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阿波の森。

おっさんの話がしばらく続きます。

ますますチーレムから遠ざかっていくのがつらい…。

むりやり飛翔させられ興奮した水龍は、嘆きが怒りに転じたのか瞳に炎をやどし咆哮した。

黄色い虹彩に細長い瞳孔、そのワニにも似た眼は冷酷で残忍、狂った野獣の眼だ。


人の耳には届かない高い波長の声を響かせ、水龍は金色の龍となった俺ののどぶえに喰らいついた。

ドラゴンにトランスフォームしていても俺のリフレクトスキルは発動している。

痛みが己に跳ね返り苦痛に身をよじろうとも、水龍は人の姿であった時と同じく、暴力ですべてを従わせようとし、さらに牙をたて爪を喰い込ませる。

自分自身に力をぶつけ、王者の風格のある飾り毛を己の血でぬらし、陽に輝く壮麗なウロコの皮膚を自らの爪で切り裂く、これは自傷行為だ。


地上のひとびとは突如として現れた2匹の巨大な龍に何を想うのだろう。

あがめてきた播磨の竜神が血を流し争う姿に恐怖を感じるのか?ケンカ上等の脳筋なあの国の民は血沸き肉躍る対戦に声援を送ってるのかもしれない。

しかし砂粒のような地表の人々の表情は読み取れない。



ここまできて俺は、竜神の力を侮っていたことに気づいた。

龍は雨を呼ぶ、それが水龍ともなれば水をひきつける力は自然の暴威そのものだ。


晴れ渡っていた空には暗雲がわき、あっというまに空を覆いつくした。分厚い雷雲からは放電がほとばしり、2匹の龍の姿を浮き上がらせる。

すざまじい風とたたきつける雨、そして落雷。水中にあっても天空にあっても竜河は竜巻を呼んだ。

この嵐の中では木造の民家などひとたまりもない。


「八つ当たりで天災おこしてんじゃねえよ。冷静になれ、怒りを鎮めろ!」


俺からの反撃、水龍に身体をぶつけ絡み絞り上げる。水龍の反発する力も入れて2匹分のパワーだ。

苦痛に顔をゆがませる水龍は、豪雨にうたれる地上の人々にもあきらかに劣勢と映るだろう。


「頭を冷やせ!自分の民にみっともない姿晒して恥ずかしくないのか」


それでもあがく水龍を力ずくでねじ伏せる。正気を失った獣の勢いはなかなか消せない。

天空を横切り絡み合った俺たちは集落のない播磨の対岸、延々と濃い森が広がる平野に轟音とともに落下し木々を押し倒し丘すらなぎはらい、地面を転がり揉まれあった。



力を一気に放出し疲れ切ったのか、抵抗をやめ長くのびる水龍。そして嵐の中、森の水龍はべそべそと泣き続け、小一時間たったころようやく落ちついたのか、雲の切れ間から陽がさしてきた。

そして、空が晴れると、竜河はゴフゴフせきこみながら人の姿に戻った。



しゅんとして頭をたれ、木を背にへたりこむ竜河は「腹減った」と、メシを要求してきた。


さんざん暴れて腹ペコを訴えるとか、自由すぎる竜河にあきれるが、俺も朝に屋台のイカを食べたっきりで、メシと聞くともうれつにお腹がすいてきた。

俺の手持ちの食料は、2晩たって味が染み染みの煮卵3個と、かばんにあるのど飴だけだ。

水難の卦があるのか、俺はこの異世界に来て何度も水に落ちている。もし結界でガチ固めしてなければかばんの中身は水浸しで、のど飴は溶けてスマホも充電器もダメになっていたことだろう。


荒れた森に2人でいても仕方ない。

播磨に戻って食事をとろうと俺が提案すると「まだ帰りたくねぇ」と竜河のおっさんはプィっと横を向いた。おっさんがすねても可愛くもなんともない。むしろ腹立たしい。

とはいえ、すさんでる竜河を連れて帰るのも、ひとりにしとくのも不安が残るんだよな。俺が思案にくれていると竜河はとうとつに「火の用意しとけ」と言い出した。


「濡れたを身体かわかすのか?」

「ちげぇよ、メシだ。肉が来た」


この阿波と呼ばれる国の深い緑の森は、日本というより、亜熱帯寄りのジャングルに近かった。

あたりを見渡すと、背の高い木の幹から垂れさがるツルに、サルらしき生き物の群れがぶらさがっている。茂った草むらには、たちあがった熊のような動物のシルエットがいくつも見えた。

野性味たっぷりの竜河は、このけものを狩って焼いて喰おうというのだ。


ど派手に暴れた俺たちに驚いて逃げた森の動物たちが戻ってきたのか、あるいはなわばりの侵入者を偵察にきたのか、あちこちに身を潜めている気配を感じるが、こちら側が狩られそうな数のけものが集まってきていた。


草むらがガサガサと動き、けもの道に先ほどの熊のような生き物が現れた。

小柄な女性ほどの大きさで茶色くてフワフワの毛並みに丸い体型、これはたぬきか?

たぬきは葉のついたツタを腰に巻き、首には白い石のネックレスのようなものを下げて、両手で棒を持ち二足歩行している。


「おめさまだっちぃ、なーにもんだぁ、おらっちの森になーにしにきただぁ」


たぬきがしゃべった。民家はないと思ったが、どうやらこの辺りには獣人が住んでいたようだ。

この場の代表らしいたぬきが3匹、木が横倒しになり見通しの良くなったあたりまで歩を進めてきた。

ここはひとつ詫びをいれておくべきだろうか。

チラリと竜河を見ると臨戦態勢というのか、筋肉がパンプアップしパンパンに膨れ上がっている。


「よく肥えたたぬ公だ。焼くのもいいが、たぬき汁も捨てがてえな」


どうやら、一度走りだした脳筋には軌道修正が効かないようだ。

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