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幼女ふたたび。

姫川城、緩やかな丘を登り岸壁の上にたつ優美な城。

天守閣にむけて丘を二重三重と取り囲む城壁が天に登る龍のようで、また、白い城壁と青鈍色の屋根が寄り添う白鳥(しらとり)と青龍にみえることから、睦み城と呼ばれている。


しかし、実際の青龍、竜河は脳筋のおっさんだし、白鳥にたとえられる飛鳥は2メートル越えのボディビルダーみたいな女だったわけで、筋肉と筋肉の睦みあう姿に、この城のような優美さはカケラもないな。



実質筋肉城、この城の女城主竜姫の住まう御殿の一室に菊理姫が滞在しているという。

生身の菊理姫と会うのは一週間ぶりか、よく考えると彼女とは1日しか一緒にいなかったんだよね。顔を合わせるのは今回で2度目だ。


俺は阿波の森から岩爺の背に乗って川を越え播磨にわたってきたんだが、どうしてもついて行くという白玉も連れてきてしまった。

すでに即死フラグがたってる気がする。けれど、菊理の逆鱗にふれて一度死んでみせれば白玉もあきらめてくれるんじゃないか、そんな期待もあるんだ。

万が一を考えて、白玉には絶対防御と蘇生スキル、痛覚無効を付与しておいた。

真逆に俺はリフレクト、物理攻撃無効をはずして完全服従体制をとっている。



姫川城内は祭りということもあってにぎやかで華やいだ雰囲気だった。初々しい若者の姿も多く、例えれば新入学式みたいなムードだ。

華やかさと対極の寝間着の俺と普段着の白玉は、城の女中さんにちゃんとした着物に着替えさせられたあと、日本庭園の美しい静かな一画に通された。



自分の嫁と会うというのに、緊張でひざがガクガクする。慣れないフンドシのひもが緩かったのか。


欄干のある廊下には一見して素人ではない重課金勢のようなきらびやかなお姉さんがたが控えている。ちらっと見た重課金勢の中に美女風のかずら婆さんがいて、すっかり溶け込んでるのが実に婆さんらしい。

お姉さんがたに上から下まで眺めまわされ、値踏みされてるようで不快だが、ありがたいことに居直る気持ちがわいてきた。


開いたふすまの奥は30畳ほどの和室になっていて、正面、床の間側に御簾がかかり、御簾の手前、左右に牛頭馬頭(ごずめず)、中央に三目鬼(さんがんき)が座している。


「姫様、沢渡どのが参りました」


三目鬼が御簾の内に声をかけると、御簾がバッとめくれあがり菊理姫が飛び出してきた。


「総、菊理の殿ッ」


なんて可愛らしい姫だ。艶やかな絹の髪を前にたらし、はずむ肩で赤い紐で結んだ髪房が揺れている。

巫女舞の千早の衣装に小さな金の冠。その小さく整った顔、そして薄衣からみえる手、指の造形さえもハッとするほどの存在感をはなっている。

すべてが他の誰とも違う。夢で逢う百倍、千倍も輝いてる。世界がかすむほどに美しい。

菊理姫はまっすぐに俺にかけより抱きついた。

姫が身にまとう空気が俺を包み込む。匂いたつような艶やかなそのオーラ。


俺は菊理姫の華奢な身体を抱きしめ、濡れた瞳をみつめる時もなく口づけた。

甘く滴る唇の果汁、はしたなく俺を求める姫の舌先に探り当てられた俺の敏感な部分から甘美な電流が走り、全身がしびれるように満たされる。

絡み合い求め合う唇と、混ざり合う唾液を姫の細いのどが飲み込む音が淫靡でさらに俺を夢中にさせる。



バンと鋭い音が響き、座敷の柱にひびが入り、天井から埃が舞い落ちた。


「姫様、御簾の内へお戻りください」


額に血管を浮き上がらせた三目鬼が頬を引きつらせている。

名残惜しそうに俺の唇を軽く吸って顔を離した菊理姫は、三目鬼の憤怒の表情も意に介さないようだ。


「では総も御簾の内へ、ゆるりと語り合おうぞ。三目鬼、邪魔はならぬのじゃ」

「それはなりませぬ姫様、ではその場でお話なさってくださいませ」


三目鬼は御簾に隠れて俺たちがいちゃいちゃするとでも思ってるのだろうか?もちろんするけどね。

ちゅうもしたし思い残すこともない。そうしてにらまれても死を覚悟した俺にいまさら恐れるものなど何もないぜ。


「いつも俺の夢にきてくれたよね。昨夜はどうしたの?心配してたよ」

「母上の障りじゃ。夢の通い路を妨ぐ術があるのじゃ」


菊理姫は甘えたしぐさでふたたび唇を求めようとして思いなおし、素の顔に戻って謎なことをくちにした。


「総、母上が跡を暗うなしたのじゃ」

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