種禁止。
城に戻った俺たちを出迎えてくれたのは、白髪頭の老女に戻ったかずら婆さんだった。
「うひゃははは、なんじゃいそのナリは」
思いっきり笑われた。チビッ子になった俺を指さし腹を抱えるかずら婆さん。
でも、いまはそのあしらいが居心地いい。
じつのところ、城内で菊理姫に出くわすかもと内心ヒヤヒヤしていたんだ。
常軌を逸した菊理に対し怒るべきだろうが、何といって怒ればいいのかわからないし、実際、俺は怒ってないし、でもスルーは今後にも影響あるし、ダメだってんで顔を合わせたときの対応に悩んでいた。
「あぁ冥府の姫さんは昨日の夜半に発ったそうじゃよ。確か…」なんだ婆さんのこのタメは。
「総司殿は黄泉比良坂でお暮しになるそうじゃな。うひひひ、ワシらにお別れもなしで寂しいことじゃと思っとったのじゃ」
それは__菊理は俺を死者にして手元に置く計画をたてていたってことか。
まあ一緒に住むなら、それも悪くないね。嫁に殺されて黄泉比良坂暮らし。などと本気で考える俺はヤバイ領域に踏み込んでるな。
「総司どの。ぬりかべの子が、うひひ、218人産まれましたのじゃ」
それは岩爺に聞いて知っていた。ぬりかべってまじで多産なんだな。
「種つけ料が1人につき3両。ぐふふふ、654両の大儲けですじゃ」
「なんだってえ!?ボッタクリも過ぎるだろう!?つか、ぬりかべの種つけに金とんのか。婆さん」
「安いもんですじゃ、育てば軽く30倍、いや50倍は値が上がるじゃろうて」
なんとまあ、ぬりかべは高値のつく妖怪だったようだ。
確かにあの飛行能力は使えるけどね。ちょっとしたステルス飛行機だし、忠誠心があって軍事にも使えるとなれば1台1千万円超えもおかしくはないな。
岩爺は子供を半分引き取りたがったそうだが、播磨では子供は母親のものだ。仕方がない。けっして金目当てで売ったわけではないぜ。ぐふふ。
654両、日本円にして6540万円という大金を手にして、笑いがとまらず妙にテンションの高いかずら婆さんに頼んで、俺はいま着られる子供用の着物を衣裳部屋から選んでもらっていた。
そこに話し声を聞きつけた白玉がやってきて、チビっ子の俺に驚いた。
「あらぁおまえさま!短けぇ間にようお育ちになっとるだ」
「いや、縮んでるでしょ」
「んだども、菊理姫様とご一緒にお戻りになったときは、もうちょいちいこくなかっただか」
「ほぅ」
白玉情報に憶測をくわえた結果、俺がふたりいるという結論になった。
きのうの夜遅く、菊理と一緒に城に帰ってきたもうひとりの俺は、ここにいる俺より一回りか二回り小さかったそうだ。現在の俺が小学校六年生サイズだから、もうひとりの俺は三、四年生ぐらいか。
一度死んで蘇生したおかげで身体が小さくなったと思ったら、ふたつに分裂していた。
どうやら嫁に俺の半分を盗まれてしまったようだ。これは想定外の事態だった。
そして俺は女物の派手な着物と髪飾りをつけられていた。これも想定外の事態だった。
これから戦だってんのにふざけんなというと、モンペみたいなズボンとやっぱり女物の羽織を着せられた。
「傾いてて、ようお似合いですだ。おまえさま」
「飾ると総司殿もなかなかじゃ。これは高値の種つけ料がいただけそうじゃのう。うひひひ」
「もったいねぇ。子種はよその女にやらねえだ。おらがいただくだ」
「キミタチ、種、種って連呼して恥ずかしくないの!?女の子でしょ」
異世界にはこんな大胆な女しかいないのかよ。子種ってつまりアレだし。といっても、こいつら人間じゃない、狐とたぬきだ。こんなノリが普通なんでしょうか?
とにかく男物の服をよこせと騒ぐ俺に、ぬりかベイビーの一郎が小声で耳打ちをしてきた。
ついさきほど、前城主、花竜の部屋から但馬国の歌楓が出てきたとのことだ。
なんという見境のない男だ。スレンダー好きにもほどがある。
同時に竜河につけていた十郎からもドン引きの報告がなされた。やっちまったか。あのけだものめ。
夜が明けるころ、俺たちが出立の準備を終え、さて行くかとなったところで天狗兄弟が転がるようにかけこんてきた。
「総司殿、ワシらもお供いたすでござる」
こいつらまじでいらん。とはいえ置いていくわけにもいかない。
結局、かずら婆さん、白玉、天狗兄弟、俺の5人で岩爺に乗り込み三津の里に戻ることにした。




