幼女と絵本。
__公募推薦は出願しなかった。
俺の志望する仏教系大学の合格難易度は低く、努力すれば楽にクリアできるものだった。
その進路に進みたいのか否かあやふやなままで、落ちればいい、でも合格するかもしれない。そんな不安定な気持ちのまま、努力を放棄し受験した。
自己採点で最低合格点に達してないのは知っていたんだ。それでもわずかに合格の可能性があった。
合格発表の日、わかっていたはずなのに掲示板に自分の受験番号を見つけられなかった、その時に俺の得た感情はたしかに絶望だった。
自らは拒絶しておきながら拒絶されたと知ったときの絶望、足元の崩れるその感覚。
人外との未来の見えない恋愛に、だめになるならそれもいい、でも一緒にいたい。そんな中途半端な気持ちで、それでもやっていけると心のどこかで考えていた俺はホントに愚かな男だった。
そしていま、大学受験に失敗したときと同じく、自らが招いた絶望を味わおうとしている。
俺は、この場に及んでやっと、彼女と向き合う覚悟ができた。
それは自分が本気になれば望みはなんでもかなうという、幼児的万能感なのかもしれない。
彼女を傷つけて嫌われてしまった。そしてお互いの感覚の違いは埋まることのない溝に思える。
それでも菊理を失いたくなければプライドと正論をねじ曲げてもやるしかない。
いまこそみせよう。俺の本気のDO・GE・ZAを!
夢に落ちた俺に気づき菊理姫は視線を伏せた。
そして、すこしふるえる唇をきゅっかんで、それからため息とも違う長い息を漏らした。
「菊理が悪かったのじゃ。我の罪を軽め、許し給へ」
土下座スタンバイをしていた俺に衝撃が走った。先に謝られるだと!?きょうは踏まれたり燃やされたりしなくていいの!?
「総にうとまれるのは嫌じゃ。総は菊理を嫌うてはならぬ」
暗く沈んだ菊理姫の声、小さくはかなげな細い肩も小刻みに震えている。俺はたまらずに彼女を抱きしめた。
「嫌いになるとか離れるなんて言葉は俺たちの間にはもうないから」
「だから自分を曲げてまであやまらなくていいんだ。怖がらないで、クーの本当の気持ちを話してほしい。時間がかかってもちゃんと受け止めるから」
「菊理をうとんじておらぬのか?」
「大丈夫だよ、怒ったりケンカすることがあっても大好きな気持ちはかわらないよ」
「総…菊理の殿」
俺たちは抱きあい目を閉じてくちづけを交わした。
「であれば、すぐさま女キツネの巣を焼き払うて、一族郎党、八つに裂いてくるのじゃ」
素直になった菊理姫から物騒な発言が飛び出した。確かにこれがいつもの彼女なんだけれども。
幼女の可憐さとは真逆な残虐な中身は、すでにギャップ萌えなどという甘やかな刺激を超えた。
男の俺が唇を奪われた程度で相手を虐殺するのはさすがによろしくない。菊理のいまの感情は嫉妬というもので、俺たちふたりの間には不要なものだと、俺はご機嫌とりつつ必死の説得をした。
「嫉妬…、それは殿方にうとまれる、みにくしものと伝うのじゃ」
嫉妬で人を八つ裂きにするのはいけないことだと、そこはなんとか理解してもらえたようだ。
どうやら前回とは違う女官に色々と諭されたらしい。きょうの謝罪もその女官のアドバイスのようだ。
ぐっじょぶ女官。まともな人間風の人物に菊理のそばにいてもらえてマジで助かった。
「女官より、とりあつめたる夫婦和合の指南書をもらうたのじゃ」
女官さんは俺たちの仲直りのために色々と手をつくしてくれたようだ。
菊理姫はとてもうれしそうに、女官からもらった本と巻物をかかえて、でかい座布団に俺を座らせ、自分は俺の両足の間にちょこんと腰を下ろした。
美しい布が表紙のその本は、枕絵、つまり男女のからみあうエロイ場面を描いた浮世絵だった。
「これなるが総で、足を開いておるのが菊理じゃ」
俺の5倍はあるものを突き立ててるのが「俺」着物を乱してふさふさの股間にでかい貝のようなものがついてるのが「菊理」とにこやかにいわれる。
女官のアホは俺の姫になに教えてくれちゃってんの!?ふざけんなよ。ぐっじょぶ撤回だ。
菊理姫は胸のふくらみもまだほんのりだし、無毛でつるつるなんだ。
自分と枕絵の女性のあまりにも違う姿かたちにメルヘン的な何かを感じているのだろうか?黄泉国のアンデットや怪物を見すぎてこの程度の異形では動じないのかさっぱりわからない。
巻物になった四十八手も一手ずつ、かなり精密に描写されている。
「菊理は、絞り芙蓉と帆かけ茶臼と抱き地蔵がいいのじゃ」
ファミレスでメニューをみて料理と飲み物とデザートを選ぶかんじで菊理が指さしていく。
えっちな本をガンガン見せられて、俺もなんだかおかしな気分になってきた。
俺の目の前に菊理の柔らかい身体ときらっきらの頭皮がある。1分、いや3分だけ自粛を解除だ。
菊理姫を背中から抱きしめ、髪に鼻をうずめて幼女の頭皮の匂いを肺まで深く深く吸い込む、至福すぎるこのひととき。
俺の興奮が伝わったのか菊理の体温が上がり、その熱で汗と脂の匂いが強まり頭皮の匂いが変わる。
こうした体臭とあわせて、外気に触れる髪と頭皮は毎日その香りが変化する。
彼女が過ごしていた部屋の畳の香り、花の香り、砂交じりの埃、料理の匂い。彼女の一日を想いながらほんの少しだけ舌をはわせ頭皮を味わう。至上の美味なりだ。
頭皮から唇を離すと菊理姫はわずかに荒くした息をおさえながら、白い表紙の和本を手にとった。
「菊理はおなごゆえ、おぼめかしながら、殿方にこの手順は必然なりか」
それは墨絵にピンクの色付けをした、細かい解説文付きのお口でする指南書だった。
その解説文を可愛い声で読み上げる幼女。
「唇淫にて精汁を吸い取る法。右の手にて_をにぎり」
そろそろヤバイ感じになってきたモノを、俺の両足の間に座る菊理に当てて気づかれぬよう、そっと腰を引く。
幼女の唇から出るな卑猥な言葉にぐらぐらさせられて、いい加減にしろよ女官と、ぐっじょぶ女官な気持ちが交互に現れては消えいった。




