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001-001 生まれた2人

 春。

 世界がどこか、幸せ色に彩られる、春。


 桜が満開に近づき、そしてちょいと通り過ぎた、そんな頃に、2人の男の子が生まれ、そして捨てられた。


 それは、別々の両親の手によるものであったが、偶然にも同日同時刻、同場所。

 ホウキでもって、朝方、掃いたにも関わらず、散った花びらが積った孤児院の玄関口に、そうっと、そうっと置き去りにされていたのだった。


 赤ん坊達は、藁を編んで作ったような、優しい香りのする籠の中で眠っており、一切れの布と、1枚の紙を持っていた。


 紙には、文字が書かれている。

 丁寧に、丁寧に。ともすれば震えているようにも、余計な水分で滲んでしまっているようにも見えるが、思いのこもるしっかりした字で、片方の紙には、ロッド、と、もう片方の紙には、レディアス、と。


 それらは、赤ん坊達の名前だ。


 2人の男の子は、両親から、名前と、生涯届くことのない思いだけを受け取って、この孤児院にやってきた。


 それが、今より丁度12年前のこと。


 当時孤児院には、15名の子供達がいて、最年長は11歳、最年少は1歳と8ヶ月。

 大人はたった1名で、70歳にさしかかろうとしている、お婆さんの院長だけ。


 お婆さんは、悪いことをした子供達を追いかけ、捕まえては、お尻を叩けるほど、元気であったが、1人では子供達の面倒を見切れない。

 そのためここの孤児院では、赤ん坊の世話は、そのほとんどが、兄姉の役目である。


 5歳、6歳、そのくらいの兄姉は、2人の赤ん坊を抱きかかえ、ミルクをやり、おしめを替え。

 振れば音の鳴るおもちゃで気を引き、危ない目に合いはしないかと見張り、数年後、とうとうその役目を、見事に果たす。


 2人は病気一つせず、よちよち歩きも卒業し、無事、院長にお尻を叩かれるくらい、元気に育ったのだ。


 しかし、それまでには、むろん、苦労もあった。


 ロッドは、手間のかかる子供だった。

 何よりも、よく泣く子供だった。


 何が気に食わないのか、昼も、夜も、誰が何をしていようと、自分の残る体力にさえ構わず、ただひたすらに泣き喚く。


 例えばそれが、可愛らしい声であれば、あるいは良かったのかもしれないが、その泣き声はどこか異様で、おしめが気持ち悪いだとか、お腹が空いただとか、ただそう不機嫌で泣いているわけではないような、生きたい心で泣いているわけでもないような。

 おおよそ赤ん坊らしくない、聞いているだけで悲しくなりそうな、そんな泣き声。


 よたよたと歩けるようになり、片言ながら意思を伝えられるようになり、綺麗な金色の髪が生え、将来は男前になるだろう顔立ちが見えてきた、そんな頃になっても、それは変わらないまま。


 だからか、誰もが手間をかけ、優しく笑って接したのかもしれない。


 そして、それが功をそうしたのかは分からないが、いつの頃からか、手はかからなくなった。

 2歳か、3歳か、いつの頃だったか、ともかくもロッドは、それまでが嘘のように、快活で、元気で、よく笑う子供になったのである。


 反対に、レディアスは、手間のかからない子供だった。

 いや、そうでもなかったかもしれない。


 何が気に食わないのか、何かのたびに、あれやこれやと、自分の立場さえ弁えず、ただひたすらに注文する。


 例えばそれが、可愛らしいものであれば、あるいは良かったのかもしれないが、その注文とはどこか異様で、どうやら本人曰く、前世の記憶を持っているらしく、あやし方が違うだの、こんな物を食わせる気かだの、喋ることなんてまだできもしないのに、目がそう語っているような。

 おおよそ赤ん坊らしくない、見るだけで呆れてしまいそうな、そんな注文。


 よたよたと歩けるようになり、片言ながら意思を伝えられるようになり、綺麗な銀色の髪が生え、将来は男前になるだろう顔立ちが見えてきた、そんな頃になっても、それは変わらないまま。


 だからか、誰もが手間をかけ、優しく笑って接したくなかったかもしれない。


 そして、それが功をそうしたのかは分からないが、いつの頃からか、手はかからなくなった。

 2歳か、3歳か、いつの頃だったか、ともかくもレディアスは、それまでが嘘のように、と言うよりも、自分でなんでもできるようになったからか、自分の事は自分でする子供かになったのである。


 赤ん坊から、子供へと成長した2人。

 そんな2人は、今度は、子供から兄へと成長する。


 12歳となった子供は、独り立ちとして、孤児院から卒業していってしまうため、世話をしてくれていた兄姉はいなくなっていく。

 そして、代わりに、まだあどけない、自分達よりも年下の弟妹が、新しく孤児院に入ってくるのだ。


 2人に、年下の弟妹ができたのは、3歳と半年の時のこと。

 孤児院に入った時から赤ん坊ではなかったが、2歳になる少し前、という、まだ油断すればコケてしまう、気が気じゃない年頃の子供が入ってきた。


 2人はその子の登場に、多いに喜び、大変に可愛がった。

 弟妹達は、それからも、増え続けるが、2人はやはり、その子達全員を可愛がる。


 ロッドは、少々お馬鹿で、さらにはガサツだったからか、そんな弟妹達を、よく大きな声で笑っては恐がらせたり、機嫌良く遊んでいるところへ参加しては、うっかり玩具を壊してしまったり、なにやら散々なこともしでかした。


 けれども、常に全力で構い、常に全力で遊んでくれる良き兄で、弟妹達もよく慕っている。

 日常生活の中では、とび蹴りやパンチを、たまにお見舞いされることもあるが、ロッドと何かしている時の弟妹達は、誰しもが飛びきりの笑顔でいる。


 レディアスは、頭脳明晰で要領良く、何ごともアッサリこなせるからか、己が求めた世話の水準を、簡単そうに達成しては、弟妹達に楽しい遊びや、過ごし易い環境を提供し続けた。


 だから、常に求めた以上に与えてくれ、常に付き合ってくれる良き兄で、弟妹達もよく慕っている。

 遊びの中では、悪の戦闘員から不倫がバレたお父さんまでソツなくこなし、たまにおじさん臭いと言われることもあるが、レディアスと何かしている時の弟妹達は、誰しもが飛びきりの笑顔でいる。


 2人は本当に、良い兄に成長した。


 しかし――。


 春。

 世界がどこか、幸せ色に彩られる、春。


 桜が満開に近づき、そしてちょいと通り過ぎた、そんな頃に、とうとう2人の少年は12歳となり、そして孤児院を卒業する時がきた。

お読み頂きまして、ありがとうございます。


更新までは今しばらくお待ち下さい。

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