第五十八話
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「・・・それで、私にお話とは?」
「いや、ただ単純に何があったのかを聞きたくてね。麗子に聞くと本が空を飛んで襲ってきたと言うが、側にいたメイドは何故君の家にいたのか分からないという。ただ、君の状態と麗子が泣いていた事から異常事態と考えて私に指示を仰いだそうだ。」
「はぁ・・・。」
私と麗子ちゃん以外は改変されている間の記憶が無いもしくは誤魔化されているのか。だとすれば私がわざわざ言う必要も無いかな?いやでも病院から追い出されたりしたら・・・。
「そこまで警戒しなくても大丈夫だよ。麗子の友人に酷いことをするつもりも無いしね。」
「・・・麗子ちゃんが言った通りです。いきなり空から本が襲ってきてたまたま退治できたって感じです。」
「流石にそれは無理があると思うよ。」
私も言いながらそう思いました。でもそれ以外に穏当な言い方が無かったんです。
私も心のなかで同調していると、パパさんは窓側のカーテンに近づいていった。ん?下の隙間から何かが見える。
「君が倒れている時にこの剣を握りしめていたそうだ。これについては?」
「・・・・・・・それはイギリスで見つけた物です。ママに怒られながらも何とか持って帰ってきました。」
「へぇ、イギリスから持って帰ってきたんだね。まあそこはどうでもいいんだ。おかしいのはこの剣の先端部分でね。他の刃は取られているのに先端10cmだけ刃が付いている。そして、麗子言うにはこんな大人でも振るのが難しいものを君が大きく振って件の本に突き刺したって言うじゃないか。」
もうほとんど知ってるじゃん。それが全てですよ。この女の子やべーなで済ませて下さいよ。
「出来ればこれからの対処のためにも本当の事を教えてほしい。」
「じゃあ、先に一つ聞いていいですか?」
「どうぞ」
「私が入院したのは交通事故にあったからって聞いたんですけど、これはパパさんがしたんですか?」
「そうだよ。明らかに一般の事案じゃなかったからね。交通事故ということにした。」
「その犯人はどう扱ったんですか?」
今気になるのはそこだ。私がこんな怪我をして入院したってことは相手がいなきゃここまでの怪我にならないだろう。その相手をどう扱ったかによって情報の精密度は変える所存です。
「そこが気になるのかい?私の手の者がやったということにして示談させたよ。君の入院費はそこから出ている扱いだ。私は紹介しただけだね。もちろん部下に前歴は付かせていないし、社会的にもなんらダメージは無い。」
「捨てたわけじゃないならいいです。今回の一連の出来事で私がしたのは、麗子ちゃんがあの本に襲われると知ったので麗子ちゃんが死なないように立ち回っただけです。これ以上の何かはしていません。」
「へぇ。ということは君はあの本が何なのか知っているって事だね?」
「少しだけ知っています。あれは麗子ちゃんの望みを叶えて、その代償に麗子ちゃんを食べようとしただけの本です。」
これ以上は私も調べてないから知らない。なんで屋敷にあったのかも知らないし、誰が作ったのかも知らない。なんならどうでもいい。
「ふむ。可能な限りそういう類いの物は入れさせないようにしていた筈だけど・・・。穴があったか作られたか、これは後で考えることか。ありがとう。その情報があればこれからの麗子の守護に役立てられる。情報の対価は何がいいんだい?」
「じゃあ麗子ちゃんと一緒に暮らしてあげて下さい。今回の原因は麗子ちゃんが温もりを求めたからです。両親と一緒に暮らせない寂しさを友達に求めたからあんな本に頼ることになったんです。」
「いや、それは無理だ。東条院家の決まりとしても許可できない。」
「昔からの決まりよりも娘のことじゃないんですか!?」
「ふむ・・・。君は麗子の友達という立ち位置をどう考えているんだい?」
よくある返答にキレて言い返すと、変な質問をされた。
「そんなの、普通の友達です。まあ、麗子ちゃんと自分が釣り合っていないと考えてしり込みする子もいるみたいですけど、私からすれば同じ学校に行って生活していればなんら問題ありませんし」
「うん、違うよ。これが認識の違いだね。」
「認識の違い・・・?ということは、東条院家では友達に別の意味があるってことですか?」
「そう。君には嫌な話かも知れないけど友情的友人と打算的友人というのがいてね。どちらも必要なものではあるけれど、特に打算無しで付き合ってくれる友人。それこそ親友と呼べるような存在は必須なのさ。どんなことでも相談できる人物がね。で、それを作るためには親の存在が邪魔なんだ。」
「・・・甘えてしまうからですか。」
「やはり聞いていた通りに頭がいいね。その通りだ。親に甘えて友人を作らない可能性が出てしまう。特に今の幼少期にだ。今の時期を逃せばもう親友なんて作れないからね。特に私達のような家系のものだと。」
つまり、麗子ちゃんに生涯の友を作るためにわざわざ別れて暮らすなんてことしてるのかこの人たち・・・。
「じゃあ、私が親友になりましょう。それであれば一緒に暮らしても問題ないのですね?」
「いいや。今言ったのは内情だよ。もちろん外聞もある。それに先程普通の友人と言った君が麗子の親友になろうだなんてねぇ。言質が取れて良かったよ。これからは毎日は不可能だけど、週に一回は会うようにするさ。」
「それでもかなり少ないですけど・・・まあいいです。0よりはマシなんで」
「ああ、あと、君の家に麗子が遊びに行けるようにしておくから、これからも麗子と末永く仲良くしてほしい。それでは二人を呼んでくるとしよう」
こうして麗子ちゃんパパとのお話は一応終わりを迎えた。すっごく疲れた上に、もう全部喋った方が楽なんじゃないかなど思ったがウィズのことを知られた瞬間に色んな面倒事が増えそうなのでやめた。
(正直、あのパパさんならもっと細かく奥深くまで詮索してくると思ったなぁ)