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竜父の祭り2日目。

姫川城では竜父の祭り2日目が行われていた。

祭り2日目の葉落としの儀式は、余分な葉を散らせるという意味の儀式だったが、これに挑む者は相応の自信があり、それぞれの地元で資格の有無の確認も済んでいたということもあって、例年通り脱落者はなく儀式は淡々と進行していった。



水中の祠から戻った若者が、水しぶきをあげて勢いよく水面を破り顔を出す。そしてその手に握られた印の珠を誇らしげにかかげる。


やぐらから川に飛び込み、洞穴の奥にゆき、祠の珠を取って戻る。簡単な課題ではあるが、並みの人間なら確実に命を落とす危険な儀式にはかわりない。

それに水中には恐ろしい蛟がいる。飼い主に忠実とはいえ獰猛な猛犬の前を通り過ぎるのには、やはり勇気が必要だ。


桟敷席の観客たちは若者の勇気を拍手を持って讃え、はやし立てた。


今年の儀式の参加者は新成人の約1割にあたる500人。次々と川に飛び込んで己の勇猛さと血統を証明していく。



術で整えた顔と潤いに満ちた肌の花竜は上機嫌でそれを見守っていた。


「ほほほ、今年の雛鳥は威勢がいいのう。あれは五木の頭領娘か?見事な肉付きじゃ」


かつての威光を取り戻したかのような花竜を囲んでいるのは、播磨の主要氏族、7つの名家の頭領たちだ。彼らはそれぞれ自分の領地を持ち収めている。そしてすべての頭領に竜神の血が入っていた。つまりは八代の血族だった。


彼らにはもちろんほかの家の血も混ざっていたが、それには証明の方法がない。竜神の血の特性により八代の血筋だけがその血を証明できる。このことにより八代家は7つの名家の本家のような立ち位置となり播磨の氏族をひとつにまとめあげていた。

八代家が権勢を維持し、国をまとめるためにも、この竜父の祭りは重要だったのだ。


女系である7つの名家の頭領、このうち2人は男性だった。頭首が女を産まなかったからだ。

通常ならその場合は近親の女性が跡を継ぐが、花竜の後押しで、従妹を娶る条件で彼らは頭領の座についていた。

これは花竜のひそかな願望である息子の政竜を八代の頭領にするための布石だ。

男が頭領となり実績を積み重ね前例を作れば、八代でも男子の頭領が認められる可能性が高まるはずだった。

けれどその願いは、後継者の竜姫が予想以上に民に愛され、家臣に支持されていたおかげで叶うことがなく、花竜は病を得て没したのだった。



城が儀式でわきたつ、そのころ、竜姫は白装束を着て竜神の神社を詣でていた。

神社では葉落としの儀式に参加するべく禊をし、加護を受ける。


神社の板の間の簡素でただ広い空間に一人座し、龍の掛け軸を前に竜姫は苦い想いをかみしめていた。

きのうこの神社の森であったこと、この神社の成り立ち…。


この神社が作られたのは八代家の祖である飛鳥が亡くなりしばらくたってからだ。

長い期間、竜神は播磨から姿を消していた。

その間に播磨は阿波国の暴徒に襲われ、国が傾きかけていた。

阿波国が干ばつの被害にあい、住む場所をうしなった妖怪や獣人が盗賊となって、食料を求め川を渡り略奪をはじめていたのだ。


人々は神社を建て一心不乱に竜神に祈った。この苦境を救ってくれと。

その願いにこたえて竜神は播磨に戻り、川を寝床とし、阿波国の民が川を渡れないようにした。

それにより播磨は守られたが、阿波国の民は大半が餓死し国は獣のものとなった。


「あのころは播磨は新興国で蓄えもなく隣国に手を差し伸べることもできなかった。共倒れるよりは切り捨てで正解だった。だが、いまの播磨は違う。それなのに手をとるべき隣国阿波と分断されているのだ」


竜姫は知っていた。阿波国を苦しめ国土を砂漠にしたのは竜神であると。竜神は飛鳥と子をもうけた阿波国の王へ嫉妬心を抱き、私情で阿波を呪い滅ぼしたのだと。


「私は今なにを祈っているのだ。災厄をもたらす竜神を惹きつけ、隣国との和を絶ち何を望むというのだ」




そんな竜姫の苦悩を横に、三津の里では狼首を迎え、スズメとたぬきの浮かれた宴会が始まっていた。

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