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勝手に俺の「普通」に「勇者」のレッテルを貼らないでください。  作者: 亀犬
勇者、普通の俺(ギャグパート)
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1. 物語は急に始まる

*第一章は長めのギャグパートとなっております。ハイファンタジーというよりも、ギャグ滑り倒しです。


それでも全然OK♪という皆様は、ぜひ目を通していただけると、作者としては嬉しい限りです!

「私、ずっと神道君の事が好きでしたっ」


 俺こと、極々普通の高校生である三田神道(みつだしんどう)は、春の日差しが降り注ぐ放課後の空き教室にて、そう告げられた。この時点で既に衝撃的な状況なのだが、実は問題はそこではない。

 そう、ここで最も重大な問題なのは、その相手が神宮天子(かみみやてんこ)という学年一の美少女であるということだ。


「………」


 あまりにも現実離れした状況に呆然としていると、更に追い討ちを掛けるかの如く、天子は血色の良い顔を赤く染めながら続けてきた。


「私と……いえ、私のパートナーになってくださいっ」 


「……パートナーって、何?」


 俺の理解度が足りないのか、それとも天子の言葉が悪かったのかは分からないが、その発言は普通の高校生である俺には理解出来なかった。

 俺の思考回路が停止している中、天子は俺の問いに応える。


「婚約者です」


「………」


 いや、そこは普通、彼女だろ。


 なぜ健全なお付き合いを吹っ飛ばして婚約に至るのかが理解出来ない、そもそも初めて話した、などと考えている場合ではなかった。

 それよりも今考えなければいけないのは……


……全く分からん


 こんな非日常的なことが目の前で起きている中、冷静に物事を分析出来るわけが無い。

 それに心臓はさっきからずっとドクンドクンと鳴りっぱなしだし、緊張のせいで吐き気はするしと散々な状況に追い込まれているのだ。

 しかし、何か考えねばならないのは確かだ。でなければ、このなんともむず痒い空気を払い除けられない。

 俺が必死に普段は大して使わない頭をフル回転させて考えていると、天子が不安気な顔をしながら見つめてくる。


「し、神道君?」


「……その、婚約者っていうのは、一体どういう意味で言ってるんだ?」


 咄嗟に浮かんだ言葉を口にすると、天子が不思議そうな顔をする。


「夫婦になるという意味ですけど……」


「あ、あぁ、なるほどね」


 全く分からん、ホントに分からん、もう何のこっちゃさっぱり分からん……


 しかし、そんな事を思っていても仕方がないので、俺は冷静になるために深呼吸をする。


「あの、神道君?」


「ああ、ちょっと待って。今、脳内回路が混み合ってるから」


「は、はい……」


 深呼吸をしたおかげか、幾分かは気持ちが落ち着き、脳の処理速度が上昇した気がする。

 俺は改めてこの状況を、脳内で整理し直した。その結果を纏めるとこうなる。


 1.俺は神宮天子に告白された。

 2.そのまま婚約を申し込まれた。

 以上。


 意外と短い……


 しかしこうしてみると、一つ疑問が思い浮かんだ。


「天子」


「は、はい、何でしょう」


 天子は急にガチガチに緊張しながら応える。


「何で俺なんだ?」


 そう、肝心なことを聞いていなかった。

 普段ならこんな疑問真っ先に思い浮かんだのだろうが、なんせ状況が異常過ぎた。それだけ動揺していたという事だろう。

 しかし、そんな動揺を動揺と捉えられなくなるような、衝撃的過ぎる発言がクルミの口から生み出された。


「あなたが勇者に選ばれたからです」


「は?」


「これ以上の事は、あなたが私と婚約してくださるならお話します」


「展開が早いとかそういう問題じゃねぇな……」


「はい?」


 クルミはキョトンとした顔で俺を見てくる。自分で何を言っているのかが分からないのか、それとも、


「お前、俺のこと馬鹿にしてんのか?」


「い、いえ、そんな事はぜんぜん……」


「……はぁ」


 天子の反応に思わず溜め息が漏れる。

 馬鹿馬鹿しいったらありゃしないが、仕方がないので一応現実という物を伝えておく。


「あのな、天子。そういう勇者とかっていうのはな、二次元の中にしか存在しないんだよ。」


「そ、そんな事はありませんっ」


「いや、でもだな」


 天子は真剣な面持ちで俺のことを見つめてくる。そして、ポツリと呟くように言った。


「……分かりました。そこまで言うのでしたら証拠を見せましょう」


「………」


 そこまで言われると、なんだか不思議と天子の話を信じてみたくなった。と言うよりも、一体どのような証拠を見せるつもりなのかが気になるので、俺は黙って天子を見つめる。

 そして、天子は大きく息を吸って唱える。


「エンジェルリフトっ!」


「なっ!」


 その瞬間天子から光が溢れ出し、その眩しさに思わず目を閉じる。

 数秒後、目を開けるとそこには草原が広がっていた。


「……ここどこ?」


 呆然とする意識の中、俺は無意識に呟く。その疑問に対し、天子は微笑みながら答えた。


「ここは天界ですよ」


 天界ですか……


 その聞いたことがあるような無いような単語に、俺は激しく動揺する。


「へ、へぇ〜。き、綺麗な所だね……」


 そのせいで思ってもいない事を声に出してしまった。

 本当になぜこんな事を口走ったのかは分からないが、天子は俺の言葉に満足そうな笑みを浮かべながら、頼んでもいない解説をしてくる。


「はい、天界は常に清潔魔法を張ってありますから」


「へぇ〜、凄いね」


 もう、訳がわからない。頭で考えていることと、口に出している言葉が違い過ぎているくらいには混乱している。

 どうしてだろう、なんだか泣きそうだ。




 こうしてよく分からない状況のまま、俺の普通の日々は崩れ始めた。



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