甘い野望そのはじまり。
ひとつ補足しておくと、俺たちは全裸だ。
俺がドラゴントランスフォームを使ったのは今回で3回目になる。
初回は天狗との相撲の時で、パンイチだった。2回目は出雲国を偵察した時、この時は服は脱いでたたんでおいたんだ。
さすがに今回は突然すぎて脱いでたたむ余裕はなく、着ていた服は破けて川に流されてしまった。
俺の持ち物で無事だったのは肩かけカバンだけだ。これは結界でガチ固めして俺の身体にくっつけているから紛失の恐れはないけど、紐の部分は破けてしまい、いまは紐を結んで斜めがけにしている。
もう一度言う。俺たちは全裸だ。さっきまでは確かにそうだった。
しかしなんということだろう。全裸は俺だけで、竜河はいつのまにかキッチリ服を着てるじゃないか。
これは竜神の力か?服を具現化させたのか、人間に変化できる能力は着衣の人間への変化もたやすいということなのか?
そうした疑問は置いといて、全裸は俺のみで、非常に恥ずかしい状態になってしまったのだ。
俺があせってカバンの紐を腰に巻いて前を隠してると、竜河は帯刀していた刀を抜いて、たぬきを切ろうとしていた。
竜河のそのふるまいで、俺たち二人を敵と認識した森の住民たちは興奮し、ギャギャと鳴きはじめ、木をゆすり頭上を跳ねて飛び交い、森は騒然とした雰囲気に包まれた。
多勢に無勢ながら、竜河の本性は巨龍だ。森の動物などたやすくほふってしまうだろう。
「まていっ!竜河っ!コイツらは俺の友達だ」
ん?という表情の竜河、動きが一瞬止まったものの、俺の友達でもおいしきゃ喰うし、みたいな感じで改めてたぬきに剣をむけた。
「まてええい!コイツらは宝をもっている」
「ほう、お宝かぁ?たぬきは肉が一番のお宝だろうが。ほかに何があるってんだ」
俺は目の前のたぬき3匹のうち、まだ2足で立っている1匹のたぬきに話しかけた。あとの2匹は興奮して野生の獣にかえり4つ足でシャーと威嚇していた。
「おまえたち、アレをもっているだろう」
「アレとはなーんだぁ」
「アレだ、えっと、そうだ、さとうきびから作る酒、ラム酒だ」
たぬきはギクリとし、ますます警戒姿勢を強め、後方になにやら合図をした。
「おめさまぁー淡路のおひとかぁー、こりねぇーでまたきただかぁ」
「違う、俺たちは…」
潜んでいた獣人たちが一斉におそいかかってきた。ボサボサ頭の子鬼、大蛇に、一本足、こいつらは妖怪か。そして竜河はヒャッハーな笑顔で大太刀の切っ先をのばした。
「グラビティゾーン」
俺はスキルを発動し、その場にいた連中をまとめて地面に押し付けた。
ゾーンの及ぶ範囲は半径10メートルほどか、その外側の妖怪たちはペシャンとつぶされた仲間の姿におじけずいて尻込みしゾーンにはいる様子はない。牽制の効果はあったようだ。
けれど、いまの加重は足止めていどのもので、さすがにマッスルな大男を完璧に封じることはできない。竜河は圧力に耐え、ぐっと足に力をこめて立ちあがり、憎々し気に俺をにらんだ。
「まてって竜河、コイツらにうまい酒とメシを用意させる。ちょっと落ち着け」
「てめぇは、またくっせぇ妖術使いやがって、ふざけんな。早くメシ食わせろ」
竜河の口調は荒くいらだってはいても、闘争本能より食欲が勝り、すべてに優先されているようで、まだほんのり聞く耳はあるようだ。
つぎは重力でフサフサの毛がぺったりになっているたぬきとの交渉だ。
「おい、ここで命を落とすか、村の一日分の食料を差し出すか選べ」
「はひぃー、お助けくだしゃーれば、なーんでもしますぅ」
「ありがとう!感謝するぜ、おまえたちは俺の友、心の友と書いて心友だ」
たぬきを心友と呼ぶ俺の気持ちに偽りはない。
上空からこの阿波国をみたときに、川沿いに広がる森、そして南方にサトウキビ畑がはっきりと確認できたんだ。どうやらこの素晴らしい大地では、俺が望む宝『砂糖』がわんさと採れるようだ。
その畑の主、たぬき連中は俺の心友、ぜひともお近づきになりたい相手なんだ。




