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誰得な嫁ができました。

時刻は午後の遅い時間になっていた。

それでもまだ陽は空にあり、松明の火も灯っていない。


竜姫が祭りの会場に現れたのはそんな時間帯だった。

彼女が葉落としの儀式に参加するのは最後尾で、日中に参加者全員が水に飛び込むには時間が少し足りないかという雰囲気になり、急き立てられまとめて数名が川に飛び込んでいた。


参加者の衣装は男女共通の白い着物だ。袖と丈は短く、腰で帯を結び、下に短いズボンを履いた海女さんのような衣装で、額に白い鉢巻をまいている。

水に慣らすため、新成人たちは川に飛び込む前に水を豪快に頭からぶっかけられる。

桶でザバっと水をかけられた竜姫は白い着物が透け、育ち切った豊満な胸の形があらわになった。


女系社会を作る播磨では胸は母性の象徴として尊い神聖なものとされていた。

つまり皆がおっぱい星人だった。

秘仏御開帳に等しいお館様の美乳を拝見できようとは、一生の宝、冥土の土産じゃと、その場の男共は瞳孔全開にして、白布の下のちいさな薄紅色をその目に焼き付けた。



俺はこの日彼女が行事に参加することを知らなかった。そして竜神、竜河も知らなかった。この参加は今朝決まった突発的なものだったからだ。

竜姫、彼女も知らなかった。自分が水の中で呼吸できるのは血統ではなく、竜神の加護のおかげであることを。

幼いころから水に入った彼女の周囲には空気玉が漂っていた。顔などはすっかりその空気玉で覆われていた。それを家臣たちが姫様には竜神様の特別な加護があると称賛したのを、ごく普通のことと深く考えることもなかった。

けれど彼女は本当に竜神に特別に愛され加護を受けていた。そして残念ながらいまその竜神は側にいない。



さて、場所は変わって三津の里の様子をお伝えしましょう。


宴会は里全体で盛大に盛り上がって、里に入りきれない土佐の者たちは里の外で酒席を広げていた。

俺や狼首、村長たちのいるのは里の広場だ。

まず地面に簡易な床を作り、その上に布を敷いて、さらに毛皮を敷き、屏風を立てた殿様席に俺たちは座っている。その座席の用意をしたのは狼首の親衛隊で、彼らは漆塗りの豪華な食器、料理、楽団までも主のために用意していた。


たいした忠誠っぷりだ。と俺が感心してると、狼首が杯の横にあったひとつだけ柄の違う茶碗のふたをとって「これは君のだね」と手渡そうとした。

「いや違うから」と俺は受け取らなかったが、俺は狼首にガラクタコレクターと思われているのか?


夜の部のたぬき村長が起きたので、昼の部の村長はその頭の上に座っている。そして空いた俺の頭には鍋がのせられていた。


なぜそうなったか?その説明は俺がしてもらいたいぐらいだ。

鍋、まぁ女の子みたいなので鍋子ちゃん。この子は付喪神だ。使い古した鍋が妖怪化したもので、里が黒蟻に襲われて鍋子も焼かれるところを俺がヒーローのようにさっそうと現れ、鍋子を救って白玉ン家に放り込んだのをいたく感謝してるらしい。


「総司殿に嫁いで、お仕えしりゅの」と鍋子に告られる俺、いや、鍋を相手にいかがわしいことをして妊娠させられるのは狼首ぐらいなもんで俺には無理だって。

しかし、鍋子に子は望まないといわれ、断固拒否できない因果な俺は鍋子を持ち主に譲られ、3人目の嫁としてもらうことになってしまった。

そしていま「旦那はアタチが守りゅ」と鍋子はリボンと花をつけて俺の頭の上にいる。



「面白い装飾品で飾ってはいるけれど、沢渡殿はなかなか愛いお顔をしていらっしゃる」

ふいに狼首が迫ってきた。なんか顔が近い。

「今夜は先約があってね、時間がとれずに済まない。どうかな?いまからわたしと」

えっ!?いまから?どこで?だれと?何を!?

…ほんとにこの男は性別無視、いつでもどこでもの見境のない猿だな。狼首、猿腰だ。


「狼首殿は海賊の首領と聞きましたが、なぜ三津の里の援軍にいらしたのですか」と、別のトコに話題を持っていく必死な俺。


「淡路軍が三津の里に進軍する計画を耳にしてね。愛する隣人の苦境を黙ってみていられなかったんだよ。空言に聞こえるかな?わたしは今までも阿波の森に剣をむけたことは一度だってないよ」

狼首はニッコリ笑って言葉をつづけた。

「そしてこれは、ついで(・・・)なんだが、淡路国に報復したいと思ってね。兵を集めているんだよ」

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