暑苦しい絡み。
岸壁にそそり立つ姫川城は水面からかなりの高さにある。
脳筋に顔面をつかまれたまま天守から落とされ、背中から水面にたたきつけられるとプロテクトの効いた俺の身体にも衝撃が走った。
派手に水しぶきを上げて、俺たちふたりはそのまま川底へとぶくぶくと沈んでいく。
水に沈む中、水中の岩壁に洞穴があり神社の鳥居があるのが、竜河の手のひらのすきまから見えた。
そこに例の蛟がウヨウヨといて無数の目を不気味に赤く光らせている。
川の流れは底に近づくほどに力強く、俺と竜河は水にもまれ、いつのまにか抱き合いからむような形で水に流されていた。
暑苦しい筋肉にびっちり緊縛された俺は、竜河の肩にできた筋肉の小山のうえにアゴをのせ、なにこれ?と呆然とするしかなかった。
水の中で荒く息を吐く竜河の筋肉は熱く固く、非常にキモくて迷惑だが、どうやらヤツは泣いているようだった。
転移で逃げようにも、こうもくっつかれてるとやつも一緒に転移してしまう。
俺は竜姫と結婚する気はさらさらないし、落ち着いて話せば誤解も解けるだろうと水中に結界を作って水の流れを遮断し水底に足をつけた。
「ぶごおおおぉ!竜姫は結婚なんてしねぇんだよぉ!だれにも渡せねぇ俺の俺のもんだぁあ」
竜河は声をあげてまるでダムのように号泣している。血の気も水っ気も多い男だ。
かけていた黒のサングラスは水に流されたのか、竜河の長いまつげが誰得なかんじで晒されていた。
「グズッ、てめぇまじで水ン中で息ができんだな。ヒック、まじで俺の子孫なのか」
あふれ続ける涙と鼻水で、水のない結界の中を水浸しにする竜河が黄色い竜神の目で俺をみつめた。
「俺はお前の血は一滴ももらってないよ。竜神さん」
鑑定するまでもなく、俺の心眼で人に化けた竜河の正体はわかっていた。巨大すぎる竜神の気は周囲の空間にゆがみを生じるほどのダダ漏れっぷりだったからね。
「俺が竜神だって知ってんのか、イザナミしか知らねぇのに。聞いたのか?なんでだよ。誰だよてめぇ」
攻め口調で威勢よくふるまいながらも、竜河はボロボロ涙をこぼし続ける。
「俺はぁ播磨の守護神だ。大事にしてきた。なんでもしてやった。なんでこんな仕打ちすんだよお」
「まぁ落ち着け、まずな、俺は竜姫と結婚しない。そこは誤解しないでくれ」
「でも、ウグッ、てめぇじゃなくっても、竜姫はもうすぐ婿とって、誰かのモンになんだああああ」
興奮した竜河は俺につかみかかって、咆哮のような泣き声をあげると同時に結界を突き破り、巨大な青い龍に変化した。
身もだえし泣きながら荒れ狂う水龍は、川の水を巻き上げ、水底の巨石さえもその渦でゆさぶり天高く飛ばした。天空に新たに大河を作るような、その暴力的な破壊力の水竜巻は、川の両岸の町に相当なダメージを与えるだろう。
感情を制御できず、力を放出し暴れる水龍。自分が愛し守っていた竜神の末裔たち、播磨の国の民のことも忘れ去っているようだ。
「冷静になれ!おい落ち着けって、おいこの脳筋龍!」
俺はドラゴントランスフォームで龍化し、水龍の手から強引に抜け出すが、逃亡をゆるさない水龍は巨大な身体を巻きつけてくる。
龍が2匹になり質量が2倍に増えて渦の勢いも激しさを増した。このままでは、被害が広まってしまう。
俺は暴れる水龍をむりやり水から引きあげ上空へと跳んだ。2匹の龍は絡み合ったまま、空高く飛翔し晴れ渡った空の陽の光を遮った。




