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婆さんに全部もってかれる。

俺が異世界に来てから今日で7日目、天狗の里を出てから丸1日たった。

いまの俺のステータスはこうだ。



 【 名 前  】 猿渡総司

 【 官 位  】 なし

 【 レベル  】 999

 【 PT   】 菊理姫

 【 パッシブ 】 状態異常無効、物理攻撃無効、魔法攻撃無効、心眼

 【 パッシブ 】 自動回復、蘇生、水中呼吸、リフレクト、跳躍

 【 スキル  】 壁抜け、転移、透明化、魅了、鑑定、プロテクト、ヒール

 【 スキル  】 エアスラッシュ、電撃、結界、マジックキャンセル

 【 スキル  】 グラビティゾーン、ドラゴントランスフォーム

 【 スキル  】 




俺らしく、防御、逃亡、威嚇、足止めスキル中心の構成になっている。

ひと枠を追加スキル用に残してあるが、広範囲の殲滅魔法はできる限り使いたくない。

殺傷力の高いスキルは効果的でも俺にとっては後味が悪すぎるからね。1度だけ使ったデスも相手が式神でなければ後悔してただろうしな。

トランスフォームは飛行能力があって丈夫な生き物、なんならぬりかべでもいいが、とりあえずここは弟子入り志願者が出るほどにインパクトのあるドラゴンを残してみた。




俺がスキルをいじっていると、天狗兄弟が怯えた顔つきをしていたので何事かと思ったら、洞穴の奥の牢から戸板に乗った死体が運ばれてきた。

あれは、竜姫に吹き矢を放った売り子の女だな。

結局、竜姫暗殺の目的や雇い主を聞き出す前に矢の毒が回って死んでしまったらしい。その遺体が岩屋の外に運び出されるところだった。


しかし、俺の心眼でみると、どうも売り子の女は心音を弱めて仮死状態を演じているようだ。


「吉沢さん、その女は死んだふりをしてるだけで、まだ生きてますよ」

「なんと!?女を外に出してはならん。すぐに牢に戻せ」


吉沢さんが牢番にそう命じると、生気もなく横たわっていたはずの女がガバッと跳ね起き、天狗兄弟がおどろいて「キヤァァ~」と、女子かよ。っていう悲鳴をあげた。


「よくみやぶったね、小僧っこ」

憎々し気に俺をにらむ女の着物が裂け、顔がボコボコとふくらみ、異様な音を立てて全身が変形していく。女は異形の本性をあらわした。

それは、大柄な男ほどの大きさで、赤と黒に黄色の混じるまだら模様にイボだらけの皮膚、売り子の女の正体は毒蛙の化け物だったんだ。


「矢毒は浜蛇の毒じゃないのにさぁ。あんたぁ…あたしの毒をよくも消してくれたわねぇ?手柄を台無しにしやがって、いまいましい小僧っこめがっ」


毒蛙は俺たちに向け、背中の無数のイボから毒霧を噴き出した。

黄色い毒液をあびて「ひぇ」ところがる天狗兄弟。状態異常無効で毒攻撃は効かないはずなんだけどなぜかアワを吹いている。

俺のリフレクトで毒蛙も毒液をあびているが、もともと自分の体液だしやつにもダメージはない。


毒蛙はビュっと長い舌を飛ばし、岩のへこみに格子をはめ込んだ2階建ての牢の角材に巻きつけ、力任せに引き抜いた。その勢いで格子を支えていた天井が崩れ、土砂と倒れた格子に囚人が逃げまどう。

そして、毒蛙は舌を使い角材を岩屋の入り口の鉄柵にぶつけた。

その一撃で鉄柵は歪み、毒蛙はさらに鉄柵に角材をたたきつけ、槍で突こうとする牢番に毒霧を飛ばして牽制し、脱出をはかっている。


「グラビティゾーン」俺は毒蛙を重力で押しつぶした。

ぐぇっと地面に押し付けられた毒蛙は、その場から動けないながらも、牛も飲み込めそうな大口をあけて牢番のひとりを長い舌で捕獲しひきよせ飲み込んだ。


グラビティゾーンでのどもつぶされてる毒蛙は牢番を飲み下せず、牢番の足は毒蛙の閉じた口からはみ出しばたばたともがいている。狭くなった毒蛙ののどに頭をねじこまれ、そのうえグラビティゾーンの圧力も受けて牢番は「お助けくだされ!つぶれる」と叫んだ。


敵でもない人間を圧死させることはできない。俺はスキルにスタンをいれて、牢番にダブルのダメージを与えぬようスタンの前にグラビティゾーンを解除した。

重力から解放された瞬間、牢番を吐き捨て、毒蛙は驚くほどの跳躍力で壁を蹴り、一気に洞穴の奥の水たまりに飛び込んだ。地に足のついていない相手にスタンの足止めは通用しなかった。


「ひゃはっはっ、人間風情が水中であたいを捕まえられるもんなら捕まえてごらんよ」

洞穴中にひびく笑い声をあげて、毒蛙は川と繋がる水たまりに沈んでいった。


なすすべのない牢番たちの見守る中、毒ガエルが潜った水面は波紋をひろげるが、すぐに静まり水は暗い塊となった。


__そして、水面ににじみだす赤い血の色。

「ぎゃあぁ」水から飛び出したのは、断末魔の叫びをあげる毒蛙。そして毒蛙に喰らいついてその身体をかみ砕いているのは、平たい頭にサメのような無数の牙をもつ、蛇に似たウロコの生えた細長く巨大な生き物だった。


(みずち)さまじゃ」牢番がそうつぶやく。


血まみれの毒蛙をひきちぎる数匹の蛟は、水しぶきをあげて空中で狂ったようにのたくっている。

光の届かない洞穴の深部では蛟の姿はおぼろげにしか見えず、毒ガエルの悲鳴と水音だけが強く響き、そのおどろおどろしさで蛟への恐怖が増幅されるようだった。

腹の奥から感じるもの恐ろしさに、誰もその場から動くことはできなかった。


「恐ろしい門番が水底にいたようじゃな」

「蛟は言葉のつうじぬ凶暴な妖ゆえ、水を伝って川へ逃げようなどと愚かなことは考えぬことじゃ」


白髪の長い髪に薄い藤色の打掛を着た妙齢の美女が、岩屋の入り口に立ちハラリと扇を広げた。


「牢番殿、そこの3人を牢より出していただけぬか」

「総司殿、夏角、雨角、ワシについてまいれ」


扇で口元をかくし、その美しい女は舞うような優美なしぐさで俺たちを招いた。

腰を抜かしてちびっていた雨角は、麗しいその美女の登場にほうけたようなゆるい声をもらした。


「あ~あなた様は天女様でございましょうかあ」

「ほほ、天女とな。ワシはかずらの婆じゃ。どうじゃ見違えたであろう」


妖しく流した妖艶な瞳は、白銀に藤色がさしてとても美しい。シワシワの婆さんがここまで美しく化けるとは、感嘆の声をあげるしかない。さすが高レベルの妖怪、九尾の狐さまだ。

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