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004 異界の魔王

少しずつPV数が増えてきました。

お読みいただきありがとうございます!


 俺の腹の下には未だ魔法陣が存在しており、再生はその魔法陣に触れる部分で終了した。

 力がみなぎる……かどうかは分からない。

 何せ骨だけの状態でも視覚や聴覚、それに触覚もあったのだ。肉が付いたからどうこうというものじゃない。


「異界の……魔王よ、私の、言葉が……つ、伝わって、いるでしょうか……ごふっ」


 声だ!

 分かる。今まで何を言っているのかわからなかった死体さんの言葉がわかる!


「(聞こえてます、わかりますよ!)――うぬの言葉、聞こえておる」


 え゛っ⁉


 俺そんな事言ってないぞ。

 うぬとか普通使わないだろ。


「お、ぉ、異界の、魔王プローヴェルよ……」


 異界の魔王プローヴェル?

 俺の事を言っているのか?

 それは人違いだ。

 俺の名前は……。


 俺の名前は⁉


 ちょっと待って、思い出せないぞ。自分の名前だぞ。

 落ち着け落ち着け、俺は……。


 人間。うん。それはわかる。

 男。それもわかる。

 日本人の高校生……。

 年齢は……パス。住所は……パス。両親は……。


 Nooooooooooっ!


 ぜんっぜん思い出せない。

 彼女はどうだ? いた。いた気がする。いただろ?

 よし、いた事にしよう。

 いいぞ、俺は冷静だ。


「不完全な、儀式で……召喚し、て、申し訳な、い……。宝玉マクスウェルと……魔導書ラプラスが、御身の……ち、力に……」


 息も絶え絶えで血を吐きながらも、それでもなお彼は俺に言葉を紡ぎ続ける。

 おそらく彼はもう助からない。


 俺をこんな目に合わせたのはこの青年だろう。

 召喚という単語がその推論を生んだ。

 そうだとしたら、彼には俺に事情を説明する義務がある。 


「(あの、召喚って言いましたがなんでそんなことを)――汝の望みを申せ」


 ってー、なんで思った通りの発言できないの?

 確かに、どうして俺を召喚したのか理由を問いかける発言にはなってるけど……。

 まるで壊れた翻訳機にさらにバイアスがかかったようになってる。


 ん?

 こいつか、光ってるこの本。

 魔導書ラプラスとか言ったか、こいつが俺の意思を翻訳しているのか?


「わ、私、ブラムドの望みは、ごふっ……、我々魔物達が、平和、に……暮らせる、世界に……、どうか……あなたの力で、わた、私に……変わって…………………………」


 ブラムドと名乗ったその青年はそこで力尽きてしまった。


 もっと事情が知りたかったが死者に鞭打つなんてまねはできない。

 死ぬ前に少しでも情報を伝えてくれたのだと思う事にしよう。


 把握できた事は、ブラムドが俺を召喚したということ。

 そしてその召喚は不完全であったこと。

 召喚の理由は、魔物達が平和に暮らせる世界?


 分からない事だらけだ。


 理解することを止めて夢オチに走りたくなったが、これは夢では無い。

 俺は何度も自分の頬を叩いてみたりつねったりしてみた。

 痛みはほとんど感じない。だが妙にリアルな感覚が俺にこの状況が夢ではないことを伝えていた。


 俺はどうすればいいのか。

 ブラムドの望みを叶えてあげるのか。俺に叶えてあげることができるのか。

 自分自身の元の世界、日本に戻るのか。そもそも戻ることができるのか。

 はたまた別の何か、やるべき使命があるのか……。


 何も分からない、この状況、この世界。


 なんにせよ、ここから出て情報を集めなくてはならない。


 俺は剣に貫かれ、標本のように椅子に貼り付けにされているブラムドの亡骸を見る。

 そのまま放ってこの場を後にするようなまね、俺にはできない。


 ――――

 ――


 それは案外簡単だった。

 何かと言うと俺の移動の事だ。

 外に出るにも何をするのにも、まずここから動かなくてはならない。

 歩いて移動するための足が無い俺。

 じゃあ、どうやって移動するのかと言うと……。

 

 どうやらこの本が何らかの魔術を行使しているようなのだ。

 下半身は無くても、浮いているような感じ。

 その浮力を横のベクトルに変えてやることによって移動することができた。


 魔法陣ごとね!


 俺を召喚した魔法陣……いや召喚中なのか、実はこの魔法陣は空間に固定されているわけじゃなかったのだ。

 空間に固定されているなら、最悪体をぶっちぎってでも移動するしか無かったところだ。


 そうして移動するすべを覚えた俺は亡骸に近づくと剣を抜き、拘束から解放された体を抱きかかえると、床に横たえさせた。

 剣を抜く際に吹き出した血は、俺に届く前に見えないバリアのようなものに付着するとそのまま蒸発した。


 彼の纏っていたマントを体にかけてやる。


 この世界の葬儀についての情報はない。

 悪いが誰かを見つけて弔ってもらうまでその状態でいてもらう事になる。


 こうして俺は、俺を召喚した張本人ブラムドの亡骸を後に、この世界の第一歩を踏み出すのであった。


次回はプローヴェル様が自由に動くお話です。

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