表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/89

窮地

伊予国、ここは阿波の森と地続きで、おなじく大河沿いにある友好国だ。

西を大河、東を海に面した南端のこの国は、国土の大半にジャングルを抱えるが、海沿いに町が発達し、漁業が盛んで田の実りも豊かとあって多くの人々が暮らし栄えていた。


そしてその南方特有の自由な気風と豊かな財政から、芸術家、学者らを惹きつけ、最先端ともいえる奇抜で独特な文化を形成していた。


伊予国の国王の13番目の姫、伽耶(かや)姫は変わり者で色々な呪物を収集することで有名だった。

その伽耶が掘り出し物を探しに町におりてきて天狗兄弟の兄、夏角と出会った。

夏角はくらやみ祭りでハジキ認定され、手首に呪いの紐を巻いていて、それが伽耶の目にとまったようだった。しかも夏角は天狗。里に下りる天狗はあまりおらず伊予国では珍しい種族だった。

呪物コレクター伽耶は未所持だったハジキの紐をぜひ譲ってほしいと申し出て、同行していたカエルの学者とともに夏角をくどいたらしい。


「この紐をご所望でござるか?これは術で外れぬようになっておるのでござるよ」

「ならば、紐を切らず、手首を切ってしまうのはどうじゃ」

「姫君殿、それはさすがにないでござる。茶碗がもてなくて困るでござる」


「伽耶様、この者の手首を着脱式に改造してはいかがでしょう」

「いま何と申しました従者殿!着脱式でござるか!それはカッコイイでござるな」


カエルの学者は自身にも改造を施していて、左目にでかい丸ガラスのレンズをはめこみ、縫いつけた傷がまた夏角のツボにはいり、カッコよく改造してくれるならおっけーみたいなことになったそうだ。


おれはもう頭が痛かった。なんでもうこいつらは問題ばかりおこすんだ。カンタンに改造すんなよ。着脱式の手首って義手だろ。だまされてるだろうが夏角は。


「馬鹿か!?おまえらもなんで止めないんだ。初対面の人間をやすやすと信用すんなよ」

「え…。改造手術でござるよ。兄君はカッコよくなるでござる」

「手術には失敗がつきもんなんだよ。健康な体を痛めて、まじでおまえらアホですか」


「明日あさイチに出発すんぞ。手術前に夏角を連れ戻す。雨角はその伽耶って子のとこに案内しろ」


村長の家で雨角をしかりつけてると、扉もなく開けっ放しの入り口から小狼首がふらっと入ってきた。


「総司クンは短気なんだね。怒ってばかりでは気分が沈まないかい」

「俺を怒らせるこいつらが悪い。まったくめんどくせぇやつらだ」


雨角は客人が来てラッキーみたいな顔で「反省してるでござる~」と、ぴゅーっと逃げ出した。サザエに叱られたカツオかおまえは。



ここで、一郎から播磨の情報が届けられた。

一郎は俺の耳の中で小声で情報を伝えてくれるので、外に音が漏れることもなく、小狼首に聞かれる心配もなかった。


情報の内容は、祭りの最中に毒がまかれ死傷者が出たこと、竜姫が行方不明となり、捜索隊が探しているが見つからないという悪い知らせだった。


「なにかあったの」

「いや、ちょっと料理の下ごしらえがあってね。まぁこれ食ってて」


俺は小狼首にチキン南蛮を出し、台所に立つふりでごまかしつつ、スティタスを開いてスキル欄に千里眼をかきくわえた。


千里眼は360度撮影のカメラのようで、視点がぐるりと広がり、遠方の町でも地中のマグマでも、どこにでも好きな地点をズームアップすることができる。

俺は、姫川城の下、川の中の祠に焦点を合わせズームを開始した。


しかし、ズームを開始したとたんに目の前に暗いとばりが降り視界を黒くつぶし、遮られてしまった。

そして暗闇に浮かぶ巨大な金色の瞳。

「視るな」という強い意志を感じて、俺は視神経に激しいダメージを受けた。どうやら竜神の結界に触れてしまったようだ。


竜姫のことは心配だった。しかし竜河に彼女の所在がわかってるのであれば、いちおうのひと安心だ。俺の打つ手も少ないし、ここは竜河に任せるしかない。

ただ、まじであのおっさんおかしいからなぁ。俺は彼女が窮地にあり、助けを求めるなら手助けしたい気持ちも持っている。迷うところだが、今夜は彼女の無事だけを確認して手を引くとしよう。


俺たちが外遊に予定している一週間がたって天狗の里に戻る前に、一度、竜姫と会話する機会を持ち、彼女の気持ちを聞き出したい。

俺は痛めた視神経を整えながらぼんやりそんなことを考えていた。


「総司クン。きみのこと、総司って呼んでいいかな」


いつのまにか俺の背後には小狼首が立っていて、俺の名前を甘い声でささやいてきた。今夜、俺もちょっとした窮地にあるようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