよっ、天上のロリ魔王っ!」
「……それ、褒めてなくね?」
それから、天界だからといって、わざわざ天下を天上に直す必要もないと思う。
俺の言葉が二人に届くはずもなく、二人はこんな調子で暫く盛り上がり続けるのであった。