4. 積もり続ける不安と不安
「………」
俺は今日何度目かのフリーズを起こす。
そんな俺の様子を見たクルミは、道に迷っている人に話しかけるような口調で聞いてきた。
「どうかしましたか?」
「……クルミ」
俺は唇をピクピクと震えさせながらも、何とか呼び掛けに応じた。
「はい」
それに対しクルミは、先生に呼名された生徒のような返事をする。
「お前、ふざけんのにもほどがあるぞ……」
「いえ、私はふざけてなど……」
「そんな真顔で言ってないで、嘘を吐いたと認めろ」
「ウッソでーすっ」
クルミは顔の横にピースを置きながら、ウインクをしてくる。
(うぜぇ……)
確かに俺の要望に応えてはいる。応えてはいるが、馬鹿にされているような気がしてならない。
「まあ、嘘なんて付いていませんけど」
クルミは元の調子に戻り、微笑みながら訂正する。
俺としては嘘であった方が断然嬉しいのだが、そんな希望をいつまでも持っていても仕方がないので、大人しく諦めることにする。
「……で、今から魔王の所に行くっていうのはどういう事なんだ」
「そのままの意味ですけど……」
クルミは少し困ったような表情を、その微笑に含める。
「そのままって……まさか、この状態で行くのか?」
「ん?……ああ、そうでした。まずは装備を揃えないといけませんね」
「忘れてんなよ……」
クルミの抜けの酷さに、未来に対する不安が一層積もる。その内、何かしでかしそうで怖いったらありゃしない。
俺が内心震えていると、その元凶が俺に左手を伸ばしてくる。
「では行きましょうか」
「……どこにだ?」
まさか、この期に及んで魔王城ということは無いにしても、主語の無い誘いは恐怖を煽ってくるので、是非とも辞めて頂きたい。
「魔王の」
「っな!」
「城からそれなりに離れた場所の〈サナハット村〉という村へです」
「………」
その言葉に内心ホッとする。がしかし、やはりそういったフェイントは心臓に悪過ぎる。即刻に辞めて頂きたい。
「ちなみにその村って安全なのか……?」
名称的には安全そうな気もするが、念のため確認しておく。
「ええ、そうですね」
そう前置きすると、クルミは微笑んだ。
「モンスターが少し多いだけで、比較的に安全な村ですよ」
「……それって安全なのか?」
「はい、たまにドラゴンが居るぐらいなので」
(ダメじゃん。もうダメダメじゃん。何なのこの子、頭付いてんの? まあ、付いてるけど…)
しかし、そんな事を気にしたところでクルミが真面な人間になるわけでは無いので、俺は諦めて、いやヤケになって美少女とのお出掛けという名の魔王討伐に乗ることにする。
「分かった……じゃあ行こう……」
「はい。それでは行きましょうか」
クルミは天に右手をかざし唱える。
「ワープ!」
クルミから発せられる目映い光が辺りを包み込んでいく中、俺は特に意味も無く呟く。
「そのままじゃねぇか…」