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斜め上からにもほどがある。

竜神と狼首の確執は数百年に及ぶもので、その間、ふたりは何度も顔を合わせていた。けれど脳筋の竜河が、美形とはいえ野郎の顔を何年も覚えていられるはずもなく、一切を忘れてしまっていた。

その真逆に、最愛の人を奪われ孤独に追いやられた狼首は、数百年たつ今でも竜神を恨んでいる。


そんな狼首には親衛隊という5000人の愛人がいるが、子供はなんと、その10倍以上の数で、親である狼首ですら実際の数字は把握しきれていない。

現在、彼の子供のうち2万人が土佐にとどまり、3万人が隣国の淡路国と伊予国に居住している。

孫やひ孫を考えるとそれはもう恐ろしい数字になる。


結局のところ繁殖力の強い外来種に根をおろされたら、在来種は混血するか駆逐される運命にある。そんなどこの世界にもあることが、この異世界の淡路国と伊予国でも進行していた。



おさわがせの竜神が去って、餅の試食会は仕切り直し、妖怪の里の代表の皆は席について配られた麦茶をすすっていた。


「このもちは中に甘い豆がはいってるのじゃな。めずらしい菓子じゃ」

「美味しいうえに腹にたまって力がつくようですにゃ~」

「こんなんめぇもんあったんだな。おはぎっつうのかあ?おらの家族にも食わせてやりてぇな」


大福もちもおはぎも大好評だった。阿波の森は砂糖の産地で、甘味に慣れている連中がこの高評価だ。砂糖が高級品の他国の民ならあんこのうまさにもっと感動することだろう。


「このうまい菓子をいつでも好きなだけ食えるようになりたいと思わないか?砂糖を作って売れば生活は豊かになるし、他国の民もよろこぶ。俺はおまえらにまたサトウキビの栽培をはじめてほしいんだ」


そのために阿波の森の住民が結束し、土佐の力を借りて淡路に対抗するべきだと俺は訴えた。

狼主の動かせる兵が35000人、それに阿波の森からも兵を出し、5万人規模の軍勢を作れば淡路との戦いにも十分に勝算はある。と、狼首は語った。


「兵隊っちゅうのは、剣も握ったことのねぇオラたちには無理だべ」

「あちきは戦は苦手でござんすよ」

「戦争は人間のすることじゃよ。我らは森にひそむしかない弱い生き物じゃ」


妖怪、そして獣人の代表たちは及び腰だった。

けれどそこに白玉が淡路軍の捕虜数名を連れてきたことで流れが変わった。

その捕虜は阿波の森の出身の若者たちで、中には家出していた妖怪の里代表の息子もいたからだ。


淡路軍に自分の息子が加担していたと知り、獣人のイノシシ親父は激怒した。

イノシシ親父は息子の着物の襟首をつかみ、ふてくされる家出息子の頬を何発も平手でたたいた。

そして、人目もはばからず親子喧嘩をはじめ、息子を激しく叱りつけた。


「瓜坊!淡路の軍隊にはいっとったのか!親に剣を向けるとは情けない。一族の面汚しめが」

「もう瓜坊じゃねぇよ。俺はこんな森にこそこそ隠れる卑怯もんの生活は嫌だったんだ。淡路だろうがなんだろうが俺の力で出世したんだ。百人隊長だぜ俺。ほめてくれよ親父ならさ」


「卑怯ものとはなんだ親にいう言葉か!!戦好きの獣になりさがったか瓜坊」

「戦が好きなんじゃねぇよ。俺の力でなんかしてぇんだ。俺は森で息をひそめて生きていたくねぇ」


その場が静かになってしまった。若者には森でひっそり暮らす生活に不満があり、それはこの青年だけでなく阿波の森の妖怪たち全体の問題だったからだ。


「親父はいつも俺のことを自慢の息子だ、一族で一番の剛の者だと言ってくれたよな。でも、俺たちは敵がきたらコソコソ逃げてばかりで、食えるだけの小さい畑をたがやして、家だっていつでも捨てられるあばら家しか建てない」

