第五十五話
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私と麗子ちゃんを乗せた車は我が家に向かっている。特に道路が混んでるとかが無ければあと8分ほどで着くはずだが、ウィズ。
「先ほどの台詞で少し限界が近づきました。自分の願う通りになったと感じたようです。限界まであと2分」
てことはあともう少ししたら動き出すってことか!このまま何事も無く走れば・・・そういえば生き物だから動くって考えてたけど実は動かなくて、剣持って屋敷に帰ればどうにか出来るとかない?
「検索致しました。あの本は浮遊可能でございます。」
ですよねー。それくらい出来ないと誰でも本から逃げられちゃうもんね、はぁ・・・。覚悟したのにまだ逃げ道を探すとは恥ずかしい。
「麗子ちゃんどうかしたの?顔をころころと変えて。」
「うん。なんでもない」
「変なの、ふふっ」
麗子ちゃんに心配されてこれ以上顔に出さないようにキリッとしたら笑われてしまった。なんて思ったら車が止まった。普通に信号で止まったかと思ったがなかなか進まない。
「何かあったのかな?」
「どうやら通る予定の道で交通事故があって通行止めされており、他の道への誘導がされているようです。他の道を通って少し遠回りする予定だそうです。」
「え!?麗子ちゃん!私と走って行こうか!」
「え、何故?」
「きっとその方が面白いからだよ!」
本当は追い付かれる未来しか見えないからなんだけどね!
「お待ち下さい!外をお二人だけで歩くのは非常に危険です!」
「じゃあメイドさんもご一緒にどうぞ!行くぞー!」
「ちょっと楓ー!?」
「緒方さんは車で来てください!私は追いかけます!」
麗子ちゃんの手を引っ張ってドアの鍵を開け、外に飛び出した。この道からなら私の家まで走って5分くらいで着ける。
「限界を迎えました。魔本が動き始めました」
「来たか・・・!」
「何がですの!?というか、なんでこんなに、急いでいるんですの!?」
「ここで、急がないと、なんかまずそうだから!」
「なんです、のそれ!?」
麗子ちゃんを引っ張って走りながら状況を調べる。
「現在、魔本が高速で近づいて来ております。」
具体的にどれくらいの速さ?
「時速90kmから100km近くです。」
速ぁ!!?そんなものが空飛んでやってくるとか本当にただの恐怖だね!ていうかそんな速さで来るってことはすぐに追い付かれるんじゃ
「まもなくこちらに追い付きます。そのまま喰らうつもりのようです」
了解!じゃあ、道路に蹴り出すからタイミングだけ教えて!
「その場合、体に過負荷がかかります。よろしいですか?」
おっけー!!!
「10秒後にオーバーヘッドキックをして下さい。5、4、3」
走るのをやめ、振り返ってから足に限界まで力を込める。遠くをよく見ると何かが飛んでくるのが辛うじて見える。
「楓!?」
「いったい何を・・・あれは!?」
「2、1、今です」
ウィズの合図に合わせて思いっきり地面を蹴り、そのまま飛んできた本を蹴り抜いた。飛んでくる魔本は本のくせに牙を生やしてこちらを食おうとしていたようだ。
「ハァッ!!」
「本が空を!?」
「あれはいったい・・・!?」
車道に蹴り出された本は時速100kmオーバーのまま地面に叩きつけられ、その上に列を成している車が載る。それによって一時的にだが本は動けなくなった。
「今の、うちに・・・!」
「楓様!今のはいったい何なのですか!?」
「きっと、新型ドローンと、ハァかラジコンです!」
「か、楓・・・!わたくし、げんかいが・・・」
「メイドさん!麗子ちゃんを、担いで、きてぇ!」
今の一撃で右足を少し負傷した。無理にオーバーヘッドキックを決めた代償である。さらに言えばこの一連の流れでのウィズによっても未来情報取得のために体力を持っていかれている。そんなに遠くない未来だけなのでそこまででもないが、連続で使い続けるのは、中々にきつい。素振りをずっとしていたかのような疲れだ。
でも、さっきの一撃で向こうは少しだけ動けなくなった。この間に家にたどり着いて切れば、私の勝利なんだ。
私は、根性おぉぉぉぉ!!
負債がたまりすぎてる、やばい・・・