001 プロローグ
初めましての方もお久しぶりの皆様も、セレンUKです。
本作は以前より書きたかった魔物側のそして魔王様のお話です。
ダークファンタジーではなくシリアスな展開もある基本的にはコメディテイストのある作品となります。
話の都合により、初めはあらすじ的な未来のお話となります。
それではお楽しみいただければ幸いです。
俺の目の前には人間達が築いた砦がある。
俺達は今からここを攻め滅ぼす。
おっと名乗り遅れたな。俺の名前はプローヴェル。
異世界に魔王召喚された高校生だ!
堂々と正面から乗り込むわけで、もちろん俺の姿は砦の物見櫓からは丸見えである。
「なんだ、あの赤いのは……」
「もしかして今噂の赤い半裸魔王じゃないのか?」
聞こえていますよ見張りの人達。
それにしても、えらく不名誉な通り名がついてるな……。
半裸ってなんだよ半裸って。
確かに召喚されたとき全裸で、都合によりしばらくそのままだったけどさ。
何で半裸なのか。
……もしかして俺が上半身だけだからってこと?
俺の下半身が無くて上半身半分で、それで裸だったから半裸?
だとしたらネーミングセンス無いなこの世界の人間達は。
まあいいや。訳あって俺の召喚は上半身だけで止まっているのだ。
今もって下半身を召喚中なわけで……俺は召喚魔法陣から出てる上半身だけで魔王やってます。
「我が主プローヴェル様」
俺の後ろで配下の者の声が聞こえる。
さて、そろそろ始めるか。
規模の割には立派な防壁が築かれている。
あれをどうにかしないと配下たちが活躍出来ない。
砦ごと消し飛ばしてもいいのだが、前にそれをやったら配下達から活躍の場が与えられなかったと拗ねられた。
魔王って大変なのだ。
それに実は今回は救出作戦なので更地にしてしまうことは出来ない。
とりあえずぶっぱなす規模を抑えて防壁だけ取っ払う事にしよう。
俺は自分の瘴気を磁界で閉じ込めたものを生み出すと、防壁に向かって移動させた。
これが起爆物となる。
今からやるのはちょっとした核融合の応用だ。
水素の代わりに、より簡単に反応する俺の瘴気を使っている。ほんの一握りの瘴気だ。
瘴気っていうのは魔物達が活動するためのエネルギーのことね。
起爆物が防壁に取り付いた所を見計らって、俺は磁界の中を1億度の高温にする。
瞬間、瘴気同士が結合し、いわゆる核融合が起こり莫大なエネルギーが放出され……起爆点を中心に高さ10mもあろうかという石造りの防壁を消し飛ばした。
「な、なにが起こったんだ……」
お約束の反応ありがとうございます。
櫓の人間からは防壁が円形に削り取られたようにしか見えないだろう。
その円の形は俺が念のために張っておいた魔法障壁。
勢いが強すぎて救出対象まで消し飛ばしましたてへぺろじゃあ許されないからだ。
案の定、威力が強すぎて魔法障壁内部の物質は消し飛んでしまい……下手すると砦事消えて無くなってしまう所だった。セーフ。
ちょっと地面が抉れてしまったが、ま、まあ配下たちの侵攻には影響ないだろ……。
「行くぞ、我らが同胞を取り返せ!
卑劣な人間達に魔王プローヴェル様の威光を見せつけるのだ!」
先陣を切るのはラミアのオリオとラミア達の部隊だ。
「あーっ、待つのだオリ姉!
お前たち、遅れを取るわけにはいかないんダゾ!」
一歩遅れてミノタウロスのシガとミノタウロス部隊が砦へと駆け込む。
「くそっ、あいつらの狙いは捕らえた魔物達か。おい、牢から引きずり出して人質に使え! 急げ!」
おいおい、初手から人質作戦かよ。
相変わらず人間達は汚いな。
まあ今から動いたところで間に合わないだろうがな。
索敵能力の高いラミアとミノタウロスだぞ。牢の場所なんかお見通しだっての。
砦内から人間達の悲鳴が聞こえてくる。
さて、俺も向かうとするか。
死屍累々。
頭を吹っ飛ばされた死体。体があらぬ方向にねじ曲がった死体。
死んではいなくても体をビクンビクンさせながら血を噴き出している人間などなど。
「分かっているな皆。人間達は数人が連携して攻撃してくるのが特徴だが、攻撃の起点さえ潰してしまえば取るに足らない!」
奥からオリオの声が聞こえる。
「見つけたやつは頭を引きちぎるんダゾ。心臓でもいいンダゾ。どうせ死なないから簡単なほうにするんダゾ!」
別の方向からはシガの声も聞こえた。
二人とも張り切ってるなぁ。
蛇の下半身を持った強靭な肉体に鋭い頭脳を兼ね備えたオリオ。
そして牛の下半身を持った猪突猛進型のシガは力で敵をねじ伏せるタイプだ。
二人とも俺を主と仰いでくれる。
強くも可愛く美人な魔物娘たちに慕われて俺は幸せ者だ。
そんな事を思いながら俺が牢へと到着するころには全て終わっていた。
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俺は今、砦の中で椅子に座っている。
いや、座る下半身は無いので椅子の上に浮いているわけなんだが……。
立派な椅子で、辺り調度品もなかなかの物だ。おそらく司令官の部屋だったのだろう。
そんな部屋でオリオから戦闘の報告を聞き終えたところだ。
戦果は上々。この上ない結果だ。
「重畳である。移送前であったのはまさに僥倖」
俺は一言、オリオへと伝える。
この砦に囚われた魔物達は各地へ移送される直前だったようだ。
それを防げたのは幸運だった。
「はっ! 我が主にお喜び頂き我ら、いえ、私も嬉しく思います」
「プローヴェル様、片付け終わったんダゾ」
そこに後始末を終えたシガが入ってくる。
「あーっ、オリ姉ずるいんダゾ!
一人でプローヴェル様からご褒美貰うつもりだったんダゾ⁉」
「ち、違います。私はただ状況の報告にと。まだそんな事はしていません!」
まだ……。
「ずるい、ずるい、ずるいんダゾ! オレもご褒美欲しいんダゾ!」
「ちょっとシガ。主様の前ですよ。自重しなさい!」
目の前でわちゃわちゃと言い争いを始める二人に俺は眩暈を覚えるのであった。
そう、これから始まるのは日本の高校生だった俺が異世界に召喚され、魔王として魔物達を従える英雄譚、いや魔王譚だ。
この物語の結末は、ご自身の目で見届けて頂きたい。
次のお話から本編が始まります。
もちろんお約束のシーンとなります。
どうぞよろしくお願いいたします。