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山に捨てられました。

「いたっ」

背中に衝撃を受けて目が覚めた。

反射的に声が出たけど実際は痛みもなにもかんじてない。


目の前は真っ暗で、全身がザラザラした布に包まれたかのような感触。

「ぶぉっおいっ!出どごおいっ」

この野太いこの声は牛頭か?

ちょっと身をよじると頭の上の布が緩んで顔が出せた。

どうやら俺は麻っぽいこぎたない袋にいれられてるようだ。

あたりはかなり草深い、木々の様子からして山の中のよう。


目の前に牛頭馬頭。

馬頭は背中を痛がってる。リフレクトにやられたんだな。自業自得だ。

「呪ぅ~術ぅ師めぇがぁ~みょおおな術つかうなぁ~ぁ」

「よぐぼぉぉ姫ざまぶおお、だぶらかじやがっだぬあああ、許さぬ、許さぬぶぉお」

ふたりともめちゃくちゃ興奮して、腕をぶんぶん振り回しツバ飛ばしまくりだ。


そのふたりを割ってずぃっと出てきたのが、黒のスーツに青のチョッキとソフト帽、現代的ないでたちの優男だ。

「お初にお目にかかります。猿渡総司殿、わたくしはこの牛頭馬頭の上司、三目鬼(さんがんき)と申します」

「以後お見知りおきを」

なるほど額に目がある。三つ目男だ。


「まずは菊理姫様を救出いただき、黄泉国一同になりかわり感謝申し上げます」

「さっそくですが、菊理姫様との婚姻の儀、取りやめさせていただきたいと存じます」

「なにぶん菊理姫様は長きの眠りよりめざめたばかり、いささか混乱しているご様子、ご容赦賜りますようお願い申し上げます」


一方的に破断宣言される俺。こんなときどう反応すれば正しいものか。


「菊理姫様の母君様もたいへんお怒りですゆえに」


うむ。親御さんのお怒りはごもっとも。

親に反対されては何もいえないな。相手は幼女だし保護者の意向に沿うべきだろう。

ただ、この状況は納得できないんですけど?

俺、麻袋に入れられて地面に転がされて、合計7つの目に見下ろされてるんですけど。


「ごんどぉお姫ざまに近づいだらようしゃぜんぶぉお」

なんか牛頭にツバはきかけられた。リフレクトで反射してたけどさ。


やつらが去ってから小一時間。

俺は袋でもそもそしながら頭の中を整理した。


晴れて独身に戻れた俺だが、結婚生活1日、いや半日か?短いけれどいい経験になったな。

初チュウしたしな。

それに元の世界に戻る方法もだいたいわかった。

黄泉比良坂まで行けばなんとかなるだろう。

黄泉比良坂が、どんな場所かわからないが壁抜けと透明化スキルがあるし、まぁなんとかなる。


それから麻袋を出て、てくてく歩きだしたが人家どころかまともな道すら発見できない。

どうやらかなり山奥に捨てられたようだ。


しばらく行くと、空気が冷たくなってザーザーという水音が聞こえてきた。

そして水音をたよりに草をかけわけると見事な滝にたどりついた。


「ヒャッホゥ」

俺はスキルに「水中呼吸」を入れ滝つぼに飛び込んだ。

水が冷たくて気持ちいい!呼吸ができるからどこまでも深く潜れるぜ!

こんな時は焦っても仕方ない。視点を変えてめいっぱい楽しむに限る。


デカイ魚がうようよいる。素手でつかもうとチャレンジしたがスルスル逃げられる。

「朝飯まてぇ」

手当たり次第に追いかけまわしてたら、あれだけいた魚がみんなどこかに姿をかくしてしまった。

「ぐぬぬぬ」

俺は適当に水中の岩場にスキルをかけまくる。スキル「魅了」だ。


「はっはっは、お魚ちゃんちょろいぜ」

丸々肥えたうまそうな魚を何匹も抱えて水からあがる。

草場に腰を下ろした俺を追って、魚がピョンピョン陸に飛び出してくるんだぜ。


魚の肛門に指を入れエラまで割いてワタを出す。

指がちょっとした刃物みたいに魚がスッとさばける。こりゃ高レベルの恩恵だな。

そのへんに落ちてた木の枝をぶっさす。

ファイヤーボールで火をおこして、しばしまてば焼き魚の完成。


ハフハフかぶりつくが、当然味はない。

「食えなくはないけど塩ほしいな」


俺が魚の朝飯でハフハフ腹を満たしてると草むらからゴソゴソ妙な男が顔を出した。

髪もひげも伸ばし放題のぼっさぼさの白髪で、しわだらけのボロを着た老人だ。


異世界生活2日目、俺は、焚火をまんなかに奇妙な老人と対峙していた。

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