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勝手に俺の「普通」に「勇者」のレッテルを貼らないでください。  作者: 亀犬
勇者、普通の俺(ギャグパート)
8/29

8. 勇者〈無自覚〉×魔王〈ロリ〉×神〈ポンコツ〉

「どうやら、勝負ありのようですね」


クルミが上機嫌そうな顔をしながら、悔しそうに下唇を噛んでいるペンタンに確認する。


「うぅむ……どうやらその様じゃな……」


「………」


「どうしたんですか? そんなアホみたいな可愛らしい顔をして」


 クルミが俺を侮辱しているのか褒めているのかハッキリしないことを言いながら、俺の顔を覗き込んでくる。

 しかし、今の俺にとってそんな事を気にするのは二の次だ。


「なあ、クルミ……」


「はい、何でしょう」


「………何が起きたんだ?」


 俺の疑問を聞いたクルミは何を思ったのか、胸を張り誇らしげな表情をしながら、高らかに言い放った。


「神道君は〈光の勇者〉なのですっ!」


「………へぇ」


 なぜだろうか、今もの凄く重要なことを言われているはずなのに、驚くどころか、リアクションの一つも取れない。というか、そもそも俺の質問の答えになっていない。


 しかし、そんな俺の様子などお構いなしに、クルミはベラベラと勇者について語り出す。


「言っていませんでしたけど、勇者といっても色々な勇者がこの世界には存在するんですよ。その数ざっと、一万人っ! しかもですよ、なんとビックリすることに、それだけの人数でありながら、誰一人として同じ能力(ちから)は持っていないんですよっ。まあ、似たような同系統のものとかはありますけど、でも……」


「………」


 ベラベラと話すクルミの言葉が途中から入って来なくなっていた。

 なぜなら、クルミがベラベラと話すその中に、気になるワードがあったからだ。

 俺が聞いていないのにも関わらず、ベラベラと誇らしげに語るクルミに、俺はその事について聞く。


「なあ、クルミ……」


「へぇ? なんですか……はぁ、はぁ、質問……ですか? はぁ、はぁ……」


「なんでソイツらに頼まないで、わざわざ俺をよんだんだよ」


 そう、勇者は一万人もいるのだ。だったらその勇者達に任せれば良いではないか。


「あぁ……」


 クルミはそう声を漏らすと、深呼吸をし息を落ち着け、一つ咳払いをしてから言った。


「なぜなら、この世界にいる光の勇者はあなたしか存在しないのです」


「どうしてだ?」


 俺の言葉に、クルミはコテンと首を傾げる。


「さあ、なぜでしょう?」


「………」


 なぜ分からないのだ。神はなんでも知っているのではなかったのか。

 神だと自称するのならば、せめて調べておくくらいの努力はして欲しい。

 俺がクルミのせいで神に対して若干失望していると、ペンタンがビシッと手を挙げる。


「因みに、私は〈闇の勇者〉じゃ」


 いきなりとんでもないカミングアウトをしてきたペンタンを、思わず凝視する。

 

「闇には光が有効だからのぉ。それでお主が選ばれた訳じゃな」


「はい、そうです」


 その言い方だと、ペンタンが俺に言ったのではなく、クルミに言ったようではないか。もうちょっと考えてから発言して頂きたい。というか、勝手に口を挟んでこないで欲しい。

 

「さて、それじゃあ天界へ戻りましょうか」

 

「だから話が急に変わりすぎなんだって」

 

「あ、ちょっと良いかの」


「はい、何でしょう?」

 

 結局、俺の言葉はペンタンが口を挟んだことによって聞き流され、そのことに少し傷ついていると、


「私も付いて行っていいか?」


 そんな声が聞こえてきた。

 俺がそのことについて聞き返す前に、クルミが即答する。


「ダメです」


 その無慈悲な言葉にペンタンは目をウルウルとさせる。


「どうしてじゃ……?」


「私には神道君がいますので」


 俺を理由にするのはどうかと思う。それでは俺のせいでペンタンを連れていけないと言っているようではないか。

 まるで俺が悪いみたいではないか。


「神道……」


 ペンタンが目を更にウルウルさせながら俺を見つめてくる。

 見た目が少女のせいか、俺は何も悪いことはしていないというのに、謎の罪悪感をヒシヒシと感じる。


「神道君の方を見ないで下さい、迷惑です」


 言い方が悪いが、俺としてはクルミの存在自体が迷惑なのだが。 

 ペンタンはそのウルウルとした目で、俺達のことを見つめ、声を震わせながら呟いた。


「……どうしても……だめ?」


「「っ!」」


 その言葉を聞いた時に、俺は思わず思ってしまった。

 

(めっちゃ可愛い……)


 その姿は、少女が上目遣いで、それも目をウルウルとさせながら、可愛らしい声でするおねだりそのものだった。

 その上、さっきまでとのギャップが重なり、今のペンタンの姿は、まさに天使だ。


 俺はよく分からないが、咄嗟にクルミの方を見る。

 クルミは俺よりも衝撃を受けたようで、その顔はふやけて今にも溶け出しそうだった。

 目元も口もニヤニヤとし、頬を両手で抑えており、耳を澄ませば「はぁぁ……」という声まで漏れているのが分かる。


 完璧に、ペンタンに落ちていた。


「クルミ……」


 ペンタンのその一言に、クルミは勢いよく顔を上げると、ペンタンの手を両手で包み込む。

 

「いえ、そんなことはありませんよっ! ぜひ、私の所へ来てくださいっ! さあ、早く!」


「お、おう、そうか?」


 そのクルミの余りの変わり様に、ペンタンは少しタジタジとなりながらも、とどめの一撃のような笑顔を浮かべながら、可愛らしく言った。


「ありがとっ」


「ふわぁぁ……てんしぃぃ……」


 クルミのその姿は、正直なんだか見ていて恥ずかしくなってくるような、とにかくいくら美少女とはいえども酷過ぎるものだった。


 そのクルミの有り様を見て、俺は平常心を取り戻す。

 ペンタンは改めてこちらに向き直すと、丁寧にも頭を下げながら言った。


「これから宜しく頼む。クルミ、神道」


「あ、あぁ。こちらこそ宜しく」


「はぁぁいぃぃ……」


 クルミが腑抜け過ぎた声で返事をしていたため、これ以上見ていられなくなった俺は、クルミの頭をそれなりの力を込めて叩く。


「いい加減戻って来い、よっ」


「っは!」


 その衝撃でクルミは我に返ったらしく、少しばかり頬を赤く染めながら、わざとらしく咳払いをする。


「……それでは行きましょうか」


 しかし、クルミはすぐに元の調子に戻り、よく分からないが可愛らしく見えるポーズをとりながら、やたらとあざとい声で唱える。


天使入荷(エンジェル・カム・イン)っ!」


 クルミから放たれた目映い光が俺達を包み込む中、俺とペンタンは顔を見合わせる。


「神道」


「何も言うな。言いたいことは何となく分かる」


「……お主も大変じゃな」


「………」


 その言葉に、俺は心の中で思う。


(お前も大概だ……)



 第一章のギャグパート編は、ここで半分です。

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