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 さて、どこに行こう。

 いや、どこに行けばいいのやら……。


 チュートリアルが終わったあとのMMOゲームみたいだ。

 急にやれることが多くなってどこに行ったらいいのかわからない。

 初心者あるあるだ。

 MMOゲームと違うのは、チュートリアルでまっっっっっっっったく情報が無かったことだ。


 まあ考えていても仕方がない。

 とりあえず情報だ。誰か人を見つけることが先決だ。


 俺は探索を兼ねて歩き出し……いや、浮遊し始めた。


 ――――――

 ――――

 ――


 その建物はまさしく城であった。

 俺が召喚された部屋は城の中心部、王が民に謁見するための部屋だろう。

 その部屋を中心に回廊が組まれ、周囲にいくつもの小部屋がある。その構造は下の階でも同じであり、2階建てのこの建物は俺が想像していたよりも相当規模の大きなものだった。


 そんな広大な建造物であったが俺の目的は果たせなかった。


 謁見の間から出た俺は城内の状況を把握しようといくつもの部屋を回ったのだが、どこにも人がいなかったのだ。

これだけの規模の建物、人がいなくて回せるはずがないのだが……。

 それと、どの部屋の中も荒らさられた形跡がなかった。


 何が言いたいのかというと、最初に見た三人組の人間たちの事だ。あの状況から、おそらくあいつらがブラムドを殺した犯人なのだろう。

 彼を殺した理由はわからないが、室内の状況から物盗りが目的というわけではなさそうだ。

 元々この城には豪華な壷や花瓶、絵画など売れば高値が付くような金目の物は置いていない様で、どうやらブラムドは貧乏、よく言うと質素な暮らしをしていたのだろう。


 さらに言い換えると隠遁生活というかなんというか。

 なぜかと言うと、この城の周り、ぐるり四方を森に囲まれているのだ。

 囲まれているというより、広大な森の中にポツンとこの城がある感じだ。

 城下町とかそういうものの様子は影も形もなかった。

 目につく範囲で人工物はここだけ。

 窓から見える景色からはそんな様子が見て取れた。


 そんな探索の中でもう一つ分かった事といえば、俺の体のことだ。

 部屋の一つに鏡があったため、現状俺の姿がどうなっているのかをまざまざと見せ付けられたわけなのだ。


 もうね、すごい赤い。思った以上に赤い。


 実際は赤茶色なのだが、全身、いや、半身が映っていると周りの様子とのコントラストでその印象しか抱かなかった。

 あと、思った以上に俺の体はデカイ。太っているのではなく、しっかり筋肉が付いていてガタイがいい。

 召喚された直後の謁見の間で空中に浮いてるころから、なんか縮尺おかしくね? とは思っていた。

 けど、扉の出入りで肩がぶつかるから体を横向けて出入りしたり、鏡で自分の姿を見たりするとその実感が沸く。


 そして、顔はまあ……イケメンだろう。いや、すみません。可も無く不可も無い顔です。残念ながら人間のころのほうがイケメンだったな。

 人間のころのほうがイケメンだったな! たぶん。

 上半身だけ召還するのならせめて顔には力を入れて欲しかったものだ。


 そんなこんなで大した収穫も無く謁見の間の前まで戻ってきたところ――


天空そらより零れ堕ちた星は深淵ならくへと誘われ消失きえ行く刹那、あかく燃え盛るほのおにより再び天空そらへと昇るであろう」


 うわぁ! びっくりした!


 誰もいないと油断していた俺に突如、俺の周りをふよふよと浮遊している本から声が聞こえたのだ。


 魔導書ラプラスと言ったか。この本。

 何か重要なキーワードのような気がするが、いきなりだったので聞き取れなかった。


 おーい、もう一度言ってくれ。

 俺はばっさばっさとラプラスを振ってみる。

 だが何の応答もない。


 くそっ、再生機能とかログ機能は無いのか。

 仕方ない、確か空がどうのこうの言ってた気がするが……。


 俺は窓から空を見上げてみる。


 青い空だ。雲が流れており、時折太陽が雲の影に隠れる。

 今は昼間……なんだろう。

 この世界ではこの天気がいつもどおりなのか、時間が昼と夜に分かれているのかどうなのかも俺には分からない。

 分からないことだらけだ。


 俺は空を見上げた視線をふと下ろした。


 ん?

 壁のあたり、何かが……。


 この建物を囲むようにいくつかの壁が構築されている。城の防御を担う城壁だろう。

 城壁の入り口、つまりは城門だが、そこに倒れている人影を見つけた。


 俺は急いで階段を下りその場所へと向かった。


 ――――――

 ――――

 ――


 な、なんだこれは……。


 そこで目にしたのは吐き気を催すほど凄惨な光景だった。

 辺りに飛び散った血痕。赤くはない。すべてが暗い紫色のものだ。

 それは城壁や地面など広範囲に渡っていた。

 この血はどこから来たのか。


 推測するまでもなかった。

 周囲には20ほどの死体があったからだ。


 人……なのか?

 下半身は獣。おそらく牛だろう。尻にはしっぽ、二本の足には蹄がある。

 はらのあたりから上は人間。俺がよく知る人間の上半身だ。

 そして、首から先は……。


 すべて切断されて無くなっていた。


 腹をさばかれ、首を切断された死体の山。

 俺はその前に立ち尽くした。


 誰が……何の目的でこんな酷い事を。

 この世界ではこれが日常だっていうのか?


 その時わずかに物音がした。

 俺は反射的に音のほうへと振り返った。


 城壁と城壁に挟まれたこの場所の外側。城門の端にその姿を見つけた。

 背中を剣で貫かれた女の姿を。


次回、とうとうヒロインが登場します!

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