イノシシ親父の息子は枯れた声で涙ながらに語った。

「未来がないのが辛いんだよ。なにもせず終わりたくない。兵士がだめなら、畑を耕やさせてくれよ。家だって俺ならでけぇ家が建てられる。淡路には店も学校もあった。なんで俺たちにはなにもないんだよ」



瓜坊と呼ばれた若者の話を静かに聞いていた狼首は、若者に歩み寄り、その手を差し伸べた。


「きみのその若い力を家族を守ることに使ってみないか。わたしの軍はきみたちを歓迎しよう」


若者は涙をぬぐいその手をとり、狼主を盟主として仕えると宣言した。もちろん親衛隊ではないほうの軍に入るということだ。


頑固な老人たちにもこの若者の行動は理解ができた。彼らを悩ませているのは強い指導者がいないことによる迷走だ。

妖怪たちも本音の部分ではfucking淡路だったし、竜神に喧嘩を売った狼首に一目置き、阿波の森連合および、狼首を王とする件はそれぞれの里で検討し、後日話し合う方向へと進んだ。




播磨の城には悲壮感が漂っていた。

何者かが川に毒をまき、祭りの参加者が犠牲となってしまい、お館様の安否の確認もできていない。


祭りの最中、川の流れを緩やかにするために、岸壁には丸太で囲いが作られていた。この囲い壁のおかげで毒が流れていかず被害を拡大させる結果となってしまっていた。


城の家臣たちが船を出し、水に沈んでる者がいないか竹の棒で探っていると、怒れる竜神が空から現れ、祠を目指しおりてきた。

彼らがあわてて船を接岸し、陸に退避したところで竜神が勢いよく着水し、川の水は大きくうねった。


竜神は川にたてられた丸太を軽くなぎ掃い、よどんでいた毒水を流し去った。

そして、竜神の黄色い瞳は祠のある洞穴の入り口にむけられた。



蛟の体内に忍んだ霧妖怪オボノは、洞穴の奥深くに逃げ込んでいた。細く続く洞穴の中には巨大な竜神の身体は入るまい。そう考え、毒を流した犯人探しをする竜神に見つからぬよう、蛟たちにまじり洞穴の奥に進んだのだった。


けれどその考えは甘く、オボノは竜神にあっけなくとらえられてしまった。

瞬きの間にオボノが宿主にしていた蛟の身体が消えたのだ。

蛟たちは普通の生き物ではない。竜神のヒゲからできている、竜神の分身のようなものだった。竜河はそれを元のヒゲに戻しただけのことだった。


寄生先をなくした霧妖怪オボノは水に広がった。

オボノの本体は霧だ。その霧が水に食われていた。霧がそのH2Oの分子構造を分解され、分子をとりこまれ、抵抗もできずオボノは個を失っていった。

「意識が…消えていく。いやだ…あたしは手柄をたてて…あのかたに…」


竜神と霧妖怪では力の差がありすぎた。オボノは竜神のひとにらみで泡のように消え去った。




陽が沈んで、三津の里では歓迎の宴席が本格的な酔っ払いの宴ステージへとかわっていた。


伊予国にお使いに行かせた天狗たちも戻り、新たな酒の投入に、酒好きの土佐の者、妖怪の酒豪たちも肩を組み、お互いに笑顔で何度も乾杯をくりかえしていた。

俺は飲めないけど酒の力も捨てたもんじゃないな。土佐者と妖怪たちがこうして襟元をゆるめて交流し、仲間として認め合うことで、未来の関係を結ぶことにつながるのだろう。


しかし、だ。


「夏角はどうした?姿が見えないけど、まさか伊予に置いてきたのか」

「ははは、総司殿が心配されることはござらぬ。兄君は伊予で改造手術を受けておるのでござるよ」


はっ!?我が耳を疑うとはこのことだ。改造手術?お使いがなんでそんなことになるんだ。ミラクル発生装置か?この天狗兄弟は。

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