3. 今後の方針
「ああ、っとだな……」
「………」
クルミはどこか不安気な表情で見つめてくる。俺はその様子に少し動揺しながらも、この状況の改善策を必死に練り上げる。
まず、ここでキッパリと断れば確実にクルミを傷つける。その上今後の接し方が分からなくなる、というオプションももれなく付いてくる。しかし、だからといって半端な気持ちで了承するのもそれはそれで違うと思う。
よって、俺は消去法的に「保留」という選択を選ぶことにした。
しかし、そこでふと思い付く。
(話を逸らすっていう手もあるか)
これなら傷付けることもなく、気まずい雰囲気に陥ることもないはずだ。
俺は直ぐ様それを実行へと移す。
「なあ、クルミ」
「はい、何でしょう?」
クルミは平然と応えてきた。俺はその流れを止めないために、適当なことを聞く。
「俺、勇者についてもっと知っておきたいんだけど」
「え、で、でも、まだ答えが……」
「今知りたい」
「……分かりました」
少々強引だったが、なんとかクルミから了承を得ることが出来た。
「では、まずは勇者が何をすべきなのかについてお話しましょう」
「うん」
話を逸らせたことに安堵していると、クルミが説明してくる。
「結論から言いますと、神道君には魔王を倒してもらいます」
「……おう」
正直何を言われているのかが分からない。もちろん言語としての意味は分かるのだが、それを頭で理解する事が出来ない。というか、したくも無い。
俺が気分だだ下げの状態になっている中、クルミはもじもじとしながら、更に追い討ちを掛けるようなことを口にする。
「その後は……私と一緒に暮らしていただきたいのですが……」
「………」
(参ったわ……)
婚約どころか、同棲を求めてきた。いや、同棲してから結婚することが普通なのだろうか。どちらにしても俺はクルミと結ばれなければならないのか。
思わず溜め息を吐く。
しかし、今はクルミの提案に答えなければ、そもそも婚約どうこうの前に告白の返事をしていないのだ。まずはそれに答えなければならないだろう。
クルミの期待を裏切るようで気乗りはしないものの、俺は答えを口にする。
「クルミ、悪いんだけど、とりあえず婚約の件については保留でいいかな……?」
「ええ、構いませんよ」
「………」
あまりにもあっさりと告げられ呆然とする。
さっきまでの俺の心遣いは何だったのだろうか。一体俺は何を躊躇していたのだろう。
そう思うと自然と溜め息が漏れた。
しかし改めて考え見れば、案外この展開は俺にとっても良い物だったのかもしれない。おかげで変な空気にならなくて済んだのだから。
そういう事にして、クルミの対応に心の中で静かに感謝をしていると、クルミが声を掛けてきた。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「え、どこに?」
突然の言葉に頭の中に疑問符が浮かぶ。
もしかしたら忘れているだけかもしれないと思い、記憶を探っていると、クルミが呆れたと言わんばかりの顔をしながら言った。
「魔王の所に決まってるじゃないですか」