おまけ・お父さんの実家
負債2日分
夏真っ盛り。その間のお盆の時期に私達家族はパパの実家に来た。
「おっきー・・・」
ママの家も大きかったけど、こっちも大きい。ていうか、基本的に屋敷の形してるよね。こういうのを武家屋敷って言うんだっけ。
「正確には侍屋敷に相当するします。」
何が違うのかは良く分からないがとりあえずお金持ちっぽい。あと、暑い。長野の山の麓だからきっついね。
「母さんただいま。」
「お帰りなさい、昴」
「お義母様、お久しぶりでございます。」
「咲さんもいらっしゃい。その子が楓ちゃんね?」
「はい。1歳と9カ月程になりました。」
「まあまあ。可愛いわねぇ・・・。」
「あつー」
「母さん。早く昴達を中に入れてあげよう。この暑さの中外にいたら楓ちゃんが熱中症になるよ。」
「ま!そうね。中はそこそこ冷えているから早く入りなさい。」
「ちゃんとスイカも用意してあるからな。」
「お、サンキュー兄貴。」
「お邪魔します」
あぁ、ひんやり・・・。冷房は現代の夏に欠かせない神器だぁ~。
「あふーーー」
「あらやだ。楓ちゃんったら気持ちよくなっちゃったのかしら」
「なんだか既に大人みたいな反応だね」
「いやいや、ここら辺の気温に慣れてる僕でもこうなっちゃうんだから、これはもう人間の本能みたいな物だよきっと。」
大人っぽい反応って言われてるけどこれって色っぽいじゃなくて明らかにおっさんぽいって言われてるよね・・・?
「父さんただいま。」
「おお昴。無事に帰ってきたな。咲さんもよく来た。自分の家だと思ってゆっくりしていくといい。」
「はい、そうさせていただきます。お義父様、この子が私達の娘の楓です。ほら、楓ご挨拶」
「こんいちは」
初めまして父方のお爺ちゃん。ママ方のお爺ちゃんよりもコミュニケーション能力高そうだね。
「おお!よく来たよく来た。外は暑かっただろう~、ほれ、スイカ食うか?」
まだ乳歯生え揃ってないんだけど食べていいのかな?
「お爺さん。楓ちゃんはまだ歯が揃ってないからそのままあげたら駄目ですよ。小さく切り分けてきますね。」
「頼むよ。」
「・・・いやぁ、咲さん。凄い子を産んだね。」
「はい?」
「兄貴?何のことだ?」
確かに凄い子ではあるね。特に異常性という面では。いや、常識を知っている分社会性が凄いのか?
「楓ちゃんの目を見ていたけど、この子、母さんと父さんの会話を理解してるかも知れないよ。目の動きが明らかに言葉に反応して動いてる。というか、受けた言葉からの動き方を考えてるとでも言おうか」
ギクッ。この人、意識してこっちの目線を読んでたのか。流石に目線までは対策してないぞ・・・
「いや、そんなまさか。確かに楓は賢いけど、まだ文字の勉強だって始めてないんだよ?知ってる言葉だってせいぜい咲が読み聞かせてる絵本ぐらいのものだし、それだって理解して聞いてるとは思えない。」
「いや、意外と理解しているんじゃないか?読み聞かせてる時の反応はどうだい、咲さん?」
「えぇっと・・・。私が大きいリアクションと共に読む時は一緒に動いて、普通に読んでるときはこっちを見つめてくる、くらいですかね?」
「ふむ・・・それだけだと少しはっきりしないか。よし、うちにある絵本を持って来よう。まだ捨ててなかったはずだし」
おいおいおいおい。なんだこのおじさん。知的好奇心に素直すぎないか?完全に私に対する興味が姪ではなく研究対象みたいになってるぞ。
「こーら、明。あんたはまた悪い癖が出てるよ。そこまでにしな。はい、スイカですよ~、楓ちゃんどうぞ。」
「わー!」
わたしはこれからただのじゅんすいな子どもとしてスイカをたのしむんだ!
「楓、ママと一緒に食べましょうね。食べすぎるとぽんぽん痛くなっちゃうよ。」
「あーい」
「ふむ・・・。いや、これは確実にギフテッドだと・・・」
「兄貴が研究者肌ってのは嫌になるほど知ってるけど、楓を研究対象にするのはやめてくれよ。場合によっては俺は兄貴を殴ってでも止めるからな。」
パパがんばれ。私を助けてくれ。むしゃむしゃむしゃ・・・
「いや、別に研究対象になんかしないさ。ただ、もし天才なのだとしたら今から高等教育をすることで将来凄い研究者になってもしかしたらノーベル賞とか取るかもしれないんだぞ?」
「僕たちとしては今の時期から楓の将来を決める気は無いんだよ。せめて小学生になってからじゃなきゃ楓が僕たちの人形みたいになるだろ。」
「それは考えすぎだろう。最終的に本人が地位と名誉を得て幸せになれば問題なしだ!」
「それこそ極論だろ。まったく、学者や研究者の幸せを赤ん坊に押し付けるなよ。ていうかそれこそ兄貴はさっさと嫁さん捕まえて家庭に入ってくれ。」
「まあ、相応しい知性を持つ女性がいればねぇ・・・。浅慮な人間と付き合っても何も良い事は無いと知ってるから結婚は当分無いかなぁ」
「兄貴は高望みしすぎなんだよ・・・」
パパのお兄さんは研究者特有の狂気というかサイコパス持ちですか。・・・この人の前ではおとなしくしておこう。
「はぁ・・。明がこれじゃから昴が唯一の頼みの綱だったんじゃ。咲さん。うちの息子と結婚してこんな愛らしい子を産んでくれて本当に感謝しかない。」
「いえいえ。私は昴さんと結婚したくてして、子どもが欲しくてこの子を産んだので特に感謝される事はしてませんよ。」
「本当に咲さんは良い嫁さんじゃ。あ、そうじゃ。楓ちゃんのランドセルはこっちから贈る事になったからよろしく頼むぞ昴。間違っても買うなよ。」
「はぁ!?いきなりすぎるだろ父さん!」
義理の娘に礼を言うついでに言う無いようじゃないよお爺ちゃん・・・。
「向こうのご家族と電話でな、どっちが買うかの協議をした結果うちから送ることになったんだ。」
「いや、だからなんで僕達抜きで話してるの!?」
「馬鹿野郎!!!!孫にランドセルを買ってやるのはじじぃばばぁの数少ない楽しみだろうが!!」
「そうよ!楓ちゃんにかわいい服着せたりするのが楽しみなのよ!」
「いや、そんなこと言われても・・・」
「あはは・・・」
これはしょうがないかなー・・・はっ。
「━━━━ふむ。ちょっと見えた気がしたが・・・」
この人きらい。早くかえりたい。
このクソヤロウもとい、明さんのせいで珍しいものを探すことも出来なかった。素敵な古蔵もあったのに常に近くに奴の目があったせいで本当にただの赤ん坊として振る舞うことに専念するはめになったのだ。大きくなったらやつの研究テーマ潰してくれようか・・・!
こうしてパパの実家訪問は終わってしまった。何の収穫も無くて目が死んでしまったのは内緒です。