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サプライズおかわり。

この状況をどう理解すればいいのだろう。

目の前にいる御簾の奥のイザナミ様は、どうみてもミイラだ。


金糸銀糸の豪華な着物を着て、同じくキラキラした派手な衣装を着た男の頭を膝の上に乗せているが、その社会人の年頃に見える若い男は身体を丸めて自分の親指をちゃぷちゃぷ吸っているんだ。

ミイラと書いたけれど、イザナミの手は完全に白骨化していて、その指に金の装飾をジャラジャラつけて男の頭を終始なでまわしている。

お局の皆さん、かずら婆さんも、この異様な光景をスルーしてるのがまた気持ちが悪いというか、たきしめた香とミイラの放つ悪臭で俺はマジで吐きそうだった。


いままで考えないように頭のすみに追いやっていた日本神話のイザナミ、そしてククリヒメが俺のリアルに介入し始めた。

図書館で見た書物にはイザナミは黄泉の女神で腐敗した死体という描写が確かにあった__。


「イザナミ殿の申す通り、よく造られた()の子じゃ。私の(あか)には負けますがのう」

ミイラがふたたび声を発した。


「え?このかたはイザナミ様じゃないのか?このかたはいったい」


俺がすっとんきょうな声を上げると、かずら婆さんは、たしなめるような表情で俺を見た。


「こちらにおわすおかたは、先の姫川城の城主であり、八代一族を束ねる柱であられる八代花竜(やしろかりゅう)殿とご子息の政竜(まさたつ)殿である」


な、な、なんだってぇ!?ミイラは菊理姫のお母さんじゃなかった。竜姫のお母さんだったか。

かずら婆さんは趣味の悪いサプライズを仕掛けてきたようだ。冷汗を浮かべて緊張していた俺は、ミイラがイザナミでないとわかってほっとはしたが寿命が5年は縮まったぜ。


「イザナミ様はあちらにおわすおかたじゃ」


はっ…こんどこそ心臓が止まるかと思った。サプライズの二段仕込みかよ。



イザナミは座敷ではなく川沿いの廊下に置かれた椅子とテーブルの席にひとりで座っていた。


逆光に浮かぶその姿は、ストレートの黒のロングヘア、白に紺の襟のセーラー服と濃紺の長靴下。

これはどうみても女子中学生。見覚えのありすぎるその顔は、俺の家の近所に住む和菓子屋『豆虎(まめとら)』の娘、寅丸紅子(とらまるべにこ)だ。


「どうした!紅子、お前も召喚されたのか」

「いやいやいや違うし、ほら私どうみてもイザナミじゃね?」


どのあたりが日本神話的なんだろうか。どこの角度から見ても俺の弟の同級生のJC紅子だ。

けれど身にまとう雰囲気が重厚で、冷たい瞳は人外を感じさせた。


「ほら私も長く神っぽいことしてるしあきるのよ。時々だけどね、分身を飛ばして現世生活したりするわけ、もちろん現世にいる間は自分がイザナミって意識は消してんだけどさ」

「ほんとにおまえがイザナミ様なのか」


俺はごくりと喉を鳴らす。菊理姫の身内という以上に、人の間に紛れたこの得体のしれぬ影の存在を恐ろしく感じた。


「私がイザナミっていうか、例えてみれば電話の音声みたいなもんだね。この身体はただの受話器。こわれても替えの利くものだね」

「紅子の身体をのっとっているってことかよ」

「いやいやいや、身体くらいちゃちゃっと作れるし。神も人もサッと作れるのが特技なんだけど」


この会話を聞いていた花竜はずいっと身を乗り出した。

「ならばイザナミ殿、私に新しき肉の身体を作ってくださらぬか、若く美しき身体をお与えくだされ」

2年前に亡くなったはずのミイラ化した元城主は、いまだに生と美貌に執着してるのだろう。膝の上に乗せた愛息(ペット)を転がす勢いでせまった。


軽いタメぐちをたたいていた紅子ことイザナミは口のはしで愉快そうに笑った。


「そちは恐れを知らぬな花竜。死と腐敗を否定するとはな。冥府を嫌うか?ならば冥府に招きはせぬ、この場で魂魄ごと塵となるがよい」


イザナミの口調が変わった。このノリは菊理姫にそっくりだ。やはりこれは紅子でなく、イザナミ、菊理姫のお母さんに間違いない。



一方、花竜はおびえ「ひっ」と声を上げて政竜を抱きしめる。母親に抱かれた政竜は「お花、だれだよコイツ、悪いヤツなの?赤が成敗してあげるよ」などと言う。赤というのは赤ん坊の赤か?まったくこの場にはイカレたキャラしかいなのか俺以外には。


「塵とかさ、しないけどね。おまえらネタの宝庫だし、ありがたくヲチするし」


紅子こと、イザナミは花竜親子には興味あるのかないのかわからない態度を見せたが、急に真顔になって俺の触れられたくなかった話題にさらっと踏み込んできた。それもおかしな角度から。


「総司、あんたには菊理はやれないから。かわりに竜姫と結婚しなよ」

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