序章
1923年9月8日
拝啓
向寒の候、いかがお過ごしですか。
この挨拶を書くのは何度目だろう。君に伝えたいことがあるのに、ちっともうまくまとまらない。こんなかしこまった挨拶を書いてみては丸めの繰り返しだ。でも、何個目かの丸めた紙を作り終えたとき、僕は気づいたんだ。"そうだ、君に送る手紙は、これじゃない。そのままの僕だ"ってね。ああ、どうしてこんな単純なことに気づかなかったんだろう!でも、それをするには僕は少々大人になりすぎたのかもしれない。それでも、僕は君に伝えなければならないことがあるんだ。僕らの過ごしたあの季節のこと。君は覚えているだろうか。僕らが共に過ごした時間はあまりに短く、僕らの友情を深いものにするのにあまりに長すぎた。
今から、僕らの過ごしたあの季節の話を、君に送る。君は今、僕らに残した君のかけらを除いて、小さな小さな粒子となっているかもしれない。もしかしたらもう、君自身の自我は消えてしまっているかもしれない。だから、思い出してほしい。
大人になった僕からの、遅すぎる願いだけれども。きいてくれるかな?