第五十七話
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「すぅ・・・・ー・・・・ぅ、・・・ここは」
「あ、起きられましたか。お早うございます、白川さん」
「はい?おはようございます?」
「先生を呼んできますね」
起きるとカーテンに囲まれた部屋だった。隣にいた人はナース服を着ていて・・・って看護師さんか。ということは病院にいるのかな。ふーん・・いっ!?いててて・・・。腕を上げようとしただけでこの痛みか・・・。ウィズ、損傷状態教えて。
「現在、両腕、両肩、両脚全体の筋肉がボロボロになっており、一部腱も切れております。そして本を蹴った足にヒビが入っております。」
あの嫌な音が鳴ったときに切れたのかなぁ。はぁ、しかしこれから運動は控えめな生活になるかな?腱って怪我しちゃいけない部位だった気がする。
「失礼します~。白川さん、おはようございます。」
「おはようございます。」
未来に対して少し悲観的になったようなそうでもないような感じでいると白衣の男性とさっきのナースさんが来た。
「今のご気分はいかがですか?」
「自由に動けなくて辛いです」
「そうですね。今の白川さんは足の骨に少しヒビが入っていたり、全身の筋肉がかなりボロボロになっています。なので最低でも1週間は自力では何も出来ないかと思います。ちなみに、ご自分の名前などを思い出せない、もしくは記憶に欠如があったりしますか?」
「たぶん無いです」
「ではここに運ばれた原因に心当たりは?」
「あーるにはあります?」
「ふむ・・・。白川さんは非常に運が良かったですね。交通事故にあった割には被害が少なく、後遺症も残らないと思います。怪我痕も残らないですしね。」
「交通事故?」
私の怪我の理由は交通事故になったの?改変が消えた結果そう認識が変わったのか、それとも誰かが意図的に変えたのか。
「では、念のために聴診器使いますね。」
「はい、失礼しますね」
ナースさんに上着を胸元まで捲し上げられる。少し恥ずかしい気がするがまだ女性のじの字があるかどうかだから自意識過剰だろうか?
「・・・・・・うん。特に問題はなさそうですね。ん?」
お医者さんの胸元が少し震えると、胸元から携帯端末みたいなのを出して確認した。
「ああ。どうやらお見舞いするお方がいらしているようなので私はここで失礼します。彼女はこのまま残していくので、何かあったら全部彼女に言ってくださいね。」
「わかりました。」
「それではお大事に」
お医者さんが病室から出ていった。しかしお見舞いって誰だろう?ママとかかな?
「楓!」
「麗子ちゃん?」
「目覚めて良かったわ!すごく、すごく心配したんだから!」
「こらこら麗子。お友達が目覚めて嬉しいのは分かるけれど、ここは病院だよ?楓ちゃんにも響くかも知れないんだから落ち着きなさい」
「あ、ごめんなさい・・・。」
入ってきたのは麗子ちゃんとそのご両親だった。麗子ちゃんはその手にフルーツボックスみたいなのを持っている。
「お久しぶりですね楓さん。」
「あ、おお久しぶりです・・・?」
「楽にしてもらって構わないよ。君は麗子の命の恩人なんだからね。」
「そうですわ。楓がいなければ私はきっと死んでましたわ!だから楓は命の恩人よ!」
「いやぁ、そんな感じです。」
命の恩人と言われてもどう返せばいいのか分からなかったのですごい変な返事をしてしまった。
「で、そのお礼としてまずこの病室を用意させてもらったよ。一人部屋だから他人を気にせずに生活したまえ。」
「ありがとうございます。」
「楓、良かったらこの果物を食べてくださいませ!」
「うん。お腹減ったから頂こうかな」
実際お腹が減っていたのでナースさんに色々剥いてもらいながら麗子ちゃんに食べさせてもらうという時間を過ごした。メロンやらバナナやらすっごく美味しい。でも果物だからそんなにお腹膨れなかったよ・・・。
「さて、では少し私とお話をしようか。楓ちゃんと私以外は隣に行きたまえ」
「え・・・」
「麗子。行きますわよ」
「何かございましたら直ぐにお呼びください」
麗子ちゃんパパの言葉に従って三人が出ていく。ちょっと待てナースさん。こんな男の人とわたしみたいな幼い女の子を残して出ていっちゃ駄目じゃない?
「この病院は私の物でね。多少の強権は使えるんだよ」
「・・・はぁ」
「まあ安心してほしい。音声は漏れないけども映像はあの監視カメラで全部録画、監視されているからね。私が何か不埒な事でもしようとすれば、警備員が例え理事長であっても問答無用で私を捕らえるだろう。それがこの部屋の売りでもある。」
「それは、また」
凄い警備体制だな。自分を雇っている人を容赦なく捕縛出来るなんてエリート通り越してむしろ裏切り者でも雇っているのでは無いだろうか?
「いやぁ、昔からお世話になっているお爺さんが入院するときに「例え誰であっても躊躇しない優秀な警備員!」って言ったら本当にそれをマニュアルに組み込んでてねぇ。まあ、そんなわけだから、おじさんと少しお話しようか。」