高カロリーは正義。
小説タイトルと内容がズレてしまった気がします。
近日中に変更の予定。
たぬきの住む里で俺たちは思わぬ歓待を受けた。
「よおこそおこちくだしゃた。竜の神しゃん。われら三津の里いちどお、かんげぇちゃす」
50センチはあるでかいスズメ、着物を着て座布団のうえで丸くなってるこいつがこの村の村長だ。
三津の里はたぬきとスズメの暮らすなごやかな村だった。
「竜の神しゃんのいらっちゃるの、スズメっこのお知らせでしらしゃれまちた」
「たぬきどんは、ちびっこいスズメっこのおしゃべりは聞けんで、しちゅれいしまちた」
俺たちの頭上でスズメがちゅんちゅん鳴いている。
この里の造りは一風変わっていて、里は竹林の中にあるのだが、背の高い竹の上を結んでアーチ状にしてあり、里全体がおおきな家のようで、居心地の良さそうな籐の椅子や吊りカゴがいくつも用意され、たぬきとでかいスズメが一緒に丸まり、思い思いにのんびりくつろいでいた。
竹の家は、竹と竹の間を、籐と竹で編んだものでうめて壁を作り、雨や風の入らない場所をもうけていたが、基本的にはスズメの出入りのいいスキマだらけの構造だ。
俺と竜河は里の中でもわりとみっちり天井と壁を作った丸いカゴのような家に通された。
「竜神しゃん、三津の里のお酒でござる」「竜神さま、おらの自慢の料理だぁー」
「おらのぉー畑でぇーとぉーれたぁー黒糖の菓子ぃめしあがってぇーくだしゃー」
里の住民たちは、あれも食えこれも食えといろんな食べ物をもってきた。
竜河は竜神としてちやほやされるのが久しぶりのようで、上機嫌で並んだ山菜やきのこ、木の実や菓子をほおばっていた。
「くぁぁ、ここの酒はうめぇな」
竜河はうまそうに三津の里の酒を飲んでいる。
さとうきび畑をみつけたときに、俺は、ここに砂糖と酒があると予想していたんだ。
砂糖があるはもちろん、糖度の高い作物があれば、酒造りがはじまるのは必然の流れだ。
さとうきびからはラム酒や焼酎などが作られる。その知識はあるけど、この酒がラム酒であるのか他のものかは飲んだことのない俺には判別はつかない。
俺たちのいる家の前は広場になっていて、たぬきがそこで火をおこし鳥と豚を丸ごと焼きはじめた。
この里ではニワトリと豚を家畜として飼っているらしい。
おなじ鳥類なのにニワトリを焼くとか、スズメ的には大丈夫なのか?そう思ったが、俺だって哺乳類の豚を食べるし似たような感覚なんだろう。
華やかな但馬の都、人の営みの力強さを感じる播磨の国、先のふたつの国にはない幸福な暮らしがこの里にはあるな。
俺が訪れる前の、外界から閉ざされた天狗の里もこうした安らぎに満ちた場所だったのかも。そう考えると、罪深いのが俺か清明かわからなくなってくる。
肉の焼けるいいにおいがしてきた。丸焼きもいいけど、鳥といえば唐揚げだよな。
唐揚げが食べたくなった俺はスズメの村長に頼んで台所を使わせてもらい、唐揚げを作ることにした。
唐揚げに必要なもの、まずは油だ。料理係なのか、エプロンと頭かぶりをしたたぬきが場を仕切り、俺の世話を焼いてくれて、腰に巻く布も出してくれた。
そのエプロンたぬきに大量に油がほしいというと、ここでは料理には豚の脂を使っているというので、それをもらって鍋で溶かすことにした。
たぬきとスズメ用の台所は地べたに座って使うような低いもので、身長175センチの俺には使いづらかった。それでも鍋やかまは大人数用らしく相応の大きさがあり、それなりの調理ができた。
