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いらない情報。だが気になる。

「いやでござる。なにゆえ拙者がそのようなお役目を」

「ワシもお断りするでござる。ワシは、もそっと狼首殿のご尊顔を拝みたいでござる」

「うっせぇ!いいから買出し行ってこいや!酒足んねぇだろ」


俺は天狗兄弟に伊予国までのお使いを頼んでキッパリお断りされたところだ。

こいつらはお使いもできないのか!役立たずにもほどがあるだろう。


三津の里では援軍に来てくれた狼首を歓迎し大宴会が開催されていた。飲めや歌えの大騒ぎ。

しかし狼首の配下は5000人、三津の里の住人1200人、近隣の里からの来客も訪れるとあって里の酒と食料はすぐに底をついた。

ワープポータルを使って播磨から食料を調達したが、あちらさんも祭りで酒の消費量が半端なく、大量の酒は調達が厳しいようで、当座をしのぐぶんしか売ってもらえなかった。


「つべこべいわずサッサと行ってこいや!ぬりかべ六十一郎たちが酒屋回って話はついてんだ。行って金払って酒受け取ってくるだけだ。岩爺なら2時間かかんねぇから行けっ」


嫌がる天狗兄弟をムリヤリ岩爺に乗せる。


「余計なもん買って無駄遣いすんなよ。かずら婆さん、金渡してやって」

「・・そうじゃな総司殿のように、夜店で真ホタルなどに3両もの大金を使わぬようにな」

「えっ、まぁあれは菊理への贈り物で、似合うかなって。つい」


俺が菊理に贈ったアクセサリーは小さいがめずらしい品とあって対価は3両、日本円で30万円だった。調子に乗って高価な贈り物をしたことは反省している。あのときは異世界のすべてを放り出す気分だったからついね。


「姫様に贈り物をし、お心を和らげるのは良き事じゃ。総司殿の懐から出た金であればな」

「婆さん。そのぐらいで勘弁して。反省してるって」


このネタでかずら婆さんにしばらくチクチクやられそうだ。

とりあえず、天狗兄弟をお使いに出すことに成功してよかった。岩爺もこの場から離れて頭を冷やしたほうがいいからね。


ちょっと前に、岩爺が土佐者に捕まったと報告してきた、ぬりかべ偵察部隊の五十六郎。

じつは五十六郎は実際には捕縛されたのではなくて自分の意志で狼首の親衛隊に入っていたんだ。

俺も手抜きで一郎から順番に百郎まで名前つけちゃったけど、五十六郎は女の子だったようだ。しかもちょっと腐っていた。腐女子ってやつだね。


五十六郎を怒鳴り散らす岩爺の剣幕はもの凄かった。

しかし五十六郎も気が強く、新しき主を定めたからには独立した大人ということ、親の権限で縛ってくれるな、もし縛るなら死ぬと激しく訴えた。

麗しの狼首の美青年っぷりにひとめぼれしたらしく、一生を狼首に捧げる所存らしい。


こんな怒鳴りあいが念話で延々続いたらそりゃあ萎えるよね。

一郎たちのローテンションのお通夜っぷりの理由はこれだったようだ。


いまのところ岩爺は俺の弟子だが、所属としては黄泉国側で、義のあるところで尽くすのが岩爺の生きがいのようだ。

けれど実のところ、岩爺にとって一番大事なのは、俺でも黄泉国でも義でもなく家族だ。岩爺は娘の独立宣言に半狂乱になっている。なにしろ五十六郎は永遠の別れみたいなことを言ってるからね。


俺はどちらの味方もできない。でも心情としては岩爺を応援したい。狼首は素人さんが手出ししてはいけない領域のブッ壊れた危険な男だから。


狼首は、阿波国を支配していた王族の出身で、その王族というのは人狼の一族だった。

人狼の彼らは赤ん坊の頃は狼の姿で、成長すると人化するが、狼首だけは人の姿で産まれたらしい。

耳も肌もどこも狼らしいところがない。けれど牙があって瞳は獣の眼をしている。首から上だけが狼のようだ。そういう理由で狼首と呼ばれるようになったそうだ。


様々な術を操る才能をもち、黒蟻たちを撃退した破魔の雨を降らせる狼首は、剣技にも優れ、天候を読むのも得意で、海賊の首領として相応の実力を備えているらしい。


今回、狼首が引き連れてきた5000の兵、これが彼の親衛隊だ。そして、全員が彼の恋人だという。

ハーレムなんてレベルじゃねぇ、基本きらびやかな親衛隊ではあるが、パッと見たなかには筋骨たくましい鬼♂、2つ首の獣人、山姥がいた。そしてプラスぬりかべ五十六郎がいる。


恋人、それはあれだな、心身をささげたプラトニック的なあれか。と思ったら違った。狼首は一晩に性別種族関係なく4~5人を相手にするらしい。


そんな話を聞く前、俺は草原で狼首と握手をしたときビビった。彼の手に触れると皮膚に電気のようなものが走った。そしてわかった。指先が触れるだけでこいつは感じてやがると。

狼首は全身性感帯のような正しいド変態だ。超絶美形でフェロモン垂れ流しのカリスマ野郎。ストライクゾーンは360度という凄まじさだ。


ビビった俺が立ち尽くし狼首をじっと見つめていると、親衛隊の女に紙を渡された。親衛隊入隊志願書兼、整理券だった。整理券は狼首と一晩を共にする順番待ちのチケットで、新加入者は2年以内確実の優先権があるとかなんとか。

いらんわ!と、俺が志願書を返すその横で、なぜか天狗兄弟がうれしそうに1枚づつ受け取っていた。


そして親衛隊の女は俺にささやいた。

「ここだけの話。狼首様は男性もはらませられますよ」


__まるで俺が期待してることを見抜きました。とでも言わんばかりのその態度。

ほんとうにいらない情報ですから。

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