さばいてもらった鳥肉を唐揚げ用にカットして、塩をもみこんで油に投入。カンタンレシピの塩唐揚げだ。
油をつかって揚げる調理法はこの里にはないようで、台所にいたたぬき連中が驚いていた。
どんどん唐揚げを揚げていく、鳥3匹は揚げて、山盛りになった中からひとつつまんで口に入れる。
あつあつの唐揚げは、歯にも熱く、じゅわっと肉汁があふれて最高に美味だ。
肉や魚は油で揚げればだいたい美味い。ここは豚も揚げちゃいたいね。
エプロンたぬきに小麦粉があるかと聞くと、あるという。ここでは平焼きというクレープというか餃子の皮みたいなものを作って食べてるようだ。
台所に乾いた平焼きをみつけ、それを砕いてパン粉のかわりに使うことにした。
そう、俺の狙いはトンカツだ。
豚肉、塩、小麦粉、鶏卵、砕いた平焼き、なかなか完璧な布陣ではないか。
そして、トンカツには大事なものがもう一つ、それはソースだ。
竹筒に入った煮卵の漬け汁、これに砂糖をたっぷり入れて煮立て、すっぱい酢のような調味料と塩で味を整えてトンカツソースっぽいものを作った。
衣をつけた肉を油に入れると、じゅわぁ~パチパチといういかにも旨そうな音を立てる。
10枚ほど肉を揚げ、ザクザク切ってソースをかけて完成だ。揚げたてのトンカツ。これはもう期待しかない。
俺が揚げたてのトンカツを山盛り持って席に戻ると、先に出しておいた唐揚げがもうなかった。
「あんだけ大量に揚げたのに!俺のぶんまで喰ったのかよアホ竜」
「いやぁクッソ美味かった、そいつはなんだ?それも喰わせろ」
俺はトンカツ2枚をとりわけて、残りを竜河にやった。
竜河は2メートル20センチぐらいあるのか?とにかくデカくて胸板の厚さは樽のようだし、喰うだろうと思ってはいたがトンカツ5切れがひとくちだ。
「なんだこりゃ!めちゃくちゃいける。このタレ気にいったぞ。クッソうめえなあ」
トンカツをガツガツたいらげ、さらによこせと要求する竜河、たぬきが焼いている鳥と豚の丸焼きはまだできてない。はやく焼けてくれないとヤバイ。俺のトンカツが奪われる。
「竜神さまー、おかーわりおもちーしーました」
エプロンたぬきが鳥の唐揚げを作ってきてくれた。なんて気の利くやつだ。
しかも俺の作ったヤツより美味かった。
そして、ほふらないと豚肉がないので鳥でトンカツを作りましたとチキンカツを出してくれた。
チキンカツ。これはソースをかければチキン南蛮になるんじゃないか?
甘酢のタレはすぐに作れるし、酢漬けの漬物も里の住人の貢物のなかにあった。
あとマヨネーズがあればタルタルソースができるな。マヨネーズの材料は卵と酢と、あとなんだっけ?俺は結界を解いてカバンをもそもそあさった。
「卵黄とサラダ油・酢・塩をまぜあわせて乳化させたソース。卵黄と酢と油か。なるほど」
「なんだそりゃ、料理用の書物か」
「あぁ、これは国語辞典だよ。調味料のレシピなんかも意外と載ってるんだ」
カバンから取り出したのは俺が中学から愛用している国語辞典だ。
それと電子辞書。とくに電子辞書には百科事典と料理辞書もついてるからマヨネーズの材料の各分量も載っていそうだ。とはいえ電池がもったいないし、この程度わかれば十分なので起動はしない。
__百科事典か。確か武器や科学的なものも細かく掲載されていたような。
俺はハッとした。うっかりしていたが、冷静に考えればこいつは俺がヤバイと判断して隠しもっている『武器の歴史』のムック本以上にヤバイブツだった。




